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41 お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様!

 さすがに森さんの容体も心配だったけれど、森さんを抱っこした状態で電車に乗るのはちょっとな……。

 渚さんが言うには近くに、そこそこ広さのあるメイドカフェがあるとのことだったからそこに休憩がてら森さんも休ませてもらうことにした。

 高層ビルから出て来た俺たちは、このまま新宿に戻ることも一応考えた。けれども、俺の腕の中には未だにぐったりとしている様子の森さんがいたから、もし休められるような場所があるならそこで時間を過ごしてからでも良いかもしれない。

 そこで渚さんから提案されたのが一つのカフェだった。


「お帰りなさいませ~、ご主人様!お嬢様!」


 そこは所謂メイドカフェってヤツで、渚さんは来たことが無いとか言いながらも結構詳しそうだったから何気に来たことあるんじゃないだろうか。

 にこにこと俺たちを出迎えてくれるメイドの恰好をしている店員さんは俺たちの人数を確認するとともに俺に抱っこされている一人の女性を見つけると目を丸くしていたようだった。


「えーっと……こういう場合って、どう応えるべき?」


 樹はさすがに『お邪魔します』とも違うけれど……どうなんだ?と首を傾げていた。

 『お帰りなさい』って言われたから『ただいま』とかって返すべきなんだろうか?と考えつつも渚さんは普通に店内に入っていく。そして、具合の悪い人がいるから少しだけ休ませてもらいたい……と申し訳なさそうに話していた。


「普通で良いのよ。こちらは、少し具合の悪い人がいるのだけれどなるべくお店にはご迷惑はお掛けしないようにするから休ませていただけるかしら?」


「あらあら~。そちらのお嬢様ですか?はい、もちろん!どうぞ、お休みになってください!」


 店員の女性も森さんの様子を気にしつつも、意外と広く店の奥の方には落ち着いて休ませられるような広々としたソファーなんかも設置されているとのことだったからそちらに案内してもらうことになった。


「……カフェ、だよな?ここ」


 カフェって言えば、簡素な椅子にテーブルがあって。それで、ちょっとした休憩だったり、仕事をしながらカフェで過ごすっていうヤツもいるらしいけれど、今のところ俺たちの他には客らしい客の姿が見られないようだったので、ゆっくりさせてもらっても迷惑にはならないかもしれない。


「……こんなにゆったりと座れるソファーまであるなんて思わなかったねぇ」


 悠々と座れるソファーの間に食事などを乗せるためのローテーブルがきちんと設置されていて、こういうところはカフェっぽい感じもするが、小柄の森さんを横にさせるにはじゅうぶん過ぎるほど大きなソファーまであるだなんて思わなかった。

 こちらとしては大助かりだけれど。


「つか、さっきの口ぶりだと絶対に、ここ来たことあるだろ!?店員さんに気安く声掛けまくりだったじゃねえか!」


 一人掛け用のソファーに座りながら樹は渚さんのメイドさんへの手慣れた対応に、来たことあるよな!?と樹に詰め寄られていた。


「べ、別にメイドさんそのものを楽しんで来たつもりは無かったのよ!?たまたま休もうとしたらメイドカフェだったってだけで……」


 すると、ついに暴露をしはじめていった渚さん。

 でも、最初からメイドカフェとは思っていなかったらしく、たまたま立ち寄ったのがメイドカフェだったっていう話だったらしい。まあ最初からメイドカフェの店だったりしたら渚さんだったらまず立ち寄ることは無いんだろうな。


「へいへい。そういうことにしておきますよーっと」


「……へへ、まさか……この歳にもなって、お姫様抱っこされるなんて思わなかったなぁ~……」


 二、三人ぐらいが悠々と座れるソファーに体を横たえていた森さんも、力無く笑いながら貴重な体験が出来たよ~、とへらへらと笑顔を必死に作っているようだった。いや、アンタまだまだ若いから。


「……体は、どうだ?」


 顔色そのものが悪いって感じには見られない。それでも、何かの薬品を使われた影響で体のあちこちにきちんと力が入らないって感じはまだ残っているようだった。こういう場合、ただ寝かせておくだけで改善出来るものなんだろうか?


「う、んー……ちょっと、甘いモノでも補充したい気分かなー……」


 連れて来られたのがメイドカフェだと森さんも気付いたらしく、メイドさんに興味はそれなりに持ったようだったが、今はそれどころってわけでもなさそうで、取り敢えず少しでも体の不自由を改善させるために、甘いモノでも口にしたいなぁと呟いていた。


「糖分でも不足しているのよ。コーヒー……は避けた方が良いわね。温かなカフェオレでも注文することにしましょうか」


 それを聞いた渚さんは胃に負担を掛けるような飲み物は避け、そこそこに甘い飲み物を注文していくことにしたようだ。もちろん俺たちの分も。だが……。


「なぁ、……この、メイドスペシャルオムライスって何だ?」


 たまたまテーブルに置かれていたチラシを目にした樹が、『メイドスペシャルオムライス』なるモノに興味を持ってしまったらしく、まず俺が思ったことは『マズイ』ということだった。コイツに食べ物のチラシを見せない方が良い。絶対に!


