48 私は生きている!
やっぱり、一部だけではあったものの森さんの臓器は失われていたらしい。
あと、臓器はあっても小さくなってしまっているとか……これが、事故の後遺症にあたるってことなんだろうか?
命に関わる臓器には問題は無いらしい。それでも、本来、人間として当たり前の大きさがある臓器たちは一般人よりも小さめに出来ているのだと分かった。そりゃあ臓器たちも小さければ軽いわけだな。
「……前、会ったときには飲み食いしていたけれど、あんまり食べられないって感じか?」
渋谷でも、ここに……秋葉原に来ても飲み食いしているところは見てきているが、さすがに樹のように……いや、一般人の人並みには食事をすることは難しいのかもしれない。
「う~ん。そうなんだよねぇ。あんまり胃に詰め込んちゃうとこれ以上は受け付けない!って感じで戻しちゃうことも多いみたいだし……でも、全然まったく何も食べられないってことでもないんだよ!?」
だから最初のうちは『ダイエット!』って言い張っていたのか。なるほど、そう言いたくなる気持ちも分からないでもないかもしれない。
でも、こうして森さんの事情を知っていくと、樹のように大食いをしている人物を見れば羨ましいだとかって気持ちになったりすることは無いんだろうか。それに、同年代の女性たちが流行しているモノをあれこれ食べ回っている姿を見て、ちょっと自分の体を残念だと思うこともありそうだけれど……。
「そう、……でも、事故があったかどうかは分からないけれど、やっぱり無くなっている臓器はあったのね……」
森さんが言うには『事故に遭った』という記憶。もしかしたら、その記憶自体も作られたモノかもしれないと思ったけれど……これは、俺の考え過ぎだったりするんだろうか。
「まあ、私もこの歳になってきていて、アレ?って思うこともあったりしていたからね~。……まあ、面倒くさくなくて楽観視出来るところもあるけれど……将来を考えると子どもは産めないってことなんでしょ?……まあ、仕方ない仕方ない!」
それは女性特有の現象。それに森さんは二十歳ぐらいだって言ってたか?それにも関わらず月経を経験してきていないとするとさすがに違和感は抱くんだろう。それでも、森さんは特に気にすることもなく飄々と言って退けているのは凄い人だと思う。
「小さな頃に事故に遭ったんですよねぇ?森さんの親御さんたちは何処で暮らしているんですか?」
カスミは同じく事故に遭ったという両親はどうなっているのか?とたずねていくものの、森さんからは首を左右に動かされてしまった。
「それがねぇ……分かんない!」
「はあ!?」
「私の事故のせいもあるのか、それとも事故で親は死んじゃったのか分からないんだけれど、気が付いたときには病院。そして両親らしき存在はいなかったっぽいからしばらくは施設で猛勉強していたのだよ~!」
森さんの記憶としては、本当に事故に遭ったかどうかは分からないけれど、気が付いたときには病院のベッドで寝かされていたのだという。そして、両親らしき人物には会ったことが無いらしいから……きっと両親はもうこの世にはいないという可能性も高そうだ。
「……死んでいる可能性もあるってことか」
「んー、まあ今更私の親です!って現れたとしても覚えていないと思うんだけれどねぇ」
あまりにも小さな頃に離れ離れになってしまった両親だから、今目の前に現れたとしても『私の親?』ときょとんとしてしまうのかもしれない。さすがに、それは親としては複雑かもしれないけれど、森さん側から考えてみれば当たり前かもな。
「……悪い。いろいろと無理やり検査させたみたいで……嫌な気分になっただろ」
ほんとんど森さんの検査を受けさせるように言い出したのは俺だ。だから、もしかしたら嫌々検査を受けたのかもしれない。今更かもしれないが、森さんには申し訳無い気持ちになってしまった……それでも。
「まっさか~!私だって、自分の体のことがわかってちょっとは肩の荷が下りたって感じだよ~!だからミットくんがそんな顔をする必要なんて無いんだからね?」
森さんは俺の気まずい顔なんてまったく気にしていない様子で、なんなら軽く俺の背中をバシバシと叩いてくる勢いで明るく言い張ってくるものだから俺が思うほど嫌な気分にはさせていなかったのか?
「ったく、自分のことだしもっとツラいアピールしてくれたって良いんだぜ?」
樹だって今回の検査をして分かったことはいろいろある。それに、女性として存在しているものが見当たらないと分かるとショックを受ける女性だって世の中にはいるものだ。森さんはそういうことは気にしないタイプなんだろうか?
