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2 日常の終わり

 研究所の火事は自分とは関係の無いこと。

 研究所だって身近な所にあったわけじゃないから現実味が感じられなかった。

 でも、それが一気に現実のモノに近付くことになるなんて思いもしなかった俺たちだった……。

「……あれ、カスミの家の前にいる人……カスミの知り合いか?」


 たくさん買い込んだはずのハンバーガーを早くも食べ終わってしまったらしい樹がそろそろカスミの自宅付近に差し掛かった所で、明らかに周囲をキョロキョロと見渡しながら小難しそうな顔をしている一人の女性を視界に入れた。スーツっぽい恰好をしているし、セールスか何かだろうか……。


「さ、さあ?」


「……セールスだったら俺と湊に任せろよ。数秒で追っ払ってやるからさ」


 やる気に満ちている樹だったが、いつの間にかその手には俺とカスミが買ったはずのポテトが。あれだけハンバーガーを食したはずなのに、まだまだお腹は満ち足りていないらしい。まったく、どれだけ食うんだ、コイツは。


「……ちょーっと、そこのお姉さん。セールスだったらお断りだぜ?」


「……セールス?私はこちらの……あ、あなたカスミさんよね?」


「え。えーっと……?」


「……なんだ、知り合いか?」


 やけに目立つ白い石(宝石だろうか?)のようなモノが嵌め込まれたネックレスを付けた女性がカスミの姿を視界に捉えると何処かホッとしたような面持ちに変わる。女性はカスミのことを知っているようだが、カスミの顔色は戸惑っているままだ。知り合いってワケじゃあなさそうだな。


「……悪いが、カスミはアンタのことを知らないようだが?」


「……そう、そうね。会ったのはまだ小さい時だったはずだし……涼風渚すずかぜ・なぎさよ」


「涼風……渚さん……ナギさん?」


「!そうよ、小さなときのあなたにはそう呼ばれていたわね」


 突然、カスミが女性のあだ名のような呼び方をしはじめたものだから、途端に女性……渚さんは安心したように肩の力を抜き始めたらしい。カスミが思い出さなかったらどうするつもりだったんだろうか。


「なんだよ。知り合いだったのかよ。ったく、紛らわしいなあ、おい」


 樹も、もちろん俺も渚さんがちょっと緊迫した様子で家の周辺をうろうろしていたものだからセールスか、もしくはちょっと危険性があってやばい人なんじゃないかと思っていた。が、どうやら二人は知り合いらしくすっかり打ち解けているようだ。昔……カスミがイギリスにいた頃とかの知り合いだったりするんだろうか。でも、この女性は日本人……だよな。って、樹のヤツ、しれっと手にしたポテトをバク食いしているし……本当に心配していたんだろうか、怪しいな。


「……突然で悪いのだけれど、こちらのお二人は?」


「クラスメイトの湊くんと樹くんです」


 俺と樹はお互いに、『どーも』と軽く頭を下げるが、どうもこの渚さんって人が怪しくてついつい怪訝な目付きで見てしまうのは俺だけじゃなさそうだ。樹も渚さんって人のことをじろじろと見ているから様子を伺っているんだろう。


「……最近、カスミさんの周りで変わったことは無かったかしら?変な人に付けられたりとか……」


「え!?」


「なーんで、カスミがそんな目に遭うんだよ。だいたいそんな変なヤツらがいたら俺たちが蹴散らしてる」


「……ストーカーとか、そういう類の話じゃないの。もっと危なくて……もしかしたらカスミさんは拉致されちゃうかもしれないのよ」


「はぁ!?」


「……それ、何かの脅しか?」


 さすがにそろそろ聞き捨てならなくなってきて渚さんを睨み付けてしまった。樹だってその気になればカスミの手を引いてこの場から立ち去る気でいるかもしれない。


「脅しじゃないのよ。本当にカスミさんは狙われている危険性があるの。だから私は急いでなんとかここまで辿り着いたのに……お家は留守みたいだし……」


「カスミの本家はここじゃなくてイギリスだぜ?ここは、叔父さん叔母さんの家だろ」


「……今、叔父も叔母も旅行に出掛けているので留守なんです」


「イギリスに本家があるのは知っているわ。でも、お父様もお母様も……亡くなっているでしょう?」


「え、そうだったのか」


「……うん」


 カスミの両親が亡くなっている?親の諸事情ってヤツでイギリスから日本に転校してきたっていう話を慈善先生から聞いたはずだったけれど、亡くなっていたのか……。でも、今までそれらしい話をカスミからは聞いたことが無かったはず。


