21 フラグメントの使い方
どうやら今まで生きて過ごしてきたことが戦いに役立つらしい。
まさにヴェイカントとやり合ったときの戦い方っていうのが俺の格ゲーの戦い方だというのだ。
「んで?ちょい脱線しちまったけれど、コレって役に立つのか?」
テーブルに並んでいるフラグメントを見て樹が首を傾げる。
もちろん食い気の方も忘れていないようで、残りのハンバーガーを食べていた。
「そうそう。アクセ装置を強くさせる方法が、このフラグメントよ」
「……コレが?」
「どちらも情報を集約されたモノ……のような感じですが、それを強く?」
情報を強くする……っていうことが壬生さんでもよく分かっていないようで不思議そうな顔をしている。
「そもそも情報を取り扱うモノを強くするってどういうことなんだろう?」
カスミも情報を強くすること=セキュリティーレベルを強くしていくこと、とでも考えているんじゃないだろうか。
「フラグメントにも情報が存在しているわ。この情報をアクセ装置に読み込ませる……って感じかしら」
「情報を……読み込ませる?コレに?」
フラグメントと自分の手首に付けているアクセ装置を交互に見ては難しい顔をしてしまった樹。
「……俺たちが最初にした登録っていうのとは違うのか?」
アクセ装置には俺たちの情報を読み込ませた。
そうして取り扱うことが出来てSC現象の中でも自我を保てるようになったわけだけれど……。
「あれはあくまでも使用者の情報を登録しただけ。うーん……自分だけが取り扱うことの出来る車だとかバイクに生体認証をさせたって感じかしら」
俺としてはロボットアニメとかに出てくる機体を自分だけが動かすことが出来るように登録したってことだろうか。その本人以外がどんなに触ろうとしても起動すら出来ないっていうふうに……。
「……それ以外の情報を読み込ませるって……」
「?」
渚さん以外は疑問符でいっぱいいっぱい、ついでに言うと頭の中の情報もいっぱいいっぱいになっているだろうから適した言葉も見つからないのかもしれない。
「コレばかりは、やって見せた方が早いかもしれないわね」
あまりにも周りが静かになっていくものだからついつい苦笑いをしはじめてしまった渚さん。
「まず、フラグメントを手にする。そしてアクセ装置のコアとも言える石に近付けるの……」
説明もとい実施をすることでそれを証明してみせるらしい。
テーブルの上に並んでいたフラグメントの一つを手に取るとネックレス形状のアクセ装置の大きな石部分であるコアにフラグメントを近付けていった。
『データの読み込みをはじめます。完了、『物質』理論装置に新たな情報が蓄積されました』
すると最初に登録認証したときやSC現象の探知に引っかかったときと同様に機械音声のようなモノが流れ出して、あっという間に情報は読み込まれてしまったらしい。
でも、それで終わり……というわけではなくて、元フラグメントだった欠片の色が無くなっている。確かさっきまでは黄色をしていたような気がした。
「あれ、さっきと色が違う……」
渚さんが手にしているフラグメントの色が無くなったことに気付いたカスミが目を丸くしている。
さっきまで黄色を発していたものって情報だったってことか?
「この中に入っていた情報というものは装置に吸い込まれたってこと。つまりは、この元フラグメントはもう何の価値も無いってこと」
無色透明になってしまった元フラグメント。
そのなかに入っていたらしい情報というモノは渚さんのアクセ装置に入ったらしい。……これで、アクセ装置が強くなるってことか?
「へえ!それだけで良いのか!面白そうじゃん!」
楽だな!と気楽に樹が言っているが……この方法を渚さんが知っているってことは……。
「……でも、ヴェイカントからフラグメントってヤツは手に入るんだろ?裏のヤツらは、それを知らないのか?」
このフラグメントはヴェイカントを倒したときに、たまーに手に入るモノらしい。
つまり、ヴェイカントを量産している裏社会の人間からすれば、フラグメントは手にし放題。いくらでも手に入れる機会があって、その分だけアクセ装置を強くさせることが出来るっていうことなんじゃ……?
