47 森さんの体
ボブは見つからない。
ただ、ぼけ~っと過ごすのもなんだったし、ここは一応研究施設。だったら簡単な医療機器とかもあるんじゃないだろうか。森さんもちゃんと診てもらったことは無いって言っていたから改めて確認してみるのも良いかもしれない。森さんの体が、どうなっているのか……。
「ちょ、ちょ……それ、本気なの!?」
俺は本気だった。
森さんの異常なまでに軽い体の理由を知りたいと思った。たぶん、本人すらもきちんと分かっていないことだし、あまり踏み込んでいくのは躊躇いが無いと言えば全く無いってわけじゃないけれど、このままモヤモヤした気分のままでいるよりかは一つ疑問が無くなると思えば気分もすっきりすると思えた。
「……森さんだって自分の体を不思議だと思ったことがあるんだろ?だったら、ここではっきりさせておけば良いじゃないか」
やっぱり森さんとしては戸惑いが見られているし、今更……かと考えているのかもしれない。でも、アンタは、そんなんで良いんだろうか?過去の事故?それで臓器を取られた?本当にそんな話を信じているんだろうか?もし、それが真実だとしても、どうして森さんは生きることが出来ている?それが一番、不思議なんだ。
「そう、だけれど……」
「あの、心配しなくても誰かに言いふらしたりようなすることはしませんから……」
例えどんな結果を目にしたとしても誰かに言うような口の軽い連中はここにはいない。カスミだって友人思いなところもあるし、樹も知り合った人の秘密事を誰にでもそうほいほいと言いふらしたりするような性格はしていないだろう。
「そうそ。それに、もしも臓器が無い状態ならどうやって生きていけているのか……謎っつーの?それも判明するんじゃね?」
普通なら臓器が無い人間なんて『有り得ない』。
でも、何か秘密があるのなら……実は、最低限の臓器だけは残っていて、それでなんとか生きているっていうのならばそれはそれでモヤモヤしていた疑問もはっきりしていくのだからスッキリする気がする。
「……渚さん、ここら辺にある医療機器は使えるのか?」
恐る恐るそっと一室を覗き込むと、そこには俺にはあまり詳しくは無いが、ちょっとした医療機器っぽいモノ。そして、人が横になれるだけのベッドが並んで置かれていた。もちろん他に誰かがいたような気配は無く、無人だった。
「そう、ね。使い方なんて簡単なモノばかりだし……簡単に診るぐらいなら私でも可能でしょうけれど……森さんは?こういうのは自分で決めないといけないことよ。湊くんが気になるのも分かるけれど、森さん自身が望んでもいないことをするのはどうかと思うわよ?」
渚さんは置かれている医療機器を目にしていくと、本格的な医師でなくても簡単な操作ぐらいならば出来るとのことらしい。さすが研究員っつーか、こういう機械の使い方も詳しいのかもしれない。
ただ、それは森さん自身も望んでしようとしていることなのかどうかってことを疑問を向けられてしまった。彼女が望んでもいないことを無理にしようとするのは、彼女のためにはならない、と言いたいらしい。
「……そう、か……」
「!あ、えっと。ナギっち……お、お願い……中身がどうなっているのか見るのはちょっと怖いけれど……でも、本当に臓器が無いのか、それとも一部残されて生きていられるのかってことぐらいは知っておいたほうが良いと思うし……」
森さんは、躊躇いながらも渚さんに診てもらうようお願いし始めた。最初は言い出しっぺの俺に気を遣ったのかと思ったのだけれど、森さんとしても本当に臓器が存在していないのか、そもそも本当に事故なんてものに遭ったのかすら記憶があやふやだと言っているから自分の体のことをしっかりと診るチャンスと捉えたらしい。
「そう。だったら、そちらのベッドに横になってもらえる?」
しばらく時間を置いてから納得した渚さんは機械の近くに置かれているベッドに森さんを横になるように言い始めた。
「……この機械で、診られるのか?」
改めて渚さんが操作しようとしている医療機器を横から覗き込んでいくものの、やっぱり俺としては何処をどう操作していけば使うことが出来るのかは全く分からない。簡単な操作で出来るモノ、とは言っていたものの研究員ってちょっとした医療知識とかもあったりするんだろうか?
「本格的な医療機器ともなると……エックス線とかって聞いたことがあるかしら?でも、それはわざわざ写真を撮影して診る必要があるから結構手間が掛かるのよ。これなら……エコーなら、すぐに中を確認することが出来るわ」
これから使うことになるのは、エコーと呼ばれているモノらしい。あれ、エコーってどっかで聞いたことがあるような気が……?
