5 曰く付きな話
カスミが何やら特別な体質だってのは分かった。
『物質』理論っていうのも、なんとなく……。
だけれど、このままカスミはここで生活することが出来ないんだろうか?
「んで?渚さんのソレは、どういう意味があったりするんだ?」
すっかり『物質』理論を起動させるという装置(見た目は石が大きいアクセサリー)に興味を持ってしまったらしい樹が渚さんの首に掛けられているネックレスをじっと見ている。あんまり人様の……つか、女性をそんなまじまじと眺めるようなものでもないと思うんだけれどな。
「私のコレは、特別何かがあったってシロモノじゃないわよ。名前はカッカラ」
「カッカラ?」
あまり何処でも聞くような言葉じゃない。樹は面を食らってしまっているし、カスミは首だけを傾げてなんとも間抜けな顔をしてしまっている。
「……錫杖のことか?」
ぽかーんとしている樹、とカスミ。そんななか俺は、なんとなくだが聞いた覚えがあった気がするので、それを口に出してみると渚さんからは驚かれてしまった。
「よく、知っているわね……。湊くんってこういう……ちょっと変わったモノに詳しかったりするのかしら?」
「はは!湊ってたまに凝るモノにはめちゃくちゃ知識蓄える癖があるもんな!」
「……別に、たまたまだろ」
「んで、カッカラってのが錫杖っぽい意味だってのは分かったけれど、過去に何かあったーとかって話はあんのか?」
「別に何でもかんでも怪しい話があるわけでもないんだけれどね。……カッカラ……錫杖は、僧たちの荷物でしょう?コレを手にすると知慧……知性を高められると言われているわね。元々は、日本のモノの話ではなくて、キリスト関係者の持ち物が元になっているっていう話よ。錫杖も大きいモノになると二メートルを簡単に越えるものもあると言われているわ」
「デッカ!」
「……僧の人たちって力持ちだったんだねぇ~!」
カスミなんて呑気に頭の中で自分の背丈よりも遥かに長い錫杖を持って歩いている僧のイメージでも膨らませているんだろう。ちょっと想像力豊かというか、ユーモアがあるところがカスミの良いところでもあり、たまにツッコミたくもなる一面だったりする。だが、渚さんの話をちゃんと聞いていたんだろうか?キリスト関係者って言えばイエス・キリストのことだろ?だったら十二使徒辺りと関係があるのかもしれない。
「なら、コッチの二つは?つか、石の色がそれぞれ違うのって意味があったりすんの?」
「石の色っていうか、元となった情報が組み込まれていてそれで色が付いて見えているだけなのよ?だから、たまたまその色になったのかもしれないし、数値配合の間で色が付けられたっていう可能性もあるわね」
「?」
さすがに普通の学生だと数値配合とか言われてもよく分かんねえんだけれど……。つまりは、見た目は白とか青とか赤色に見えていたとしても、それは色彩っていう意味じゃなくて、もしかしたら『物質』理論で言うところの『私は白よ!僧の持つモノなのだから清いイメージがするでしょう!だから白なのよ!』ってアピールをしているんじゃないか?それを馬鹿正直に受け取っている俺たちはソレを白いモノだと見えてしまっているのだと俺は考えている。
「コッチの指輪は……なんだか、強そうな感じがするねえ!」
赤い石が付いた指輪を見てカスミは目をキラキラと輝かせていた。
「ブレスレットの方は……あんまり強そうっていうイメージじゃねえなあ……なんつーか、お守り系みたいな?」
対して、青い石が付けられたブレスレットを見た樹は、お守り系だなんて言い出している。
「カスミさんも樹くんも、なかなか良い直感をしていると思うわよ」
どういう、意味だろう?
パッと見では、どっちもアクセサリー。
強い?お守り系?あんまり違いがよく分かんねえんだけれど、俺は。
「指輪の方はラピュセル」
そこで何で俺に視線が集まるんだ……?
