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3 『物質』理論

 渚さんが言うには、これから渚さんが話すことを聞けばもう日常には戻れないらしい。

 でも、カスミは?カスミが危険だってことは変わらないんじゃないのか?

 だったら、カスミを守るために、日常とは今日で縁を切ってやる……。

「……あの、お茶ぐらいしかすぐに用意出来ませんけれど、どうぞ……」


 家に入ってからのカスミは慌ただしかった。急いで通学バッグを壁際の端に置くと湯を沸かし、お茶の準備をしてくれる。まあ、俺と樹も一緒に来てしまったが、別にそこまで気を遣わなくても良かったんだけれど。だってカスミとは昨日今日出会ったような仲じゃない。もう半年ぐらいは一緒につるんで過ごして来ているんだから楽にしてくれて良い。でも、今日は涼風渚さんというイマイチどんな人物なのか読めない女性が訪問している。何処かの会社員だろうか。まあ、外に停めていた車はそこそこ良さそうな車だったし、良い所に勤めている女性なんだろう。だが、カスミの両親は本当は殺された、なんて言われてカスミはすぐに信じたのだろうか。俺だったらそんなこと今更言われても困惑するだけだ。


「あ、カスミー!テレビ付けて良いか?」


「え、うん。いいよー」


 樹は何か気になることでもあったのか、スマホではなくテレビを観てニュースでもやっていないかとチャンネルを変えては、これじゃないよな……と呟きつつあちこちの放送局のニュースをじっと見ていた。


「さっき言ったこと、気にしているのかしら?いくら放送局を変えてもメディアでは何処でも火事だとしか放送されていないはずよ」


 渚さんの言葉に小さく舌打ちをすると諦めたように樹はテレビそのものの電源を落としてしまった。


「なあ、渚さんって言ったっけ?アンタ一体何者なんだよ。なんかいろいろ知ってるっぽいけれど、一応カスミを……守ろうとしているってことで良いんだよな?」


「もちろんよ。そうじゃなきゃ慌ててここまで来ないわ。……でも、あなたたちはカスミさんのクラスメイトなのでしょう?帰らなくて良いの?」


「はは!俺ら不良学生だからさー。な、湊!」

 

 ニッと笑みを浮かべながら樹は言うけれど、不良学生ってそんな笑いながら自分で言うことかよ。


「……そんな自慢することじゃないと思うけれどな」


「私はカスミさんに、知らせなきゃいけないことがたくさんあるわ。カスミさんのご両親がおこなってきたこと。これからカスミさんが危険な目に遭いそうになることも予想が出来る。だからここに来たの。あなたたちはただの学生でしょう?……私の話を聞いたら、日常には戻れなくなるかもしれないわよ?」


「って言われてもなあ……カスミとは長い付き合いだし?」


「……日常って、そもそも何だよ。平和に暮らすことか?」


「日常は、そうね……裏社会のことを知らずに、裏社会の人間とは関わらずに過ごしていくことよ」


 樹は、そこまで重く考えていないのか、笑い混じりに答えていく。まあ、俺も似たようなモンだから別に今更……って感じなんだよな。


「はは!だったらもう遅いんじゃね?渚さん。アンタも少なからず裏の社会を知っている人っぽいだろ?なら、もう足を突っ込んでるようなモンだっつーの」


「……確かに。それに、本気でカスミを連れてどうこうしようと思うなら停めてあった車に乗せてどっかに行けば良かったんじゃねえか?」


「そう。でも、きっと後悔するわよ。そして、その後悔をした時には、遅いのよ。私の話を聞かなきゃ良かった、知らないままが良かった……なんて言わないでちょうだいね」


「そんなヤバそうな話なのか?え、つか、渚さんってもしかしてヤクザとかの人だったりする?」


「そんな、さすがにヤクザとかではないけれど……もしかしたら、もっと怖い人なのかもしれないわよ?」


「……全然、見えないけれど」


 渚さんだけを見れば普通の社会人って感じだ。こんな人が怖い?そんな感じは全然しないんだけれどな。


「それは私が身分を隠しているから、じゃないかしら?」


「……ナギさん……渚さんは、悪い人なんかじゃないよ……」


 お茶の準備が出来たらしいカスミが、お盆に乗せたお茶をテーブルに運びながらそう言った。さっきまでこの人のこと忘れていたんじゃないのかよ。悪い人じゃないって、なんで言い切れるんだ?