「……ぜってー、頼まない方が良いと思う」


 だいたい値段を見たのか!?

 どんなオムライスかは知らないけれど、このオムライス一品だけで千円を軽く越えていく値段になるんだぞ!?絶対に、ぼったくられるようなモンだ!だいたい、この手の店のオムライスなんて見た目とかメイドが運んで来てくれるだけで味は、めちゃくちゃ美味いってはずがない!


「なんでだよ!?」


 樹は、食いモノのことになるとめちゃくちゃ熱くなるからしばらく落ち着かせるまで時間が掛かるかもしれない……。


「あー、ははは……あ、森さんはゆっくりそのままでいてください!」


 カスミもメイドなんちゃらオムライスに興味を持ってしまった樹に呆れた顔をしている。が、その最中にも森さんは寝っ転がっていた体勢から起き上がろうとしているものだから慌てて声を掛けていったようだった。


「ん~……でも、だいぶ楽になってきているよ~?ミットくんのお陰かな~?」


 手のひらをグー、パーと握ったり開いたりして力が入るかどうかを確認しているようだけれど、俺がお姫様抱っこをしていたことはしっかりと覚えているらしく、ニマニマとからかうように笑みを浮かべられてしまった。……アレは、緊急上の措置として受け取ってもらいたかったところだけれど……。


「……そりゃ、どうも」


 それにしても、軽かったな……。見た目も、かなり細い方に入るとは思うし、カスミよりも身長は小さくて小柄だからそれに見合った体重もしているんだろうか?でも、抱っこしたときには、本当に同じ人間か?と不安になるぐらい軽く感じられた気がする。


「お待たせしました~。そちらのお嬢様には少し甘さをプラスしておきましたからね。ごゆっくりお休みくださいませ~」


 ここのメイドは随分と気が利くらしい。

 どう見たってワケ有りっぽい感じの俺たちなのに、店へ招いてくれたし、わざわざゆっくり休むことが出来る席まで案内してくれた。それに加えて、森さん用の飲み物には砂糖も多めに用意してくれたようである。

 ここまで気が利く人なら、メイドカフェで働かなくても一般的な企業でもじゅうぶんに働いていくことが出来るんじゃないだろうか?……まあ、研究員っていうのはあまりオススメしないけれど。


「ん~っ!!甘くて、美味しい!!」


 ふぅふぅ、と息を吹きかけてよくよく冷ましていくとカフェオレを口にしていく森さんは、だいぶ元気になったようだった。もちろん、このメイドカフェっていう空間にも興味を示したのかは分からないけれど、先ほどから親切にしてくれているメイドさんを視界に入れると目をキラキラと輝かせているから森さんの好みにクリティカルヒットしたのかもしれない。


「……まさか、森さんが捕まっていたなんてな……」


「あなた、渋谷にいたんじゃなかったの?」


 渚さんも森さんはてっきり渋谷で散歩……もとい散策をしているものだとばかり思っていたらしく、秋葉原にいたことに不思議がっていたようだった。


「その、つもりだったんだけれどさぁ……いつの間にか捕まっちゃったみたいでさぁ……参った参った!」


 たはは……情けない、と眉を曲げつつ溜め息を吐いていくものの森さんが捕まるなんてそれだけ強い何者かがいたんだろうか?


「ヴェイカントにでもやられたか?」


「ん~?いや、アレはたぶん違うね。いきなり後頭部から殴られた感じがしたから生身の人間にヤられたんだと思うよ」


 どうやらSC現象の空間の中とかは関係無く、現実世界の中においていきなり後頭部をガツンと殴られたらしい。そして、気が付いたときにはミットくん……つまり、俺の声が聞こえてきて意識を取り戻したのだという。


「はぁ!?」


「……そんなことが出来るのって……人間の仕業……だよな?」


「十中八九、裏社会の人間による仕業でしょうね……それに、森さんを知っているとなると……研究員たちのデータをそこそこに知られているのかもしれないわ」


 思わず、ごくり……と息を呑んでしまうが、研究員のデータを目にすることが出来る人間……つまりは、上層部辺りが早くも動いているってことなんだろうか。

 なんだかんだあってメイドカフェ、しかも随分と融通の利くメイドカフェに行っちゃいましたね!『お帰りなさいませ!』って言われてみたい!値段はそこそこ高そうだけれど、人生経験の一つとしてメイドさんとわちゃわちゃしてみたいぜよ!!!


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