「エコー?それって、妊婦さんが使うようなヤツじゃねえの?」
樹が思い出したように妊婦さんたちが使う医療機器だったことを口に出していく。意外にも医療機器に詳しかった樹に、じゃっかん悔しい気分になってしまった。
「もちろん妊婦さんたちがお腹にいる赤ちゃんの様子を知るためにも使われたりしているわね。でも、それだけじゃなくて内臓に問題が無いかどうかを知るときにも使われたりするものなのよ」
渚さんの医療機器への説明に、ふむふむと頷きながら真面目に聞いていく樹が意外だった。学校の授業もこれぐらい真面目に取り組んでもらえると補修やらなんやら受けなくて済むんだけれどな。
「普通に、電源とかの問題は無さそうだねぇ」
電源のオンオフを何度か繰り返していく渚さんの行動を見て、カスミも医療機器そのものには電源がきちんと入っているんだねぇと呟いていた。
ただ、やはり気になるのは……このフロアに来て、誰とも遭遇していないこと。それが不気味にも感じられた。本当に研究施設になっているのか?それとも看板がそう表示されていただけで空きフロアになっているんじゃないか?でも、そうなるとこの一室には当たり前のように医療機器が置かれていることが気になってしまった。
「……でも、特に誰かがいるって感じはしないよな」
先ほど樹がヤバそうな発言をしていたから迂回をしてきたけれど、先ほどの場所にはやっぱり怪しげな何かが……それこそ目には見えないヴェイカントもどきでもいたんだろうか?あのまま進んでいたら戦闘にでもなっていたんだろうか……。
「おっかしいなぁ~?別のフロアにならいると思ったんだよなぁ、ボブのヤツ。何処に行ったんだか?」
さすがの樹もどのフロアにも見当たらないボブの姿に首を傾げつつ、いなくなっちまったか?と呟きを洩らしていた。
「まあまあ。それに、今は森さんの体を診ていかないと」
渚さんも一応準備が出来たらしく、医療機器を森さんに向けていくが……そこで、ストップをかけたのは森さんだった。
「えーっと……一応、お腹出すんだよねぇ?……さすがに、年頃の男子諸君たちに見られていると気まずいなぁ~……なんて」
さすがに服の上から診ることは出来ないんだろう。つまりは、服をめくらないといけない。そう言いたそうに苦笑いを浮かべている森さんから慌てて距離を取り、顔を背けたのは俺も樹も同時だった。
「あ、悪い悪い!つい、な?つい」
だが、樹は森さんがストップをかけなければそのまま見ているつもりだったのかもしれない。……なんつー、男だ、コイツ。
「……少し、離れたとこにいるから」
さすがに服を捲る女性の体を堂々と見ているわけにはいかないから距離を取って、軽く顔を背けつつも渚さんの手付きの様子を伺っていた。
「ちょっとヒヤリとするかもしれないけれど我慢するのよ?」
「はぁーい!ナギっちセンセー!」
まるで患者と医師のようなやり取りに、失笑しつつ遠くから様子を眺めていると渚さんは不思議そうに森さんの腹部辺りに医療機器を当てていくと首を傾げていた。場所を変え、恐らく臓器の有無をチェックしているんだろうけれど、渚さんは首を傾げてばかりいる。
普通に臓器があるならば問題は無い。ただ、森さんの体の軽さは臓器が一部失われているから……と考えていたのだが、実際は違ったんだろうか?
一応、一通り森さんの内臓のチェックが終わったらしく医療機器の後始末をし、森さんにも衣服を整えてもらうと体を起こしていいわよ、と声が掛かったのでなんとなく背けていた顔を森さんたちの方へと向けた。
「……ナギっち……どう、だった?」
「……森さんの、体のことなんだけれど……確かに、一部の臓器は無いみたいね……命に係わる臓器っていうわけじゃなくて……その、女性として本来無ければならない臓器だとかが無いみたい。でも、当たり前だけれど心臓はあったし、肝臓や胃は一般的な人のモノよりも小さく感じられたけれど存在はしていたみたいよ」
「女性の臓器って、それって……」
カスミはなんとなく察したらしく、言葉を濁してしまった。そこまで言われればさすがの俺や樹でも想像はつく。つまり、子宮だとかが無かったんだろう……。あと、問題無く生きていられるのは心臓はきちんと動いているらしい。だが、一部の臓器は小さめらしかった。
一部の臓器が無い、そしてところどころの臓器が小さかった……。もちろん心臓が無いと生きられないもんね!やっぱり臓器がちゃんと存在していないと軽いものなのね……。
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