「ふっふっふー。それがそれが、この方法を知るのはフラグメントを研究していた人だけ。もしも研究員が裏切っていないのならば裏の人間たちはこの方法は知らないはずよ」
ちょっと意地悪な笑みをこぼしたかと思えば、キラリと目を輝かせて話し出す渚さん。
あー、ヴェイカントを生み出すことは出来ても、その上手い活用方法っていうのは裏の人間にまでは知られていないのか。
「はは!なんだそれ、っつーことは。ヴェイカントを倒して倒しまくって手に入ったフラグメントでアクセ装置を強くしていけば俺らって敵無しになるんじゃね?」
楽し気に、そしてある意味では無双状態を思い浮かべているのかもしれない、樹。
でも、そうそう上手くいくことばかりだろうか……。
「アクセ装置って言ってもレベルに差があるのよ?歴史にも名高い認識作用が入っているアクセ装置から攻撃を食らったら一発でダウン……ってこともじゅうぶんに有り得るんだから」
一発でノックアウトかよ……。
つか、そんな威力を持つ装置なんて人間に扱い切れるモンなのか?それが不思議だけれど。
「……裏の人間がどんな装置を持っているのかって分かったりするのか?」
「私が把握しているところでは3つあるわ。そのどれもが力を存分に発揮させていけば威力としては脅威よ」
3つか……。
だが、全然知らないよりも情報はあった方が役に立つ。
「……一つは、アイツか……?霧生とかっていう」
確かカスミの家の近くで襲い掛かってきたヤツだ。
ストリートギャング風な男かと思っていたけれど、本当に裏の人間だとはな。
「そうね。霧生雪徒くん。確か年齢はみんなと同じぐらいだったと思うわ」
「はあ!?同い年で裏社会の人間かよ?」
まさかの同い年。
いや、それよりも同い年のヤツが裏社会に加わっているってことの方が驚きだったりする。
「霧生くんは別に裏社会の人間ってわけではないわよ?」
「……どういうことだ?」
「彼は水嶋とはほとんど面識は無いんじゃないかしら。たまたま恩がある人が裏社会に通じている人間だった……ってところかしらね」
その恩人ってのが裏社会の人間なんだろう?だから裏社会とはあまり関係が無いっていうのも無理は無いだろうか。それに、実際に渚さんのことを標的にしていたみたいだし。やたらと物騒な物言いもしていたしな。
「……確か、アイツも指輪型の装置だったよな」
俺と同じで、確かコアとなる石も赤かった記憶がある。
つまり性能的には俺のと同じっぽいな。
「ロンギヌス、ね。力的には湊くんと同様に炎系を扱うわね」
「ロンギヌス?あれ、なーんかそれ聞いたことあるような気がすんなぁ……」
樹は聞き覚えがあるらしいが、たぶんそれは史実とか歴史の話じゃなくてアニメとかゲームとかで聞いたからだと思う。
「……ロンギヌスの槍、か?」
俺がちょいちょいっと言葉を付け足してやると、それそれ!と記憶を思い出しているかもしれないが、アニメとかゲームとかの話だと……さすがに装置に出来るまでの情報っていうのは得られないんじゃないだろうか。
「あぁ、それそれ!」
「あら、知っているの?」
さすがに渚さんもびっくりした様子だったが俺が言葉を付け足してあげると『……なるほどね』と何とも言えない表情をしながら納得したようだった。
「……いや、たぶん樹が見知っているのはゲームとかでの話」
「ロンギヌスの槍っていうのが、えっと……霧生くんの装置の名前なんですか?」
「そう。でも樹くんが知っているのは元になっているロンギヌスがゲームとかにも取り入れやすいと思ったのかもしれないわね」
「ふむ。ロンギヌスと聞けばどうしてもキリストの生死を確認した際の槍を思い出させてしまいますねえ」
まさかの壬生さんもこの手の話が好きだったのか!?
俺が言う前に壬生さんが語り始めたものだから樹は俺のことをニヤニヤして見ているし、カスミはカスミで壬生さんも凄いですね!と目を輝かせていた。
まさかの壬生さんも知識豊富!?(苦笑)なんか、すげえなこのメンツ!
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