23 呪い
いやいや、いつも渚さんが説明してくれているんだから渚さんがすれば良いのに。
説明って言われても……どう言えば良いんだろう?
「……昔の人からすると三十代っていうのが若いのかそれとも中年ぐらいなのかは分からないけれど、その年代で処刑されたっていうのは聞いたことがある」
今の時代で言えば三十代はまだまだ若いと思う。
でも、昔だと三十代っていうのはそこまで若いって感じでもなかったのかもしれない。
「三十代!?……人生まだまだって感じだよなあ……」
樹的には三十代と聞くとまだ『若い』らしい。
まあ、あくまで今の時代だからそういうふうに考えられるんだろう。
「でも、そんな処刑されるような罪をしていた人だったっけ?」
カスミは、きっとアントワネットの肖像画とかを見たことがあるらしく、首を傾げながら頭に思い浮かべているのかもしれないが、処刑されるような罪があった女性だなんてことまでは知らないらしい。
「……派手好きだったんだろ。浪費家だとかって聞いたことあるし」
確か、あれこれと財を使いまくっていた生活をしていたような……?
しかも、その財っていうのがその家が持っている金ならまだしも国だとか地域のためにある金だったような気がする。
そのせいで周りからは非難を浴びたんだろう。
「でも、ギロチンで処刑されるとか……その国?その時代?なんか、おかしくね?」
樹の言いたいことも分かる。
ギロチンで処刑されるってことは多くの民衆の目に晒されるってことになる。
しかも、命の最期を見られるってわけだ。
こう考えると当時の人たちって相当肝がすわっていたとか?
例え罪人だとしても目の前で人が死ぬんだぞ。
それって普通の精神で目にしていけるものだろうか。たぶん、俺だったら耐えられなくて目を逸らしてしまうと思う。
「残酷のようにも思えるけれど、確実な方法だったのかもしれないわね」
まあ、刃を止めている紐だかなんだかを緩めるだけでスパンッと首が落とされるわけだからあっけない最期を迎えるっていう言い方も出来る。
それに渚さんが言うように確実に死を与えるには適切な方法だったのかもしれない。
「んで、その名が付いた処刑道具が……アクセ装置として有名になったっつーこと?」
「そもそもアントワネットを処刑したギロチンの刃は後の世になって小型のナイフに形を変えていったとされているわ」
あ、それは聞いたことが無かった。
渚さんが言うにはギロチンは後の世になって鍛冶師だかの手によって小型のナイフにされていったという。
……でも、アントワネットを処刑したナイフだなんて聞いたら、あんまり使いたくは無いかも。
「ナイフ?」
「おや。それではアントワネットに関係するかどうか分からないのでは?」
壬生さんも疑問に思ったようで不思議そうにたずねてきた。
でも、ナイフなんていちいち説明でもしなきゃ、そこらじゅうに存在するものだろう。
アントワネットを処刑したギロチンの刃が元になっていますよー!だなんていちいち説明しまくっていたんだろうか。
「そこは、一部保管していたモノが見つかったということでお借りしたの」
「へぇ……」
「なんか、アントワネットって付くからその女の呪いとかこもってそうだなあ」
「……確かに、有り得る」
「呪い……」
最期はどんな気持ちを抱きながら処刑台に上がったんだろう……。
もしかして民衆に恨みやらを抱いていたのか、それとも心穏やかな状態で死を受け入れたのか……。
「私みたいに研究していると呪いと名が付いているものも後からいくらでも説明が付けられるようなモノばかりよ」
さすが『物質』理論を研究しているだけあって呪いとか耳にしても渚さんは怖がるどころか良い研究材料の一つとして考えているようだ。
「……例えば?」
「座るとたちまち不幸な死を遂げるとされている椅子とか……指輪だとか……」
「椅子~?」
「座るだけで、ですか?」
椅子?指輪?
