37 バカ高いビル
今のところは、怖いぐらいに順調。
無事に電車にも乗れたし、このまま行けば秋葉原駅に行ける。
昔から家電製品を多く取り扱っている電気街口に出た俺たちは、電気屋の看板とともにアニメ系の看板もめちゃくちゃ張り出されている駅前の光景に目を丸くしていた。
そもそもが、あんまり秋葉原には来ない方だから視界に入ってくる全てのモノが眩しく見える。
「!いやぁ~、さっすがアキバ!看板とかもアニメ系のヤツが多いなあ!」
もちろん、ここ数年のうちにだいぶアニメ関連のショップだとかが増えてきたらしく、ちょっと見上げると電気屋の看板よりもデカデカと目立っているのは何かのアニメ作品のキャラクターたちの看板だ。
ただ、樹みたいにバカ正直に『アニメアニメ』って騒いでいると昔ながらの電気屋を好んでいる人たちからすればあんまり気持ち的には好ましくは無いんだろうな。
「……何の作品かは全然分かんねえけれどな」
アニメに疎いせいだろうか、あれこれと看板に描かれているキャラクターたちを見ても何のどんな作品なのかすら分からない。ただ、看板に使われているってことは、そこそこに有名な作品とか人気のあるキャラクターっぽいっていうのは分かるけれど。
「えーっと、可愛い女の子がいたり恰好良い男の子がいたり、賑やかだねぇ」
いやいや、カスミはそう言うけれど、看板になっている女の子よりもカスミの方がじゅうぶんに可愛い気がする……っていうのは、俺の心の中だけに留めておくことにするか。
同じ作品なのか、それとも違う作品のキャラクターなのか、それすらも分からないなか渚さんはご丁寧にも説明してくれるようだった。
「イケメン風の男の子はアイドルだとかを目指す作品ね。女の子の方も確か芸能界……アイドルを目指していく作品に登場するキャラクターだった気がするわ」
……もしかして、二次元作品とかが好きだったりするんだろうか?
別に、近くには痩せの大食いだとかメジャーデビューも夢では無さそうな人気のあるバンドをやっているクラスメイトがいたり、と変わったヤツがいるもんだから今更オタクだったって聞かれてもびっくりはしない気がする。
「……詳しいんだな」
「!ち、ちらっと話を聞いただけよ!?」
そこは素直に『詳しい』とは言わないのか……。
「はは!はいはい。つか、意外と渚さんって二次元作品にも詳しいんだな?つか、俺らよりも詳しくね?」
「……研究の合間の息抜きとかじゃね?」
むしろアニメとかなら現役の学生たちの方が詳しいイメージが強いが、たまたま俺たちはその手の話には詳しくは無いというだけで若者なら知っていても不思議じゃなさそうだ。
もしも研究員だったっつー渚さんが知るのなら研究だとか仕事の息抜きとかにアニメだとか地下アイドルとかに興味を持ってストレスとかを発散させていたとしてもおかしい話じゃないか。
「~っ、た、たまたま同じ職場の人がアニメとかが好きで、たまたま近くにいた私が話に巻き込まれたってだけよ!?」
やっぱり研究員の仲間に、この手の話が好きな人がいたのか。
でも、巻き込まれたって……そこは、話に乗ってあげて渚さんも詳しくなっていったって素直に言えば良いのに。今頃、恥ずかしがっているんだろうか?
「それって森さん?」
森さんの容姿っつーか、雰囲気?ちょい変わった感じが、秋葉原の空気には合いそうな気がする。
あと、白衣を脱いでちょっとしたコスプレとかをすれば人気とかが出るんじゃないだろうか。そもそもダボついた白衣も着せられている感じがして、ちょっとコスプレっぽく見えたし。
「森さんもこの手の話にはノリノリだったけれど、それ以上に好きだった人がいるのよ」
森さん以上にノリノリ……オタク系の人がいたんだろうか。
めちゃくちゃオタク……とか?
