7 霧生、襲撃!
渚さんが持っていた『物質』理論装置に登録した俺と樹。
ワケの分からないモンスターみたいなモノと戦えば良いんだと……思っていた。
「取り敢えず、周辺にいたヴェイカントたちは倒してきたから大丈夫みたいね。急いでここを離れましょう。……カスミさん、こちらにいるご家族は?」
「今、旅行に出掛けているのでしばらくは帰らないと思います」
「……そう。それは、幸いと今は考えておきましょう」
「車で移動か?」
道に停められている車を指差して樹が聞くが、困った表情をしながら渚さんは顔を左右に振った。え、まさかここに乗り捨てていくのか!?
「まさか。ナンバーも知られているでしょうし……ここに置いて行くわ」
「え、勿体ねえ!新車……つか、そこそこ良い車だろう、あれ」
車には、そう詳しく無いけれどまだ新しそうなモノだってことぐらいは分かる。それに、メーカーだって有名な所のモノっぽい。ここが東京だからそんなに車が無くてもそこまで移動には困らないけれど、もっと田舎とかだったりしたらどうするつもりだったんだろう。
「しょうがないわよ。それに、今私たちは車よりもよっぽど価値があるモノを持っているわ。まあ同じ研究をしている人からすれば涎が出るほどに欲しがるモノでしょうね」
「マジかよ!……売ったらいくらぐらいになるんだろうなあ……」
おい。さっき登録したばかりだろうが。なんでそこで売るなんて意識になるんだか……。コイツは陽気っつーか、あんまり事の重大さを分かっていないんじゃないだろうか。
「価値が分かる人だったら……考えられないぐらいの値が付くんじゃないかしら。普通の人からすればただのアクセサリーにしかならないわ」
「あのー……」
不意にカスミが控えめに声を掛けてくるものだからカスミに顔を向けるためくるりと振り返るとじぃーっと道の先を見ている。その先を辿っていくと、一人のストリートギャング風な若者が立っていた。俺たちぐらいとそう変わらない歳だろうか。
「あら、どうしたの?カスミさん、忘れ物?」
「いえ……あの人……こっちを見ているような気がして……」
「……」
「あん?マジな不審者か?」
マジな不審者、ストーカーにでも出会ったんだろうかと気を引き締めようとするが、あっちは睨み付けてくるばかり。
「まさか……霧生くん!?」
渚さんが記憶を辿り、名前を思い出すと途端に額に汗を浮かべはじめた。これは、あまり嬉しくない未来が待っているのかもしれない。
「なんだ、知り合いかよ~……」
「残念ながら、嬉しくない方の知り合いよ」
あー、やっぱりそうか。ってことは、裏社会の人間的な感じだろうか。……あれ、でもさっきまでは人間とは戦っていなかったって言ってなかったか?人間とも戦うのかよ!?
「……元研究員の涼風渚、だな?アンタが持ち去った装置を返してもらいに来た」
霧生というらしい若者が冷たい表情と口調で渚さんに向かって話し掛けてくる。この感じだと、目的は渚さん……の持っていた『装置』だけだろうか。
「残念だけれど、今のあなたに渡しても効果は出ないわね」
「なに!?」
「あー、悪い悪い。俺たちが登録者になっちまったからだよ」
樹がまったく悪びれた様子もなく飄々と言って退けるものだから霧生を余計に怒らせてしまったらしい。
「……ならば、お前たちを殺して奪い取る!」
コイツは、問答無用といった感じで手元の指輪に意識を集中しはじめたようだ。
「はあ!?」
「彼も装置を扱えるわ!二人とも気を付けてね!サポートはするわ!だから決して無理はしないで!」
既に装置を持っているのかよ!それに、渚さんがここまで言うってことは相当な腕前なんじゃ……。装置でどんなことが出来るのか分からないけれど、取り敢えず渚さんもいることだし、やるだけやってみるか。
『SC現象を探知しました。『物質』理論装置が自動的に起動します』
「……あれ、ここが?」
また、ぐにゃぐにゃとした異空間の景色に変わるのかと思ったが、周りを見渡してみても俺たちが歩いていた道そのものだ。並んでいる家とかもそのままだし。でも、なんか違和感がある。俺たち以外に生き物の気配を感じないというか……あ、そう言えばカスミがいない。
「そうよ。景色や家なんかは認識を受けたりしないわ。でも、同じ装置を手にしている私たちはお互いに見えるでしょう?」
「……カスミは?」
