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33 常夜灯の下でのコソコソ話

 有島の路上ライブを聞き終えた壬生さんとはそれからすぐに離れ離れになった。

 このまま戻っても良いけれど……つか、もう学生がふらふら出歩いているのは危ない時間帯だな……。

「もうちょいで日付が変わるか……」


 スマホで時間を確認すると、さすがにこのまま町中をふらふら出歩いているとマズい気がする。

 でも、こんな時間帯まで家に帰らずにふらふら出歩いているのは日常茶飯事だ。さすがに一緒になってカスミも連れ出しているわけじゃなく、ある程度の時間になったらカスミを送って行って、それからは樹と二人になって時間を忘れてあちこちに出歩いているのは当たり前だった。だが、そういうときってだいたい制服姿でいることが多いので、どうしても気になってしまうのは職質だったり、補導員の姿だったりしている。

 幸い、今は私服姿だし。俺もそこまで幼い見た目ってわけでもないから、そこまで気にしなくても大丈夫なのかもしれないが、意外と一人で時間を潰すってなると難しいもんなんだな。

 カラオケでもゲーセンでも、とにかく近くには誰かしらがいるから楽しく時間を忘れて過ごすことができている。今は一人だから、どうやって凄そうか迷ってしまうぐらいだ。

 一人だと、こんなに退屈だったっけ。


 結局は、駅前をあっちこっちふらふら出歩いて、たまたま近くにあったコンビニに寄ってみたりしたけれど何か欲しいモノがあったわけじゃなかったからザッと雑誌コーナーを覗くだけにして何も買わずに出てきてしまった。

 みんな、もう寝ているだろうか……。

 これはこれで、戻るのも気が引けるかもしれない。

 俺が戻った音で誰か目を覚ましたりしないだろうか……。


 特にしたいことややりたいことが見つからないままに壬生事務所の二階にある休憩スペースに静かに戻って来た。

 やはり休憩スペースの明かりは落とされていて(常夜灯だっけか?ほの暗い明かりだけがついている程度の明かり)渚さんやカスミは新たに用意してもらった毛布を床に敷いて、きちんと体を横にさせて休んでいるらしい。が、そこに樹の姿は見当たらなくて少し視線をキョロキョロさせるとソファーに背を預けて中途半端な姿勢で……寝ているんだろうか?そのままでいたら明日、絶対首とか痛くなるパターンだぞ。


「お。やーっと帰って来たな?不良少年?」


 あまりドアを開けるときも閉めるときにも音には気を配ったつもりだったようだが、樹にはとうに気付かれていたらしい。


「……寝てなかったのか?」


「いやいや。うとうと~ってのは、してたって。さすがに、そろそろ遅いなあと思っていたから探しに行こうとしてたとこ」


「……悪い、遅くなった」


「いやいや~。俺なんて全然全然!むしろ渚さんやカスミが『まだ帰って来ないわね、何かあったのかしら』って心配しまくって大変だったっつーの」


 もちろん樹とこうして話をしているが、もちろん声量は落としている。

 床で寝ている渚さんやカスミたちを起こすわけにもいかなかったしな。


「……真面目そうな二人っぽいからな」


「そう言う不真面目、湊くんはこの時間までなーにやってたんだよ?まさか、いかがわしいお店にでも行ってた?」


「……アホか。んなこと誰がするかっつの」


 だいたい樹が『いかがわしい店』だなんて言い出すこともあるんだなってことにびっくりした。

 コイツの口からは、だいたい飲食店とか飯の話ぐらいしか聞かないからな。


「……そう言えば、有島が路上ライブしてた。壬生さんと一緒に終わりまで聞いてたんだけれどアイツ、歌上手くなってた気がする」


 もう数時間前の話になってしまうが、そう言えば駅前で有島たちのバンドが路上ライブをしていたことを樹に話していくと一緒に行きたかったようで悔しがっていた。

 コイツもなんだかんだで有島の歌は褒めているし、新曲とかにもチェックしていたりしているから有島のバンドを気に入っているのかもしれない。


「マジ!?俺も聞きたかったなあ。元々、有島って歌上手いし、湊のお墨付きなら尚更うめぇじゃん」


「……なんつーか、迫力?歌う熱意みたいなモンが強くなってる気がしたな」


 単純に歌も上手かったが、それだけじゃなかった気がする。

 強い意志だとか、音楽にかけている熱意みたいなモンを聞いている俺たちに向けてビシビシと伝えてくるような雰囲気があったから通りがかりの通行客もついつい足を止めて有島の歌声に聞き入っていたんだろう。