「へえ!だったら意外とこのアキバにある研究施設で働いているんじゃね?」
そういう分野が好きならば秋葉原に支部があれば喜んでそこで働きたい!と言い出すヤツもいそうだよなあ……。
それこそ研究施設がある場所によっては毎日のようにアニメ関連を目にしていくものなんだから二次元好きとしては最高の働き場所になるかもしれない。
「そこまでは分からないけれど……」
「……で、今のところ渋谷で感じた違和感みたいなモノってあるか?樹」
駅からちょい離れてきたものの、渋谷ほど……とまではさすがに言わないが、人通りはあるようだ。
そのなかでヤツらがいたり、既に戦闘でもおこなわれていたらたまったもんじゃない。
ここは、樹の勘の良さに頼ってみるか。
「いんや~?別に、普通じゃね?」
樹は、渋谷のときに感じた違和感のようなものは今のところは感じていないらしい。
キョロキョロと周りを見渡しているが不思議と変な感じは抱いて無さそうに見える。
「でも、このまま研究施設に行って、渚さんは一応同じ職員っていう立場だから入れるかもしれませんけれど……私たちってどうなるんだろうねぇ?」
ここへ来て、まさかのカスミの発言に俺と樹の声が見事なまでに重なってしまった。
「「あ」」
「……そこを考えていなかったわね。盲点だったわ」
『ただ来てみただけ』で終わってしまうのは渋谷で味わったし、せめて何か成果というものは得て帰りたいところだが、カスミのように俺たちって施設そのものに自由に出入りとか出来るんだろうか?たぶん、普通に考えると『不審者は無理です』、と追い返されそうだけれど。
「代表者とか、それこそアキバで働いている知り合いがいるなら外に出て来てもらうってのは?」
「誰が働いているかなんて、なかなか分からないものだし……」
支部もあちこちに存在していれば、働いている人も多いだろうし、きっと異動とかも多そうだな。
別に全員を把握出来なくても顔見知りって程度でもいればこっちとしては話が進みやすくて助かるんだけれど。
「……研究員みたいな身分証明書みたいなモンって無いのか?」
それらしい施設に働いていれば、管理も必要そうだろうし、それらしきモノがあれば管理も楽そうだから試しに言ってみると……。
「有るわよ」
あっさりと渚さんは答えてきた。
しかも、それは今でも持っているらしい。
「だったら、それ使って入れるんじゃね?」
「有っても、元々働いている支部で使えるってだけのモノだし……使えてもせいぜい入ったり出たりするぐらいしか使い道なんて無いんじゃないかしら?」
従業員の全データとかって見れたりしないんだろうか。さすがに、それは無理か……。
でも、入ったり出たりするだけでもじゅうぶん有難いと思える。
「……とにかく、行ってみるか」
「んで、どっち方面なんだ?」
秋葉原に来るまでには駅からは多少歩く、と言っていたから、方角的にも北とか南だとか、目立つ看板があっちこっちにあるものだから、どっちの方向へ向かうべきか……と考えていたら渚さんの視線は高いビルに向けられていた。
「そこよ?」
既に渚さんの足も止められているし、視線も『そこ』から動いていない。
ってことは、このバカ高いビル!?
「そこ?」
カスミも渚さんの顔と視線が向けられている方へと顔を向けていけば、高くそびえたっているビルを……見たらしい。
「そこの大きなビル。……の一部が、研究施設の支部になっているわ」
「って、目の前じゃねえか!」
「……めちゃくちゃ駅近だったな」
てっきり駅から離れた位置にあるものだとばかり考えていたから樹と一緒になって突っ込んでしまった。いや、だって渚さんの話し方からすると駅から十分とか二十分ぐらいは歩きそうな感じがしたよな!?
「……つか、そのビルって普通にいろいろな商業施設が入っているビルなんじゃ?」
「そうよ。なかにある数階にわたって施設になっているはずよ。……私が知っていたときは、そうだったのだけれど……」
いざビルの近くまで歩いていけば何階にどんな会社が入っているか、っていうことを目にしていくことが出来たものだからそれらしい名前……っていっても誤魔化されている可能性とかもあるのか?と思っていたけれど、途中途中で『NGO関連研究施設』そのまんまの名を付けられている階があった。
「……今も、ここ稼働しているのか?」
「そのはず、だけれど……」
なら、取り敢えず入り口までは行ってみるか。
えーっと一番下にあるのは……十五階か……エレベーターは……っと。
エレベーターホールで、ちょうど一階まで下りてくるエレベーターがあったからそこから乗り込んで向かおうとするが、そこで下りてきた一人の男と渚さんが目が合うとお互いに『『あ』』と口を開いた。どうやら知り合いらしいな。
まさかの駅近!!(苦笑)バカ高いビルがありますよね、その一室ならぬ、数階部分に渡って施設が入っている設定をさせていただきました!!
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