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20 自分を知る

 帰りがけにバーガーショップに立ち寄り、大量のハンバーガーを抱えながら事務所に戻って来た。

 壬生さんも渚さんも俺たちが無事だったことよりもハンバーガーに目を丸くしていた。

「あ、壬生さんも渚さんも一個食う?」


「……え、遠慮しておくわ」


「私も同じく。それにしても……良く入る胃袋ですね」


「そうか?まだまだ全然!」


 休むことなく、次から次へとハンバーガーを胃袋に収めていく樹を見て、こっちの方が腹いっぱいになるっての。

 それでも一応気をきかせてハンバーガーをすすめる樹だったが、渚さんにも壬生さんにも遠慮されてしまった。たぶん、そのうち見ているだけで胃もたれとか起こす気がする。


「……一度、病院で診てもらった方が良いんじゃねえか?」


「そんなに食べているのに全然太らないもんね」


 痩せの大食いとか、単なる大食いっていうのが存在するのは分かる。

 実際に、樹がその部類なんだろう。

 でも、毎日のようにこんなに食べていて体的には何も問題とか起きていないんだろうか?


「……そ、それにしても電話で話していたモノって?」


「……コレのことだな」


 ついついバク食いしている樹に気をとられがちだが、渚さんとの電話口でのやり取りを思い出し、俺はポケットに入れていた色とりどりの欠片のようなモノをテーブルの上に並べていった。

 やっぱ見た目はガラスとかの欠片っぽいけれど……。


「……間違いない。これ、フラグメントの一種よ」


 注意深く観察していた渚さんだったがやっぱり見知った存在だったらしく、ずばりとその名を口にした。


「フラグメント?」


 樹もさすがに食べ続けていた手と口を止め、テーブルの上でそれぞれの色を発している物質を眺めた。


「簡単に言うと私たちが持っているアクセ装置になるほどの力は持っていない未熟な情報の集まりってところかしら」


 渚さんが言うには俺たちが持っているアクセ装置も元は、この欠片がデカイもの……とでも考えれば良いと言う。

 コレらは見た目的にもやっぱり小さいし、それほど埋め込まれている情報っていうヤツは少ない……って、ところだろうか。


「……危なそうなモノだったらそのまま捨てて来たんだけれど大丈夫っぽいか?」


 一番厄介そうなのは、この……フラグメントとやらに発信機やら盗聴器やらが仕込まれていないかどうかってこと。

 でも、その心配はどうやら無さそうで安心した。


「えぇ。この中に、発信機とか盗聴器とか仕込むなんて人がいたら見てみたいわ」


「パワーストーンとかの一種ってわけじゃないんですか?」


 確かコレを見たカスミが一番興奮していたと思う。

 最後まで手に取って光に翳して眺めていたし、カスミとしては単なる欠片ってわけでもないんだろう。


「原理としては似ているわね。そもそもパワーストーンって何か知っている?」


「……石だな」


「石、だなあ」


 俺も樹も頭の中では、ドンッ!と存在感の強い大きな石を思い浮かべると二人して『石』だと発言した。


「詳しい人からするとパワーストーンって大地のエネルギーを集約させたものの一種って言われていたりするけれど、私のような研究員からすればパワーストーンもアクセ装置と似たモノ、ね」


 やっぱ渚さんみたいな研究をしている人からするとパワーストーンっていうのも『物質』理論をもじって考えてしまうようだ。


「……後々になって様々な認識が付け込まれた?」


「そう。どんな石を持てば金運が上がるとか、恋愛運が上がるとか……そんなこと最初から分からないじゃない?たまたま持っていたモノが人や周りに影響を与えていくうちに、この石のせいだ!この石には不思議な力がある!って思いこむようになったのよ」


「湊くんの言っていた通りだね、凄い!」


 俺が考えていたこともそうそう間違いではなさそうで一人ホッとしていた。

 後になって渚さんから『それは違うわよ』って苦笑いでもされたら、たまったもんじゃない。


「なんだかそう言われるとパワーストーンって一気に価値が無くならねえ?」


 確かに。

 世間であれこれと騒がれているパワーストーンってどっちかというと男よりも女の方が注目するはず。コレを身に付けると金運やら恋愛運やらのアップに繋がりますよ!っていう広告も雑誌の端っこで見かけることもあるが、こうして渚さんの話を聞いていくと本当にパワーストーンって効果があるのか?って樹のように思うかもしれない。


「そんなこと無いわよ。実際にこういうモノを使って不思議な力を持っている人たちの変わった職業って……あるでしょう?」


 そんな人たち、いたか?