「……表向きは事故死になっているけれど……ご両親は殺された可能性があるのよ」


 渚さんからの突然のカミングアウトに驚いたのはカスミだけじゃない。俺や樹だって目を丸くして驚きを露わにした。

 

「え!?」


「ちょ、おいおい!渚さんよ、それ、わざわざカスミに知らせることか?あんた、何が目的なんだよ」


 事故死だと思っていたのに、いきなり両親は殺されたとか言い放つ渚さんに樹もぶち切れたようだ。いつもよりも声が低いし、キッと睨みつけている眼光が鋭い。もしも相手が女性ではなく男性だったら、その胸倉を掴み上げていたかもしれない。樹は、俺に負けず血の気が多いところがあるからなあ……。


「もちろんカスミさんを守るためよ!あなたたち、日本にある、とある研究所施設が火事を起こしたことは知っているかしら?」


 守るとは言いながら、親は殺されたとかって今更知りたくも無いような話をすることか?それに、今関係の無いような話題を取り出してくるし。


「あぁ、確か研究員がポカやったっていうニュースだろ。見た見た」


「メディアで表向きはそう流れているのだけれど、実際は違うわ。……裏社会の人間たちによって襲撃されたのよ」


「……ここ、日本だけれど?」


 襲撃?一体、何を言っているんだ、この人。研究所が襲撃されるって、それもしかしてやばい組のヤツらが乗り込んで施設をぶっ壊したとかって話なんだろうか。裏社会って言っているし。でも、それって一部の人間だろ?俺たちの生活には、ほとんど関係が無いんじゃないのか。


「そうね、日本よ。それでも裏の社会に生きている人たちは当たり前のように普通にいるの。暗殺だとか大企業のお偉いさんを潰すことで儲けを上げようとしている機関なんかも日本にはあるのよ。あなたたちが知らないだけで」


「……その、少し上がって行きますか?なんだかお話が長くなりそうですし……」


 確かに俺たちは平和に学生をやっている。平和だから学生をしている。でも、それって悪いことなんだろうか。でも、そんな悪な社会が存在していることとカスミ、何か関係があるんだろうか。渚さんも俺や樹も眉を顰めていると一人だけ気持ちを変えて自宅を指差すカスミ。カスミのことを言われているというのに、何処か落ち着いているというか穏やかさを取り戻している様子に渚さんも俺たちも面食らって溜め込んでいた息をゆっくりと吐くとお邪魔することになった。


「……そう、ね。お邪魔じゃなければ少しだけ……カスミさんにとって、とても大切なことをお話したいこともあるから」


 渚さんは自分が乗ってきた車だろうか。そこの後部座席からジュラルミンケースを手にするとカスミが鍵を開けてくれた家へと俺たちの後から入ってきた。一体、何を持ってきたんだろう。見た目は、ドラマとかで大量の札束とかが入っているようなケースだ。もしかして、銃とかやばいブツとかが入って……いるんじゃないよな。


 このまま俺と樹は帰るべきだったのかもしれない。ここで帰らなかったことにより、日常が当たり前だった生活が非日常へと変わっていくことになった。この瞬間から、俺は信じられないことを目の当たりにし、まるで自分が夢やファンタジーの世界にでも入ってしまったかのような体験をしていくことになるのだった。

 肝心な話には、なかなか入れない。ちょっと内容が小難しそうな感じなので、いろいろキャラクターに喋らせたいけれど、学生たちに何処まで話して良いのか迷う渚さん……という感じです。はい、この話までで日常は終わります。これからどう変わっていくのか、お楽しみいただけますと幸いです。


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!

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