27 レッツ・カフェ!
取り敢えずセンター街、渋谷駅前周辺のヴェイカントは倒したらしい。
森さんが言うには、駅構内からヴェイカントだらけで大変だったという……。
「およよ?コッチの可愛い子チャンは!?どちら様?」
ハイタッチはしたものの、改めてカスミを目にした森さんは目の前のカスミに首を傾げてしまっている。
「あ。えっと、カスミ・カエラムです……初めまして」
カスミが礼儀正しく頭を下げて自己紹介を。
「はっじめましてー!私は森王林!(もり・おうりん)リンリンって呼んでねー!」
森さんもカスミにならって……とは、ならなかったらしい。
森王林さん、か。
つか、リンリンって何だよ。
絶対そんなふうに呼ばないからな。
「つか、ヴェイカントって意外と弱っちいのなぁー……でも、ちょい疲れたかもー」
樹からすればヴェイカントと戦うのは初めてだったから気苦労やら緊張といったものも少なからずあったのかもしれない。
戦闘そのものは楽勝に始末を付けることが出来たが、慣れない戦闘ということに樹は疲れを感じているようだ。
「!あ、だったらさ、休憩がてらここから近いところにカフェがあるから行こうよー!」
森さんは、あっちあっち!と指差しながら行こう行こう!とノリノリである。
「……カフェ?このメンツで?」
俺たちは一応私服姿だから問題無いかもしれないけれど、森さんは自分の恰好を見たのだろうか?
アンタ、白衣を着ているんだぞ?
はためから見れば、一番怪しいのは森さんだ。
「?何か問題でもある?」
特に自分の恰好には変なところは無いよ?と言いたげな森さんに俺はもう何も言うことが出来なくなってしまった。
「……あー、いや、別に……」
「なら、決定!アイボリッシュに、ゴーゴゴー!」
アイボリッシュ?
あー、なんか店の名前なら聞いたことがあるかもしれない。
女性陣なら喜びそうな店だった気がする。
そこに俺と樹も一緒に行くのか……。
「……な、何なんだこの人のテンション……」
「つか、渚さんの同僚……つーことで、良いんだよな?」
しばらくぽかーんとしていた樹だったが、ハッと我に返ったらしく森さんを眺めては渚さんとを交互に見て、同僚?と首を傾げていた。
「そ、そうね……慣れないうちは、彼女の明るさに戸惑うこともあるかもしれないけれど凄く頭が良い人よ」
この言い分をするってことは、森さんと出会った頃の渚さんも森さんの明るさに戸惑っていたのかもしれない。
なんつーか、振り回されるって感じがする。
だが、頭が良いってところにはちょっとばかし興味がわいた。
「おーい!そこの三人組ー!カスミんと一緒に先に行っちゃうぞ~っ!」
森さんはカスミの肩を抱きながら(カスミのことを『カスミん』とかって呼んでいるし)ルンルンとどんどん店に向かって先を歩いて行ってしまう。
カスミも戸惑っているらしいが森さんの明るさにどんどん負けてしまって、されるがままになってしまっているようだ。
「!ちょ、待て待て!」
急ぎ樹が森さんとカスミの後を追いかけていく。
その後ろを歩きながら、俺はこっそりと渚さんに向かって口を開いた。
「……悪いヤツじゃ、ないんだな?」
どうしても得体の知れないや初対面の人、モノを目にしてしまうと警戒してしまうのが俺みたいだ。
渚さんの同僚と聞いても心の何処かでは、実はスパイみたいなことをしているヤツなんじゃないだろうか、味方と見せかけておいて実は渚さんやらカスミのことを狙っているんじゃないだろうか、と考えてしまう。
「違うわ。それに、裏切ろうと思えばさっきの戦いの段階で裏切っていたでしょうね。彼女、少し独特な装置を扱うから私たちが束になってかかっても苦戦するかもしれない」
だが、俺の警戒は渚さんの一言で覆されてしまった。
独特な装置っていうのも少し気になった。確か一回だけ森さんが力を使っているところを見たが、ちょっと怪しげな攻撃というか……普通に、火とか水とかを生み出した感じの攻撃では無かったような気がする。
「……そんなに?」
「明るさが何よりもの取柄って思うかもしれないけれどアメリカで飛び級を繰り返して十代の頃から研究員として働いていたから……まだ、確か二十歳そこそこだったんじゃないかしら」
飛び級!?