「ツラくないって言ったら嘘かもしれないけれど、別に私は今、ちゃんと生きているしね!」
軽く『う~ん』と考え込みながらも、今、ちゃんとここで生きているから!と明るく言って退けているから特にショックを受けている感じは無さそうらしい。
「明るい性格なんですねぇ……」
カスミも驚き、感心したように森さんの様子を伺っていた。もしかしたらカスミも同じ目に遭っていたとしたらそれこそショックを受けて落ち込みまくって過ごす期間があるのかもしれない。
「そそ!ちょっとやそっとで落ち込むことは無いのだー!」
ふふん!と胸を張って言うものの、あれ?そう言えば……と、ちょっと前に言っていた言葉を思い返していけばからかうように森さんを見ていった。
「……さっき、ボブが森さんのことを忘れていたらショックで寝込むとか言ってなかったか?」
意地悪く口端を僅かに上げながら森さんをからかっていくと、案の定それを思い返していた森さんはギクッ!と肩を揺らしていくとワーワー!と大きな声を出して気分を変えていったようだった。
「こらこらー!そこはとっとと忘れてくれていいんだってばーっ!」
……なんつーか、明るい。それよりも、女性として、人間として強い人なんだな……と思う。今まではっきりしていなかったことを知って、それでやっぱり失われている臓器の存在もあったと言われたというのに、ショックだとか悪い空気になってしまわないように場を明るくさせていっているようだった。別に知り合いなんだからショックならショックで、多少落ち込んでみても良いとは思うし、なんだったら涙一つぐらい流してくれても決してバカにするようなことはしないけれど、そこは俺よりも大人なのかもしれない。
「よ、よーし!次はボブを探すぞーっ!!」
気を取り直してボブ探しに、気合いを入れていく森さんだった。のだが……。
「っと、そうだったそうだった。つか、このビルにいる……んかな?」
樹は、ここまでフロアを見回して来たというのに研究員らしき人物にも出会えなかった、そしてボブらしき人物にも会えなかったということに首を傾げていた。
「え~!?ここまで探しまわったのに外に出ちゃった!?」
さすがにこのビルから外に出てしまうと、どこに向かったかは想像がつかない。
秋葉原にいたとしても、秋葉原だってそこそこに広い土地だもんな。
「その可能性も……無い、とは言い切れないわよね」
う~ん……やっぱりボブはこのビルから外出、してしまったんだろうか。
「……それに俺たちが来たときも、ボブって何処かに出掛けようとしていたんじゃなかったか?」
そのときも、確か白衣らしきものは着ていなかったようだったし、完全な私服姿だったような気がする。そうなると、私用で外出をしたか?それとも……あまり悪い想像はしたくはないけれど、新たな実験に使える人物を求めて探しに行った、とか……。
「……そう言えば、さっきの女の子もいないよねぇ?」
森さんよりも先に実験椅子に座らされていた女の子。その子は、実験が終わったらしく椅子から移動させられていってしまったようだったし、俺たちも森さんの救出ばかりを考えていたものだから結局あのときの女の子がどうなったのかは分からないままだ。
「そう言われてみれば!つか、森さんよりも先に実験されていた子!あのままどうなったんだ!?」
「ここに入院出来る施設とかがあればそこで寝かされている可能性もあるけれど……あの子が、患者だとすれば元いた病院に戻されたっていう可能性もあるんじゃないかしら?」
病院、ねぇ……。
「秋葉原なら、ここからそう遠くない場所にそこそこ大きな病院があるよ?もちろん入院病棟とかもあるような大きな病院!」
「え、マジか!」
「マジマジ!」
樹と森さんの、まるでコントのやり取りでもしているかのようなやり取りを見つつ、病院か……と考えていけば特に行くところも無いし……。
「……そっち、ちらっと覗いてみるか?」
「でも、名前も何も分からない子だよねぇ……」
「意識不明っぽい患者で、歳若い子……口が軽い看護師や医師がいれば教えてくれるかもしれないけれど……お見舞いを装って覗いてみる?」
「……渚さんも大胆なこと言うよな」
ボブも気になるが、こう見当たらないとなると他気になるモノを片っ端から探っていくしかなさそうだ。それに、女の子の容体も気になる。もしも森さんの言う病院からの患者だとすれば……もしかしたら見つかるだろうか?
湊だって、一応は気まずい……申し訳ない気持ちが全然無かったってわけじゃないんだよ!?でも、森さんの明るさで助かったって感じ、かな?
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