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30 疑惑

 なんつーか、ほぼとんぼ返り。

 渋谷を見て回るなんてことは出来ずに新宿に戻って来てしまった。

 帰りも同様に、山手線に乗って新宿に向かうことにした。

 センター街近くでヴェイカントと遭遇、そして森さんが言うには駅周辺でもヴェイカントと遭遇していたらしいからそれとなく様子を伺っていたもののそれらしい姿が見えなく、安心して電車に乗ることが出来た。


「……樹くん、調子どう?」


 ちょうど空いている時間帯だったのか、先ほどまで具合悪そうにしていた樹を空いている席に座らせているとカスミが心配そうに樹の様子を伺っていた。

 もちろん今ではすっかり樹の顔色は良くなっている。


「おお、平気平気!もう何とも無いって!」


 まるでさっきまでの顔色が悪かった人間が嘘のように、今ではへらへらと笑って応えている。

 ……なんだったんだ、いったい?


「……森さんの装置って、そんなヤバそうな効果があったりするのか?」


 気が付いたら森さんの攻撃みたいなモノは、しっかりと目にすることが出来なかった。

 俺たちが現れた途端に、どんどんと後方に引っ込んで行ってしまったし……。


「ヤバいっていう意味がどの範囲を示すのかが曖昧なのだけれど、もしも敵対勢力が森さんの持つ装置を扱って威力を存分に発揮させられるのならば……出来れば、遭遇したくは無いわね」


 眉間に皺をつくっているから、相当な威力……っつーか、装置が生み出す効果みたいなモノが厄介なのだろう。


「普通の攻撃とは違うのか?」


「単純に、樹くんや湊くんたちのように水や火を扱って攻撃するようなモノもあれば、攻撃補助みたいな感じで攻撃威力そのものは高くは無いけれど補助効果が強いせいで対戦することにでもなれば苦戦する装置もたくさんあるわね……」


「……攻撃補助?」


 補助ってなかなか聞かないものだからそこんところをもう少し詳しく聞いてみたかったのだけれど、残念ながら樹の言葉によって遮られてしまった。

 くそ……。


「だいたい何で攻撃なんか出来る装置を生み出したんだ?医療界だっけ?それに役立てるだけっていうなら別に攻撃なんかいらなくね?」


 渚さんが言うにはアクセ装置は未来の医療界において希望を生み出すモノ。

 意識障害を治療するため、植物状態になって体は生きているのに意思疎通が難しい人相手を治療する……そういう意味があって研究し、作られているものらしいがこう魔法やらヴェイカントやらと戦ってばかりいるととても医療界に役立てられるものなのか?っていう部分も怪しくなってきてしまう。


「そこは、どうしても他人の自我を緩めたり、相手の自我を無くして踏み込んでいく必要があるでしょう?確かに攻撃が出来る装置なんて医療界からしてみれば不必要なモノかもしれない。けれど、思っている以上に自我っていうモノは強固なのよ」


 渚さんは、はっきりと言うが俺らからするとアクセ装置っていうのはゲーム内に登場してくる武器とかって言われた方が理解しやすい。

 自我……はっきりとは目にすることが出来ない、バリアみたいなモノ。

 でも、それを何とかするためにアクセ装置の生み出す魔法が必要なんだろうか?


「……それで、攻撃みたいな魔法が必要ってことか?」


「そう、なっちゃうわね……」


「でも、こうしていると医療界に使うモノって言うより対ヴェイカント戦のために生み出された装置って感じがするよなー」


 樹が思いついたままを口に出していけば渚さんは苦笑いを浮かべてしまった。


「まあ、最初に生み出されたモノがヴェイカントだからかしらね」


 あれ、そうだったっけ。

 てっきりアクセ装置の方が先に生み出されていたんだとばかり思っていただけれど、まさかヴェイカントの方が先に作られていたのかよ。


「ええ?」


「……そっちが先かよ?」


「ヴェイカントは謂わば人口AIを搭載した、疑似人工物。研究段階の空間の中に人間そのものを使うわけにはいかないでしょう?だから最初はSC現象の中でヴェイカントがどんな行動を取れるのか、どんな影響を受けるのか……っていう単純な研究をしていたはずなのだけれど……裏の研究者の手によって、ヴェイカントは完全に悪なモノとして成り立っちゃったわね」