しかも森さんの年齢を聞いて、びっくりしてしまった。
下手したら俺らと同い年ぐらいでも通用するかもしれない見た目をしていたが、まさの二十歳かよ。
……見た目、幼いんだな。
「……童顔っぽくね?」
「それは、まあいろいろと言われているそうだけれど……」
こればかりは渚さんでもフォローするのが難しいらしい。
白衣だって、ダボついているし、白衣に着せられているって言っても良いかもしれない。
「っもう、ナギっちー!メッシュくーん!置いて行くよーっ!?」
め、メッシュって……俺かよ!?
まあ、見た目のことを言っているらしいし、ちゃんとこっちは自己紹介も出来ていないから目立つ見た目で呼んだのかもしれないが、そんなふうに呼ばれるなんて思ってもみなくて面を食らってしまった。
「……行くか」
「そうね……」
俺も渚さんもいつまでも、森さん独特な呼び名で呼ばれ続けているのはさすがに恥ずかしい。
しかも森さんの声は、かなりデカイから周囲を歩く一般人たちからも視線を向けられているのがよく分かる。
あんま無駄に目立ちたくないんだけれどなあ……。
森さんの案内で、着いたのは『アイボリッシュ』。
確か、ドリンクの種類も多いけれど、なによりも有名なのはフレンチトーストだった気がする。
店に入った瞬間に甘ったるい匂いが届いてきて、如何にも女子が好きそうなカフェって感じがした。
「えーっと、この人数で座れる席はー……あ、五人で座れる席ってあります?もしくはダブルの席を使っても良いですか!?」
カフェとか大人数で店に来ることに慣れているのか、店員とのやり取りは積極的に森さんがおこなってくれて、悠々と座れるようにテーブルをくっつけてくれて座れるように手配までしてくれた。
「えっへへ~!ここは、おしゃれなフレンチトーストがあるんだよ~!」
店員さんが準備してくれたメニュー表を見るまでもなく、森さんはワクワクして説明してくれた。
来たことがあるんだろうか。
慣れた様子で自分の注文を決めていく森さん。
「お!ポテトもあるじゃん。頼も頼も!」
メインのフレンチトーストはもちろんのこと、サブメニューにもさらりと目を通していった樹は思っていた通りにフライドポテトも注文していった。
「普通にドリンクとのセットで良いんじゃないかしら?」
コーヒーもあるようだし、渚さんはプレーンなフレンチトーストと一緒にコーヒーを頼むらしい。
「あ、ベリー系のフレンチトースト!美味しそうですね!」
やけにフルーツ系がふんだんに乗せられたメニューの写真に心惹かれたらしくベリー系が乗ったフレンチトーストを注文していた、カスミ。
さて、俺はどうするかな……。
フレンチトーストって元が甘いよな。
あ、コレとかが良さそうかもしれない。
エッグベネディクトとフレンチトーストという総菜系クレープのフレンチトーストバージョンといったところだろうか。
各々の注文をして、品が手元に届くまでは簡単にそれぞれの自己紹介からはじまることになった。
……つか、こういうノリだと、合コンっぽく見えるかも?別に合コンに行ったことは無いけれど。
改めて、俺、樹、カスミが自己紹介していけば、同じ学校の同級生だったんだねぇ!と驚いた様子の森さんだった。
「だって、あんなに戦えていたから傭兵とか研究に詳しい誰かかと思っちゃったよ~」
傭兵?
なんか、顔に似合わずに物騒なことも言う人なんだな……研究をしていると、そういう危ない役職の人とのやり取りなんかもあったりするんだろうか。
「改めて、私は森王林!リンリンで!ちなみに、二十歳だよ~!」
「若っ!!つか、もうちょい下でも、全然見えるかもしれねえな!」
年齢を聞いた樹は一番誰よりも驚いていて、目を丸くしていた。
俺も未だに信じられないけれど、十代でも全然通用するかもしれない。
「はっはー!よく言われる~!」
しばらくは、他愛の無い話をしていて注文した品が届いてからは、森さんも渚さんも真面目な顔をしはじめていった。
でも、甘いフレンチトーストを口にしながら真面目な話をするって……ちょっとギャップというか、変な感じがして、ついつい苦笑いをしてしまった。
森王林二十歳でっす!よろしくね~!っということで、めちゃくちゃ頭が良いニューフェイスが登場!もちろん装置は持っていますよ。
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