 あー……もしかして、アノ……。


「……まさか、占い師とか?」


「え~?アイツらって詐欺じゃね?」


 まさかと思って占い師、と口に出すがそこをすかさず樹が突っ込んでくる。

 まあ、全員が全員まっとうな占い師として過ごしているかって聞かれると怪しいところもあるしなあ。


「詐欺って……まあ分からなくもないけれど。でも、占いを繰り返しているうちに、当たる!現実になった!って言われて名が有名になった人たちは占い界では人気があったりするのよ」


 それは、なんとなく分かる気がする。

 最初は知名度が低いモノとか人でも、あれこれ情報が出回るようになってきていつの間にか有名になったり、力を付けたりするシロモノって多いしなあ。


「……人も、認識作用で変わることってあるのか?」


「強い刺激を与え続けていくと変わっちゃうわね。でも、ほら、人には自我っていうものがあるから誰でもそうなるのか、とは言い難いのだけれど」


 そうかそうか。

 自我自我って簡単に口に出して言っているけれど、それが目には見えないバリアみたいなモノってか?

 その自我ってヤツがあるから、なんでもかんでも口に出せば効果が付いたり、付かなかったりってあるのかも?


「自我を強める方法?とかってあるのか?」


「精神力だとか心を強める方法ならいくらでもあるわよ。まず、自分というものをしっかりと保つこと。そのためには自分という存在を認識すること。自分はどんな事が好きかとか、どんな特技があるかとかを知ることね」


 自分の存在を知ること、か……。

 そう言われると……樹の場合なら、なんとなく分かる。とにかく食うことが好きなヤツだってこと。カスミなら真面目で勉強方面なら任せろって感じだな。なら、俺は……?


「うーん、俺ならやっぱ飯食うことが好きだなあ。んで、湊は面白い知識があって意外と格ゲーが上手い!」


「おや。ゲームですか。私もたまに手を出すのですが、今度ご一緒してみませんか?」


 まさかの壬生さんに火を付けてしまったようだ。

 樹に言われてハッとした。他人のことなら、あれこれ良いところが見えてきたりするのに、いざ自分のことを考えてみると難しいもんなんだなあ。


「壬生さんもゲームをするんですか?」


 カスミも意外そうに壬生さんを見ると当人はにこやかに笑って応えていた。


「えぇ、それはもちろん。良い息抜きにもなりますからね」


 パッと見、ゲームとかはしないように見える壬生さんだけれど。

 なーんか、こういう言い方をするヤツってかなり強かったりするんだよなあ。


「……まあ、機会があったら」


「湊くんの戦い方。もしかしたらゲームで鍛えた戦い方なのかもしれないわね」


「へ?そうなのか?」


「前回のヴェイカント戦での戦い方。あれって格闘ゲームが好きそうな人の戦い方に似ていたもの」


 そんなことなら俺も見ておけば良かったー、と愚痴をこぼしている樹を横目に……。そうか、俺がなんとなくこうして相手を倒せばいいって考えているのは格ゲーで無意識のうちに鍛えられていたのかもしれない。

 格ゲーって単にぼこすか殴り合うだけと思われているけれど、意外と頭の中ではいろんなシミュレーションがされているらしいからな。……めちゃくちゃゲームが上手い人ともなるとそのシミュレーションが瞬時のうちに発揮されるらしい。さすがに俺はそこまでの腕があるわけじゃなくて、どっちかと言うと届く攻撃をこなしながら相手が怯んだところで一気に勝負を掛けるような戦い方を格ゲーでもしているからヴェイカントとの戦いでもその癖みたいなモノが出たんだろう。

 格ゲーがシミュレーションが必要だ!っていうのは、そこそこ有名な話で。ちょっと一回バトってみるとその人の癖だとかをすぐに見抜いてしまうというゲーマーも多いのだとか……すごっ!!!


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