 あー……言われてみれば、納得かも。

 SC現象を起こして、そしてその中に今まで戦ってきているモノよりも遥かに知能的には衰えているヴェイカントを放り込む。そして様子を見る……。

 でも、今では裏社会の人間たちがヴェイカントを戦う道具の一つとして研究し直してしまっているってわけか。


「なーんか、また頭がごちゃごちゃしてきそうな予感」


 そろそろ樹の頭の中もパンクしそうなのか、今にも音を上げそうだった。


「あははー……確かに難しいよね」


 それにはカスミも同意しているようで、これ以上小難しい話はしない方が良いのかもしれない。


「んで?もう今日のところはこれで引き上げってか?」


 新宿駅前に出ると、辺りもだいぶ薄暗くなってきている。

 こうなると新宿をあちこち出歩くってわけにもいかないだろうなぁ……いろいろと治安的な問題もあって。


「……まあ、特に用は無いしな……」


「湊さん、湊さん」


 このまま真っすぐ帰るか、と相談しようとしたところに背後から声を掛けられたのでガラにも無く、びっくりしてしまった。

 そこには、確か壬生さんところで見た部下の一人……だったはずの男が。


「……うぉ!?って、アンタ確か壬生さんところの?」


「はい、壬生の部下です。どうやら新宿の駅構内にてヴェイカントの姿が発見されました。幸い、事務所の近くは安全らしいのですが、その道中は気を付けた方がよろしいかと……」


 駅、構内……だと?

 幸い、俺たちとは出くわさなくて駅前に出ることが出来たけれど、そんなヤツらが駅構内にまでうろつくようになってきたのかよ。


「……あぁ、わざわざ悪い」


 軽く会釈をすると壬生さんの部下も軽く頭を下げ、また移動していってしまった。


「ヴェイカント、増えてね?」


 樹がおもむろにそう呟く。

 確かに……。

 ヴェイカントって一定の距離の範囲をうろつくことぐらいしか出来なかったはずだよな。

 それが、駅構内にまで出没しているとなるとこれからの移動にも苦労する場面がやってくるかもしれない。


「そうね……渋谷でも思ったのだけれど、そう強くは無いのに数ばかりが増えている感じがするわ」


「あー、いや。そうじゃなくて、……なんつーか、俺たちの行く所行く所にヴェイカント、存在してね?」


 こういうとき、樹みたいな勘が良いヤツの発言ってなかなか無視することが難しい。


「……スパイみたいなヤツがいるってか?」


 俺たちの行動を予測している誰かがいるのか、それとも俺たちの行動を知っているのか……。


「スパイって……」


 カスミはスパイなんていう存在は映画だとかに存在するモノとばかり考えているのかもしれないが、今回ばかりは簡単にスルーするわけにはいかない。


「だってそう思わねえ?新宿は何となく分かる。最近、研究所が襲撃されたからな。だけれど、渋谷に行こうってたまたま言い出しただけだぜ?それなのに、行った途端に出くわしてるじゃねえか」


 新宿にある研究所が狙われた。

 だから新宿に、ある程度のヴェイカントが存在しているのは何となく想像がつく。

 だけれど、たまたま渋谷に行ってみたら、そこでヴェイカントと戦っている森さんと遭遇してしまった。これは、本当に『たまたま』なんだろうか。


「……もしかして、私が疑われているのかしら」


 不意に立ち止まった渚さんはじゃっかん顔を伏せながらたずねてくる。

 俺たちはダチを疑うつもりは無い。

 だけれど一番可能性があるとすれば渚さんかもしれないが、わざわざあからさまに分かるような手段を渚さんが使うとも思えないんだよな……。


「……いや、そうは言わないけれど」


「別に渚さんが怪しいんって言うんじゃないっつの」


「でも、疑わしいのは私なのでしょう?」


 やけに渚さんも食らい付いてくるな。

 今回、たまたまが重なったことで渚さんも繊細になっているのかもしれない。


「……でも、本当に渚さんがどうこうしたいならこんな道端でヴェイカントまで使って仕掛けるか?それとなくカスミを連れ出してそのまま攫う……って考える方が自然なんじゃね?」


 樹は言葉には出さないけれど渚さんじゃないって考えているだろうし、カスミだって渚さんを怪しいヤツだとは思わないだろう。

 だから敢えて俺が言葉を発していくことで少しでも場を和らげたかった。


「湊くん……」


「言葉では何とでも言えるかもしれないけれど私は本当に何も企んでいないわ」


「……だから渚さんのことは疑ってないから」


 なかなか納得してくれない渚さんに気まずくなりつつ、道中のヴェイカントどもに気を付けながら壬生事務所に戻って来ることが出来た。

 それでも、何処か俺たちの間に漂っている空気感みたいなモノは重くて、気まずい空気が流れていた。

 まさかのスパイ!?いやいや、渚さんだって追われている身だもの!そんなスパイみたいな真似なんて……無理だよ!!!(汗)


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