へぇ、それは聞いたことが無かった。
だからついつい渚さんの話を真剣になって聞き耳を立てていくもののやっぱり渚さんみたいな研究員からすると呪われる効果っていうものも最初から存在していたわけじゃなくて、後になってから付属された効果、って感じらしい。
「座ると呪われる椅子とか指輪も、研究者から言わせてもらえば不幸がおとずれるっていう周囲の認識がどんどん強まることによって本当に不幸を招く力を持つようになってしまった……っていう感じでね」
いろいろと曰く付きな話を聞いているけれど、なかなかに面白かったりする。
一時期は、こういう手の話にハマって調べまくったことがあったりしたけれど、そのほとんどの話は周囲の認識が強いから与えられた不幸をもたらす力っていうことだったんだなあ。
「……なら、最初は普通の椅子だったってことか?」
「そういう説が多いわね。たまたま有名人が腰掛けて不幸が起きたから余計に注目されて、これは不幸を招く椅子だ!って強く認識されてしまったのよ」
なかには興味を持って遊び半分で椅子に座ったという人もいたんだろう。
それがそれが既に呪いが付与されてしまっているモノだから当たり前に不幸が訪れて、ますます認識が強まることになっていったりしたのかもしれない。
「へぇ~。まあ不幸に見舞われた人からするとご愁傷様って感じだけれど話自体は聞いていくと結構面白いモノなんだなあ」
「……同感」
「そ、そうかなぁ?」
う~ん、と首を傾げつつ『面白い』話題かどうかってことに不思議がっているカスミ。
「あれ、カスミはこういう話って苦手か?まあ歴史云々って言われると難しいけれど呪いの椅子とか指輪とか聞くと面白くね?」
「……カスミは真面目だから不幸を食らった人たちの気持ちも無視出来ないんだろ」
実際にいろいろな死を招いたり、不幸っつー効果を食らった人たちがいるんだからここまで有名な話になっているってわけで、その近親者とか仲が良い人たちの立場からすると悲しい話だと捉えられなくもない。
「あ、なるほど。カスミは優しいからなあ」
まあカスミは、基本的に困っている人を放っておけない性格をしている。
クラスメイトでバンド活動をしている有島音葉がこの時代においてもCDを一枚でも多く売ろうとアピールしようものならカスミは『私も欲しい!』って自ら買いに行くような人間だ。CDなんて売り上げ自体が難しい時代になってきているのに、有島もよく頑張ってる……。
「……とにかく、渚さんが知っているソレらには気を付ければ良いんだろ?」
「他にも威力が強い装置に登録者が現れれば、さらにこちらとしては困るのだけれどね……」
「ほとんどの装置は研究員が持ち出したんだっけか?」
研究員が逃げると同時にささっと手に取り、持ち出すには適した大きさだろうしなあ……とふと、手元の指輪に視線を落とす。
「それがほとんどなのだけれど……ほら、研究員も殺されて奪われるってこともあるだろうし……」
あー、実際にあったっけ。
でも、なかには研究員は殺されるだけで装置自体には目もくれずにいるという間抜けな裏の人間もいるらしいが。
「渚さんは、装置を見ればすぐに何の名前か分かるんですか?」
そう言えば、だいたい形としてあるのは指輪型・ブレスレット型・ネックレス型だ。
もちろんコアである石の色はそれぞれに違うのだろうが、それでも見た目はアクセサリーだから区別?とか付くんだろうか?
「そうね。だいたいは。一応、研究していた身だし」
同じ指輪型のアクセ装置を並べてみても、これは〇〇ね、これは××ね、と渚さんなら一つ一つ名と説明をしていくのかもしれない。
区別がつくって段階で、すげえよ。
「あ。そう言えば壬生さんが持っていたっつーヤツは?」
今のところ壬生さんは登録して、装置を扱うつもりは無いようだ。
まあ、最初から戦うつもりでいるならとっくに登録しているよな……。
「未登録だったわね……壬生さんは扱うつもりが無いようだし、私が保管でもしておいたほうが良いのかもしれない」
「おや。そういうことでしたら涼風さんの言葉に甘えて保管してもらうとしましょうか」
コア部分に触れないよう気を付けながら渚さんに未登録のアクセ装置を渡していった。
同じ指輪型でも、意外とところどころにデザインが違うのでは?そうでなくて区別が付いちゃったらそれはかなり凄い!!
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