「ありがとう。いただくわね」


「つか、カスミとどういう関係?」


「私っていうより、お父さんとお母さんと職場が同じだったんじゃ……?」


 カスミの両親が今更何をしていた、とかはあまり興味が無いけれど渚さんが何をしているのか、それがカスミにどう関係するのかってところは気になっている。


「そうね。ご両親とも研究員だったから私と一応職場は同じだった……はずよ」


「……その、妙な言い回しは?」


「カスミさんのご両親は純粋に世界のために役立つ研究をしていたの。もちろん私も。それが……ある日、狂ってしまった」


「カスミの両親……つか、渚さんの研究って?」


「とある理論について研究していたのよ」


「理論?……なーんか、学校の授業みたいだな……」


 うへぇーっと途端に樹は嫌そうな顔をしているが、さっき言われたように今更後悔しても遅いんだからな?


「もっと難しい話になるかもしれないわよ?」


「『物質』理論っていうモノじゃ……?」

 

 不意に、カスミの口から洩れた言葉。『物質』理論?なんだそりゃ。


「あら、カスミさんは知っていたの?」


「そこまで詳しくは……でも、世の中の全てのモノには理論があって存在することが出来ているって話は聞いたことがあります」


「存在?」


「……例えば、キミは樹くんと言ったわね?樹くんが今ここに存在出来ている理由を自分で説明することは出来るかしら?」


「説明?えーっと……俺は中原樹だー!って主張すること、か?」


「……そんな説明有りかよ」


 単純過ぎて思わず突っ込んでしまったが、どうやら樹の言ったことは全然的外れってわけでもないようで渚さんは小さくうんうんと頷いていた。


「でも、それが全て間違いってわけでも無いわよ。ただ、今の樹くんの説明だと半分ぐらいしか点はあげられないわね」


「?」


「自分が主張をすることももちろん大切。だけれど、周囲にも樹くんという認識を持ってもらうことが出来てはじめて、中原樹という人物がここに存在出来るようになっているの」


「……周囲からの、認識?」


「キミは自分でいくら樹という人間だとアピールをしても、周囲が、キミは樹という人間ではない。B君という存在だ、と言い続けていると樹くんという存在は壊れてしまうのよ。逆に周囲からキミはW君だ、という強い認識を与え続けていくとその存在はW君っていう存在に変わってしまうこともあるの」


 つまり、A君が『俺はAという存在だ』と周りにアピールをし続けても、周りがAという存在の認識をしてくれなければAという存在ではなくなるってことか?つまり、世の中からAという存在が壊れたり、存在自体が消える……?または、全然違う存在に変わってしまうってことか?


「はあ!?」


「……そんなことって、有り得るのか?」


 正直、説明を受けても半信半疑だ。でも、渚さんは嘘を言っているような顔はしていない。かなり難しい話だから俺たちに分かりやすくどう言葉を使って話せば良いのか困っているような顔をしているって感じだ。


「それが有り得るから、私は……私やカスミさんのご両親はその研究をしていたの」


「一体なんのために?」


「……医療界に。意識不明の重体患者、心臓は生きているのに意識が反応してくれない植物状態となってしまった患者の意識を取り戻させる手助けをするために、研究をはじめたものだったの」


 あー……何となく言いたいことは分かる。さっき樹が一生懸命に自分を説明しようとしていたことを、今度は周りから、あなたは健康体だ、目を覚ます、とかって強い認識を与え続けていけば意識が無い患者の意識を取り戻す……って感じだろうか。

 俺が考えていたことをささっと簡単に口に出してみると渚さんは大きく頷いてくれた。だが、それが狂い出した?なぜ……こんな方法を知っていたら今頃、医療界はすげぇ助かるんじゃないのか?しかもその力具合を上手く使えば病気なんてものも世の中からも消すことが出来るんじゃ……?

 難しい……ですよね。でも、これが一度理解をはじめるとなかなかに面白いお話になっていきます。ゆっくりで良いので作者とも一緒になって考えていきましょう!


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!

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