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14 揉め事

 俺と樹はシャワーを浴び終えると休日の若者らしい恰好で休憩スペースへ戻った。

 すると、そこでは何やらカスミと渚さんが言い争い?をしているようだった。

「何度も言うようだけれど、それは危険なのよ?」


「でも……私は……」


 休憩スペースに繋がるドアを開けると、ソファーに向かい合い座りながら必死になって訴え掛けている渚さんと……俯き加減に顔を伏せているカスミ。

 ……どうやら予想していたように、揉め事が起きはじめてしまったらしい。


「おいおい。どうしたよ?二人して。渚さんも何マジになってんだよ?」


 樹は内容が分かっていないだろうから二人を仲裁していこうとしたのだろう……が、渚さんは樹のこともピシャリと叱りつけるように声を荒げてきた。


「私はカスミさんがこんな状況の中でも学校に行くと言うものだから止めようとしただけよ。今、東京はヴェイカントだらけと言っても良いの。そんななか、フラフラと出歩くわけにはいかないでしょう?」


 あー、やっぱりか。

 カスミは真面目だから、こんな状況になっても学校を気軽にサボろうだなんて考えは持つことが出来ないらしい。


「あー……なるなる。でもさー……ちょこーっと様子を見に行くだけってのもダメなのかよ?」


「ダメに決まっているでしょう!?あなたたち、まだ事の重大さが分かっていないの?」


「……渚さんの言いたいことも分かるけれどさ。俺たちは昨日まで普通の学生だったんだぜ?俺たちの気持ちは無視かよ?」


「!だから……確かに、そうだけれど……学校って新宿にあるのでしょう?」


 俺がちょっと言葉を付け足してやると渚さんも言い方というものを改めたらしいが、それでも俺たちの通っている学校が新宿にあるということを聞くとそう気軽に学校に行かせるわけにはいかないと言い出してしまった。


「でもさー、ずーっとここに詰めてるわけにもいかないんじゃね?昨日の湊の話じゃないけれど、戦う方法を学ぶためにそこら辺にいるヴェイカントと戦うっつーのも有りなんじゃねえの?」


「それは……でも、万が一騒ぎが大きくなったりしたら……」


「……それに、元々渚さんだって研究員を探しに行こうとしていたんじゃないのか?それって安全な場所にいながら探せるってわけでもないだろ?時には、危険を承知の上で外に出ることも考えないと」


 渚さんもどっちかと言うと真面目タイプかもしれない。

 でも、今回の事は渚さんだけじゃなくカスミも、もちろん俺たちも狙われることになっていそうだからとにかく安全を考えてくれているんだろう。

 その上で、厳しい言い方をしているのかもしれない。

 でも、外が危ないからって同じ場所にずっとい続けて問題が解決出来るってものでもないはずだ。


「……ごめんなさい。私が言い過ぎたわね……」


 小さく溜め息混じりに謝罪をする渚さんに『やれやれ』と肩の力を落とす。


「んで?カスミは学校どうすんの?」


「……私は……ちょっとでも良いから、覗いて置きたいかも……」


「……カスミ。外はヴェイカントがいる。そいつらと戦闘になったらお前は戦えないんだぞ?」


 別にカスミを怯えさせたいわけじゃない。

 俺だって一応、普通に生活をしていきたい人間の一人だからだ。

 でも渚さんの言うことも分からないってわけでもなかったりするからあえてカスミに問いかける。そして、このなかで戦う術を持っていないのはカスミ一人だ。


「……それは……分かってるつもり、だけれど……」


「でもよ。カスミはSC現象に関係無く、自我を保てるんだよな?その場合、ヴェイカントたちの探知に引っかかったらカスミってどうなるんだ?」


 カスミは謂わば、異例の存在だ。

 そこは俺も渚さんに詳しく聞いておきたい。もし、カスミが一人になったとき、ヴェイカントが近くにいたらカスミはどうなるのか……。


「ヴェイカントたちの放つ探知というものに引っかかるのは、装置に登録している人間よ。カスミさんはそもそも装置に登録していない人間だから探知そのものに引っかかるということは無いわ」


「……無理にSC現象の中に引きずりこまれるって可能性はゼロなのか?」


 渚さんも把握が難しいんだろう。

 ここへきて、難しいことを整理していかないといけないし、俺たちみたいな普通の学生たちが装置の登録者になってしまっているから今更かもしれないが、それでもどう説明すべきか悩んでいるのかもしれない。