「へぇ~。なら、いよいよデビューが近付いて来たって感じかねぇ?」


 さすがに、早すぎるか?と思うかもしれないが、活動しはじめて数年の有島たちのバンドがデビューするのってそんなに難しいことなんだろうか。

 もちろん普通に考えていけば無謀な挑戦かとも考えられるかもしれないが、有島たちのバンドだったら既にデビューしていてもおかしくないぐらいの歌声や演奏が感じられる。

 本業である学校への遅刻や早退が多くなってでも続けていたい!と思えるほどの音楽の道なのだから、ここまで来たらとことんデビューまで進んでいってもらいたい。一応、俺も樹もカスミも有島たちのバンドを応援しているファンの三人ってことになっているからデビューでもしようものならめちゃくちゃSNSとかを駆使して有島たちのバンドを推していくかもしれない。


「……自分的には、まだまだだって言ってたけれどアイツぐらい歌が上手けりゃデビューしていてもおかしくないよな」


「つか、路上ライブ?音とか飛んでやりにくそうなのになあ」


「……あんま、そういうのは関係無しに聞いてられたかもな」


 スタジオでの練習はとにかく金がかかって大変らしいって話を聞いたことがあるが、外での演奏ともなると音が聞こえない、はっきりと自分の歌声も耳に入らないってこともあるようで苦手としているバンドも多いはず。

 だが、先ほどの路上ライブではそんな聞きにくさみたいなモンは全く感じられなかった。有島たちも音楽そのものを楽しんで演奏していたみたいだったし、ファンや客もゲット出来る良い機会になったんだと思う。


「んで?土産は話だけかよ?」


 ニヤニヤと口元を緩めてくるものだから、きっと食いモノでも楽しみにしているのかもしれないが、残念ながら何か買って帰るなんてことも考えていなかった。


「……食いモンは期待すんな。だいたい今日、具合悪くしてたのはどこのどいつだよ」


「ははー……俺、俺!」


 今、薄暗い室内のなかで見ても樹の顔色は良くなっている。

 数時間前まで、ぐったりしていたのが嘘みたいだ。


「……ったく。もう体は何とも無いのか?」


「平気平気!むしろ渋谷で、なんであんなに気持ち悪くなったのかが分かんねえぐらい」


 やっぱり原因みたいなモノは樹にもはっきりとは分かっていないみたいで未だに疑問を浮かべているらしい。

 やっぱり影響があるとすれば森さんの装置っぽいけれど……つか、森さんの装置って何だったんだ?カフェとかでも手元を見る機会はじゅうぶんにあったけれど、それらしいアクセサリーの類は見当たらなかったんだよな。


「……とにかく、明日に響かないうちに寝るぞ」


「ん。まあ日付的には変わってんだけどなあ~」


 あぁ、ついに日付が変わってしまったのか。

 ってことは、今日の朝に困らないように睡眠をとった方が良いだろう。


「……あんま寝坊すると女性陣が騒がしそうだから寝ようぜ」


 俺たちみたいな不良学生ならまだしも、渚さんもカスミも真面目系だからな。

 朝起きることが遅くなってしまってあれこれ文句を言われるような事態になってしまうのだけは避けたい。


「賛成賛成!」


 樹は元々体に被っていた毛布を被り直して。

 俺は休憩スペースの端っこに畳まれて置かれていた毛布を取って来ると樹のようにソファーに体を預けて寝入る体勢をとってしまった。

 たぶん、朝になると体ががちがちになりそうだが、今から床に毛布を敷いてあれこれと用意して寝転がるのも面倒くさく感じてしまってソファーに凭れ掛かった状態のままで寝入ることにした。


 有島たちのバンドか……久しぶりにCDとかじゃなくて生の演奏を聞いてみたけれど、やっぱり良い音楽だと思う。

 ただ、駅前をふらふらしていたのに、ヴェイカントらしき存在たちには出くわさなかったのはラッキーだったかもしれない。俺は一人だったし、きっと多数で寄ってかかってバトルにでもなれば怪我でもしていたかもしれないからだ。

 やっぱ、友は起きたね!というか、もしかしたら寝るフリはしていたけれど起きていたのかもしれないね!友っていいもんだよね!


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