ラピュセルっていうと……あの槍のことで合っているんだろうか……。
「湊、知ってる?」
「……ジャンヌダルクを処刑しようとした槍とかじゃなかったか?」
「ジャンヌダルク!聞いたことあるよ!あれ、でも……その人って火刑で亡くなったんじゃ……?」
「あなたたち、意外と博識ね。そう、ジャンヌダルクを処刑しようとした槍がそう呼ばれていたらしいわ。でも、神の力で守られていたジャンヌダルクは槍で処罰することが出来なくて、最期は火で亡くなったらしいの」
「うはー……めちゃくちゃ曰く付きじゃんよ、これ」
「あれ、でも槍では処罰されなかったんですよね?……だったら、そう怖いモノってイメージじゃないのかも?」
「そうね。別に曰く付きだからって必ずしも呪われるとかってモノばかりじゃないのよ?」
すっかり曰く付きと聞くと怖いとか、呪いだとかってイメージを持ってしまうけれど、こういう考えも一種の『物質』理論に惑わされてしまっているのかもしれない。
「それじゃ、こっちのブレスレットは?……青いけれど」
「こちらは、バルバロス」
……だから、いちいち俺を見ないでくれ。
つか、それぐらいなら聞いたことがある。
「……海賊の名前、じゃなかったか?」
「ほぼ正解ね。ただ一つ付け加えるとするならばこちらに付けられている元となったモノは海賊の名前……というよりも、その海賊たちが使っていた航海道具が元になっているわ、ね」
「航海道具?」
「船、とか……?」
海賊だからってデカイ船をイメージしたんだろうか。航海『道具』って渚さんは言ったよな……。カスミはデカい船に乗って海賊たちがあちこち航海を楽しんでいる図でもイメージしているんだろう。小声で『楽しそうだなぁ~』って声が聞こえてきた。
「その航海道具を使った海賊たちは災難に遭うことはなく無事に航海を終えたことが出来たとされているのよ。バルバロスという名の海賊は存在したことは確かよ。でも、その海賊が無事に航海が出来たのはその航海道具があったから、と言われていつの間にか航海道具の方が有名になっちゃったの。この航海道具があれば遭難に遭わずに海に出られる!って周りから強い認識を受けた。それがバルバロスと名付けられた所以よ」
「へぇ~……航海道具ねえ?」
「さっき樹くんがお守り系みたいって直感で言ったのかもしれないけれど、いい線言っていたわよ」
「へ?」
「普通の人なら、こんなブレスレットを見ても、単なる飾りモノ……としか感じないんじゃないかしら。それなのにキミはお守り系、とずばっと言ってみせたんだもの」
「え、あ、いや……たまたま、だと思うんだけれど……」
「その、たまたま口に出た言葉やひらめき、直感みたいなモノはこれからも大切にした方が良いわ。いつか必ず役に立つ時がやってくると思うから」
真剣に言っているから、バカにしたとか、からかって言っているってわけではなさそうだ。直感力、ねぇ……俺には、あんま縁が無さそうだな、きっと。
「……渚さんは、これからどうするんですか?」
「そうねぇ……あちこちに散らばった研究員を探す旅にでも出ようかしら。非常事態だったから待ち合わせは、何処何処に!なんて言っている暇も無かったもの。それに、万が一裏社会の人間の手に、『物質』理論を起動させる装置が渡っていたら……私一人じゃとても手に負えないから」
困ったように溜め息を吐きながら首に掛けられているネックレスを撫でるように触り、ちらっとジュラルミンケースの中のアクセサリーを見てから、力無く笑って見せた。
「……カスミは?このままで良いのか?」
「……正直、このままだと危ないかもしれない。だからカスミさんさえ良ければ私と一緒に……」
渚さんと一緒に……?それから先は途端に口を閉ざしてしまった渚さんだったがこの場にいる誰の声でもない音声が聞こえてきたものだから驚くことになった。
『SC現象を認識しました。『物質』理論装置が自動的に起動します』
突如、耳に届いた機械音声。所謂、AI系のヤツ。
ただ、本当の驚きビックリはこれから体験することになるのだった!
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