「カスミさんは私たちからじゃ目に見えないのだけれど、ここの世界の中に存在しているわ、安心して」
俺たちからじゃカスミを見ることが出来ない、のか……でも、何処かで俺たちのことを見ているらしいから恰好悪い姿を見せるわけにはいかないよな。
「なんだ、新米の研究者か?数を揃えても初心者にはそう簡単に装置なんて扱えないぞ」
ヤツの手元にキラリと光るモノが見えた。あれ、あれは……赤い指輪。俺と同じ……いや、同じモノは無いって言っていたよな。見た目だけが同じってだけなんだろうか。
「確か、ロンギヌスに登録していたんだったわね。いい二人とも、装置に気合いを入れれば湊くんなら炎系、樹くんなら水系の攻撃をすることが出来るわ。それをとにかく彼に向けて。装置を直に壊そうとしても無駄だからとにかく彼の気力が尽きるまで攻撃しまくるしかないわ」
「んな、テキトーじゃね?」
「……ま、やるしかないだろ」
炎だの水だの、やっぱファンタジーに出てくる魔法だな。とにかく、ヤツの気力をゼロにすれば良いわけか。なるほど直接、ぶっ刺すとか蹴り付けるとかって体術系はしなくて良いのは気が楽かもしれない。
「それぞれの攻撃には、届くまでの距離というものがあるわ。特に威力は強いけれど赤い石が付いた装置は近距離からじゃないと攻撃が届かないの。青い石の装置は遠距離からの攻撃に優れているけれど、威力はちょっと弱いわね。そこのところ考えながら慎重にね。相手も攻撃をしてくるわよ!」
ヤツも確か赤い石の装置を付けていた。なら、近付いてくるだろう。だったらまずは樹の攻撃で様子を見てみるべきか……ちらっと樹に視線を向けると、任せろ!とニッと笑みを返されてしまった。
樹の攻撃がギリギリ届く距離まで霧生が近付いてくると樹が『うりゃ!』と声を上げながら装置に気合いを入れると何処からともなく水が出現して、まるで水鉄砲のように霧生に向かって行った。
「……青属性の装置か……」
「え、今の感じで良いのか?」
「初めて使うにしては上出来過ぎるぐらいよ。大丈夫、戦えているわ」
少しばかり距離を置いた霧生だったが、そこを狙っていたかのように渚さんが精神を集中していく。そう言えば白い石の攻撃ってどんな感じなんだろう?
様子を伺っていると眩しい光が生まれ、距離を置いているはずの霧生にまで届く光の線を浴びさせていくことになった。
「……マジか」
もう距離とか、関係無くね?白属性の装置ってチート系って言うんじゃ……。
「ぐっ……くそ……今日のところは退散するしか……」
片膝を付いたところを見計らって俺は一気に距離を詰めると近距離から炎を生み出して霧生に浴びせることができた。炎柱のようなものが立ち上がり、霧生はそれに包まれてしまったようだが……命に危険は無いんだろうか?
気が付くと、いつの間にかSC現象から抜け出していた。
カスミもばっちり戦闘を見ていたようで『三人とも凄かった!』と興奮している。
なるほど……こういう感じで戦うのか。霧生は数を揃えても……とかって言っていたけれど、こっちにはいろいろな属性の装置があったことが有利になったらしい。たぶん、それだけじゃないな……アイツは油断をしていたんだと思う。
「霧生くんは、逃げたようね。取り敢えず無事で良かった……さあ、追っ手が来ないうちに移動してしまいましょう」
元々荷物が少なかった俺たち。だが、それぞれの手元や首元には今までには無かったモノがキラリと光って存在をアピールしていたように思う。
「また、アイツやってくると思うか?」
もちろん気になるのは霧生と呼ばれた男のこと。ここで出会ったのだから、ここにいたらきっとまた襲ってくるんだろうなあ。今度は一人ではなく、仲間とかも連れてくるかもしれない。
「そうね。特に、ここに来たってことは、またここら辺に現れると思うわよ」
「湊くんの家って、渋谷の方だったよね?」
「ああ……徒歩だけだとちょい歩くよな。近くまでは電車で行くか」
そのため、ここから近い新宿駅に取り敢えず移動することになった。人通りも多いし、例え駅前で襲われても問題は無い……と俺は考えてしまっていた。
霧生、襲撃!彼もまた、登録者でしたね!ロンギヌス。これについても渚さんが説明してくれる時がやってくるかもしれません。
良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!