9 情報屋
リーダー格と思われる男が入って行ったのは、新宿にある、とある建物の二階部分。
つか、ここって……まさに裏の人間たちの世界なんじゃねえのか?
アノ男が入っていく先の扉の前には『壬生事務所』の文字が。というか、看板があった。
見る人によっては、危なそうな場所……かもしれない。
「うへぇー……なんか、マジモンのとこじゃね?ここって」
「でも、『壬生事務所』としか書かれていないわね……」
渚さんは落ち着いているのか、常識が少し欠けているのかここは危なそうな場所とは考えていないらしい。
「いやいや、事務所ってそういうトコだろ!?」
「……そういう所って?」
とうとうカスミも気になってたずねてくるが、こういう場合、なんて説明してやるのが正解なんだろうか……。
「あー……ヤバそうなヤツらがいる所って意味、か?」
「……さっきの男は、ちょい雰囲気が違った感じがしたけれど」
裏社会的な人間だったら、もっと基本的な圧があるというか……近寄りがたい感じがするはず。
でも、さっきの男は部下たちに物騒なモノ……銃は持たせていたもののそれほど危険な人物か、と聞かれると迷ってしまう。
「そうか~?」
「どうしました?もしかして怪しいブツを取り扱っているのか、とご心配されているのでしょうか?」
ひょいっとドアから顔を出してきた男が、相変わらず人の良さそうな笑みを浮かべている。
あまりにも穏やかそうだからこっちの方が戸惑ってしまったぐらいだ。
「「!?」」
「ご安心を。『事務所』と書いていますが、そうそう特別な人間ではありませんから。それに……こちらを見ていただければ、同志と認めていただくことは出来ますでしょうか?」
おもむろに男の手のひらから差し出されたモノは、石の色は異なるものの、やっぱり俺たちが持っているモノと同じモノらしく、一番先に渚さんが反応していた。
「!それ……」
「敵、ではないと見ましょう。……私は……」
まだ完全に安全!とは言い難いかもしれないが、渚さんは敵ではないと判断したようで自分も名乗りだそうとするが男に止められ、事務所の中へと入ることになった。
「まあまあ!立ち話も何ですから、こちらへどうぞ。それに……あまりそういうことは外ではお話にならない方がよろしいですよ?誰が耳を立てているか分かりませんからね」
「……お邪魔、します……」
「……カスミ?」
「えっと、勘なんだけれど……この人は、悪い人って感じはしないから大丈夫だよ、きっと」
なんだか最近のカスミは勘だとか、そういうのがよく働いているらしい。
あとは、人を見る目があるのかもしれない……。まあ俺や樹みたいな友人とつるんでいるのがやや難点なところかもしれないが……。
「つか、渚さんの元同僚……って線は無いのか?」
樹が研究員の同僚、という線を持ち出してみるが渚さんは首を横に動かすばかりだ。
そもそもその研究ってどれぐらいの規模があるんだ?確か海外にもあったはずだから……俺たちが知らないだけでもしかして大企業だったりするんじゃないだろうか。
「知らないわね。……まあ、支部によっては顔も名前も全く知らないなんて人はいくらでもいるでしょうけれど……」
「……でも、アイツはアレを持っていた」
見た目はアクセサリー。
でも、やけに目立つ石が付いていた。
「ま、話ぐらいなら聞いても良いんじゃね?ヤバそうだったら逃げれば良いんだし」
樹はポジティブに考えているかもしれないが、相手は銃を持っていることを忘れてしまったんだろうか。そんなものでも向けられてみろ、逃げられるものだって逃げられなくなるぞ?