「SC現象に引きずりこまれたとしてもカスミさんは認識作用、反認識作用に関わることなく存在することが出来るの。装置を持つ者からすれば前回の戦闘の時にもカスミさんの姿は見えなかったでしょう?でも、逆にカスミさんからは私たちの様子は見えていた……。だから例えカスミさんだけをSC現象の中に引きずり込むことが出来たとしてもその存在をどうこうするっていう技術は裏の人間には不可能なはずよ。むしろ危険なのは、人間ね」


「人間?」


「装置を持つ、持たざるに関わらず、現実世界の中で手を出されたら私たちは弱いってこと。もしも相手が装置を持たない暴力団のような存在だとしたら装置を持つ私たちはSC現象を起こしてその中に一時的にでも逃げれば良い。だけれど、そうするとカスミさんは生身の人間に連れ去られてしまう危険性の方が高いわね」


「……どっちにしろ、有利な時もあれば不利な時もあるってことか」


 ましてや裏の人間。なかには、腕の立つ人間なんていたら普通の学生たちの俺ではカスミを守れないだろう。壬生さんたちのような存在……銃器でも取り出されたらその時点でアウトかもしれない。


「あれ、でもちょっと待てよ。もしも俺がSC現象を起こしているとして……一定の距離から離れている湊たちからは俺ってどう見えているんだ?」


「それが装置の面白い所なのだけれど……装置を起動した者は異空間に飛び込むことになる。でも、そこは現実であり、現実ではない場所。『物質』理論が働いている一定の空間内の様子というものは距離を置いて、中で何が行われているかということを見学するようなことは出来ないわ」


「へ?なんでだ?」


「……そこに『物質』理論が働いているから、だろ」


 渚さんの説明は分かるようでいて、時たま難しいときがある。

 俺は、勘のようなものが働くことでなんとなくだけれど理解はしているが、何処にでもいるような樹のような人間からすれば渚さんの言葉は今でも難しく感じているはずだ。


「普通の人間たちの目には見えないから、よ。ヴェイカントたちだって普通にしていれば見た目はほぼ人間と変わらないでしょう?装置の起動が及ばないギリギリの場所から、他の起動者たちが何をしているか……それを知るには、範囲内にて同じく装置を起動するしかないの。透明……って説明して良いのかちょっと複雑なんだけれど、目には見えていないけれど、先に装置を起動している人間はそこにはきちんと存在しているし、もしかしたらヴェイカントと戦闘しているかもしれない」


「う~ん?なーんか、分かったような分かんないような……?」


「……はぁ……だったら、実践して試してみれば良い」


「はあ!?」


「ちょ、これから戦う気!?」


「……言葉で言って分からないなら、体で分からせた方が早い。特に樹の場合、自分の目で見て、体で体験させた方が理解が早い」


 手っ取り早い方法。

 それは、俺がヴェイカントとやらと戦ってみること。もちろん一人で、なんて無謀なことは言ったりしない。渚さんにも付き合ってもらうつもりでいる。その戦闘区域ギリギリに入らない所から樹を待機させて景色がどう映っているのか確認させた方が早いだろう。


「……それに、ここら辺をうろついているヴェイカントとやらのレベルも知っておきたい。俺が倒せるレベルなら良いと考えているし、逆に苦戦するようならどんどん戦闘経験を積んで戦っておいたほうが後々、良いと思うしな」


「湊くん……本当に、大丈夫なの?」


「……相手は、ヴェイカントだけがいるところを狙う。もちろん渚さんにもフォローに入ってもらうつもりだ。……それなら、どうだ?あと、俺の腕前も渚さんに判断してもらいたい。俺が役立つようならカスミをちょこっとでも良いから学校に行かせてやってほしい」


 最初揉めていたことも、これで行けるかどうか判断してもらえば良い……。

 まだまだ装置を使った魔法とやらには不慣れなのはじゅうぶん承知しているからまともに戦おうとしたらヴェイカントにも敵わないかもしれない。でも、今回は勝つつもりでいる。


「……カスミは、一応、ここにいてくれ。壬生さんにも話を付けてくるから」


 そうして、一階部分で情報屋としての仕事をはじめている壬生さんと軽く連絡を取り合ってから俺は渚さんとともにヴェイカントとやらと戦闘を試してみることになった。

 確か、SC現象の中では無機物?になるんだったか。まあ、取り敢えずぶっ壊せばいいんだろう。


『SC現象を探知しました。『物質』理論装置が自動的に起動します』


 機械音声とともに俺と渚さんはヴェイカントとの戦闘に入って行った。

 そう言えばヴェイカントとの戦闘は初めて!(渚さんは経験ありだが……)頑張れ!上手いこと力を使っていけば決して勝てない相手じゃないぞ!……たぶんな!!(汗)


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