「……お話はまとまりましたか?どうぞどうぞ、ソファーもありますから」
「……その前に、あなたは一体……?」
「私は、壬生蓮司。事務所、と書いてはいますがちょっとした情報屋のようなものをさせていただいています」
穏やかに笑っている男が自己紹介をしていくと意外にも『事務所』の意味がはっきりした。
「情報屋~?」
「スマホやネットがあるから情報屋なんていなくても良いと思われますか?それがそれが、意外と情報を求めてやってくるお客さんはいるのですよ」
誰よりも先にソファーに腰掛けた男……壬生さんは今の時代でも情報は買い求めるものだと言い張っている。
「……涼風渚といいます。こちらは、都内の学生たちで……」
次いで渚さんも名乗る。俺たちのことを何処まで紹介するつもりがあるかは分からなかったが、それよりも先に壬生さんの発言の方が早かった。
「その制服は見覚えがあります。新宿区内にある高校生ですよね?では、ある程度お互いのことが知れたわけですし……ゆっくり座ってお話しましょうか」
確かに俺たちの制服……男女ともにグレーっぽい上着とチェック柄が入ったズボンやスカートの制服は目立つかもしれない。が、例え同じ区内だといってもそうそうすぐに思い出せるようなモノだったんだろうか。
俺たちはそれぞれ空いているソファーへと腰掛けていった。座っていても、その壬生さんの部下らしき男たちが壁際に立っているのであまり落ち着かないけれど。
「……えっと、お話といっても……?」
「つか、直球に聞いていいか?」
樹は怖いモノ知らずなんだろうか。
この場においても、直球でたずねることができるって……凄いな。
「はい。……なんでしょう?」
「さっきの駅前での銃声……アンタらの仕業か?つか、状況的に考えてアンタらだよな?」
「ええ、間違いありませんよ。部下が放った銃声です」
樹からの問いに、あっさりと認める壬生さん。
つか、ここ日本だよな?ってことを忘れてしまいそうになった。
「……なんで、そんなことを?人だって大勢いただろ」
「それは、涼風さんからお話を伺った方がお早いのではありませんか?」
渚さんから?
「え?」
当の渚さんもご指名されて驚いている。
「確か、ヴェイカント……と言いましたか。あの存在は」
「あー、そもそもソレがどういうモノなのか、何なのかよく俺ら知らないんだよな」
「……ヴェイカントは、人造人間の一種……とでも言えるのかしら。人工的に作り出したモノよ」
人造人間?えーっと、それって人間って言って良いのか、それとも機械みたいなモノって言うべきか……未だに良く分かんねえな……。
「……それと戦ったって言ってなかったか?」
確か霧生と出会う前に……渚さんが戦っていたらしい。そしてそいつらをやっつけたって聞いたな。
「そう。ヴェイカントは……裏の社会の人間たちが町中にバラまいたの。主に研究員たちを探すためにね」
「……人間、なのか?」
「見た目は、ね。でも、ヴェイカントっていう名前の通り、心や中身は空っぽなの。ただSC現象の中では見た目はただの化け物ね。戦うことしか考えていないわ。そしてヤツらの目を見れば、すぐにヴェイカントかどうかが分かるわ」
「目?」
「ヤツらの目は赤いのよ。機械生物的に言うと、目がコアになっているって所かしら」
赤いコアの目、か……あれ、でも。
最近はカラコンも流行っているし、赤い目のヤツなんて見つけようと思えばすぐに分かるんじゃ……?
「……目って言ったって、今時カラコン付けてるヤツだっているだろ」
「人間か無生物かぐらい見て分かるでしょう?」
そ、そんなもんだろうか……。
「さすが元研究員の方からの説明は価値がありますね。そして、大変分かりやすい」
壬生さんは一人で渚さんの言うことに驚きもしているが、感心し、興味深そうに聞いている。
「……壬生さんが持っている、ソレは?」
壬生さんが手のひらからテーブルの上に置いたソレ……これもまた、ブレスレット型で良いんだろうか。だが、俺たちの持っているモノとはどれとも被らない石の色をしている。
「こちらは、恐らく涼風さんの元同僚という方でしょう。本日、新宿の裏通りで倒れているところを発見しました。その彼が持っていたモノになります」
「その研究員は?」
「残念ながら亡くなりました」
渚さんもちょっとは望みを持っていたのかもしれない。
だが、壬生さんの口からは残酷な言葉が発せられたので、『そうですか……』と残念そうに呟いていた。
情報屋、と名乗る男!登場!なんだか、どんどん裏の道へと進んで行ってしまっているような……(そういう作風ですし?)あ、もう裏に入っていたか!!
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