13 穏やかな朝
いつの間にか眠ってしまった……。
そして、目が覚めるといつもよりも起床時間がだいぶ早い。
そのなか、カスミと渚さんは何やら簡素なキッチンで何かをしていた……。
「……ん……?」
不意に目が覚めた。
なんだか、昨夜は妙に眠くて眠くて、普段寝る時間よりも早くに寝付いてしまった記憶がある……。
そして、今になって気付いたが、いつの間にか俺の体には毛布が掛けられていた。
……壬生さんの部下だろうか、それとも壬生さん本人?わざわざ俺に掛けてくれたのか……そこまで冷える時期じゃないけれど、用意してくれた毛布はそこそこに触り心地が良いモノだったようで、そのおかげもあってソファーで寝てしまったことになったにも関わらずだいぶ熟睡してしまっていたらしい。
それに……なんか、イイ匂いがする気が……?
視線をあちこちに動かすと俺とは反対方向に体を倒しながら、俺と同じく毛布に掛けられてまだまだ眠っている様子の樹。
そう言えば、渚さんとカスミは?
「あ、おはよう、湊くん」
この二階にある休憩スペースには、簡素ながらもちょっとした家電は備われているらしい。
この匂いの元は、そこからみたいだ。
「……おはよう、カスミ。渚さんは?」
「一緒に朝ご飯の用意。って言っても、本当に簡単なモノなんだけれど……」
簡単なモノと言いつつもソファーと一緒に備われているローテーブルには昨夜の出前たちの容器やら箱やらはすっかり片付けられており(たぶん残っていたモノは樹の胃袋の中に入ってしまったのだろう)、今では朝食と呼べるモノが並べられてきた。
時間を確認すると、まだ朝の七時前……いつもの生活なら、全然まだまだ眠りについているような時間帯だが、ソファーで寝ていたことや情報屋の休憩スペースという慣れない場所で寝たせいか早くに目が覚めてしまったのかもしれない。
「ふわぁ~……お、なーんかイイ匂いがすると思ったら、飯か!」
「……はよ、樹」
「おーっす!って、そかそか。昨日、ここで寝たんだっけ。つか、湊ー……いきなり気を失ったように寝始めたからビビったぜ!?大丈夫か?」
「……あー、なんか急に眠くなって寝た」
「ふ~ん?つか、コレは?壬生さんからの差し入れか?」
「おはよう、樹くん。材料は簡単に壬生さんに揃えて貰ったんだけれど……一応、私と渚さんの手作りだよ?」
「……へぇ」
カスミが言うように本当に簡単なモノらしいが、テーブルに運ばれてくるのはトーストに、ハムエッグ。お湯で溶いたインスタントのスープが運ばれて来た。
……いや、じゅうぶんな朝飯だと思う。
こういうまともな朝飯ってあんまり食べないからちょっと新鮮な感じだ。
それは樹も同じだったようで、『美味そう!美味そう!!』と朝から騒いでいる。
「あら、二人とも起きたのね。ここに戻って来たら二人して寝入っているんだもの、びっくりしちゃったわ」
というか、渚さんもカスミも……昨日と服が違う。
なんつーか、カジュアル?デザイン的にはシンプルだがワンピースに、ちょっとした薄いカーディガンを羽織っていて、それぞれに似合っている。まさかとは思うが……。
「……二人とも、その恰好は?」
「壬生さんが気を遣ってくれて用意してくれたのよ。その……いろいろと、ね」
あー、確かシャワーを浴びに行っていたんだったか。
それにしても壬生さんの趣味なんだろうか……二人ともちょっとずつデザインっていうか、ガラが違うのに、派手過ぎず地味過ぎるってこともなく似合っていると思う。
渚さんが『いろいろ』って意味深に言ったのは……きっと下着類も含まれているんだと思った。まあ、いちいち口に出して確認するようなことじゃないから別に気にしないけれど。
「二人にも着替えを用意してもらっているんだよ?後でシャワー行ってきたら?」
「あー……そうする。つか、お二人方に朝飯まで用意してもらうなんて俺ら幸せモンじゃね?なあ!?」
まあ渚さんも一般的に考えると美人の方に入るだろうし、カスミはハーフ?クォーター系の美女だ。まあ、悪い気にはならないかな。
「でも……これぐらいだよ?」
「じゅうぶんじゅうぶん!むしろ嬉し過ぎだって!な、湊!」
「……そうだな、ありがとな。二人とも」
こうやって会話をしていても壬生さんや部下の人たちは一人もいないから、きっと本職(一階の情報屋)の方にいるのかもしれない。
「んじゃ、早く食おうぜ食おうぜ!」
渚さんとカスミもソファーに座ったところで一緒になって手作りの朝飯を食べた。
カスミ的には簡単な朝飯。
渚さんからも『コレぐらいしか用意出来なくてごめんなさいね』なんて言うけれど、朝飯なんてコレぐらい……いや、めちゃくちゃ贅沢だと思う。下手すると朝なんて抜くことの方が多いし、ささっと食べられるゼリーだとか健康食品だけで済ませることとかも多かったりするからこういう手作りの温かさを感じられる朝飯を食べるのはめちゃくちゃ久しぶりだった。
「うまかった~!ごっそさん!」
「……ん、めちゃくちゃ美味かった」
「そう?これぐらいしか出来なかったけれど……」
「キミたちは、まともな朝食も食べていないってことなんじゃないの?まったく、今が成長期だってこと忘れていないかしら?今、ちゃんとしたモノを食べていないと後になってだらしない体になっちゃうわよ?」
「へいへい!分かってますって!」
せめて後片付けぐらいは……と言ってもほとんど洗うモノなんて無かったけれど……それでも簡易なキッチンに皿を片付けて行こうとすればカスミに止められてしまった。
渚さんからも『洗い物はしておくからシャワーでも浴びて来なさい』と言われてしまった。じゃっかん母さんみたいな感じがするけれど……まあ、このなかで一番年上だし、仕方ないか……。
「……着替えって、コレだよな」
さすがにずっと制服でいるのも……と思っていたので、壬生さんからの差し入れは有難い。
それに見たところ、サイズにも問題は無さそうだ。一体、いつ体のサイズなんて調べられたんだろう?それにサイズと言えば女性陣のサイズだっていつ知ったんだ?まさか直接聞いたのか?……壬生さんって凄い……。
ちょっとしたパンツに、こっちは樹向けだろうか……フード付きのパーカー。
たぶん、俺にはTシャツに薄いカーディガンが置かれている。
つか、何処で買って来たんだ?これ……新宿で、ここから近そうな服屋ってなると限られそうだけれど……まあ、いいか。有難く使わせてもらうことにするか。
つか、ちゃっかりと下着も置かれていたからコレも有難く使わせてもらうことにした。
「シャワー室とかも完備って……もう、ここに住めるんじゃね?」
「……休憩スペースって言ってたけれど、実際、ちょっとした家電は揃ってたし、贅沢言わなきゃ住めるだろ」
交代交代でシャワーを浴びてさっぱりすると用意されていた着替えに袖を通していけば、制服姿とは一変した若者姿の出来上がり。
樹なんて、ストリートダンサーとかにいそうな感じがした。
「なーんか、変な感じだな。俺らって遊び行くときもだいたい制服のままだったろ?こう、完全に私服!ってなるのも珍しいよな!」
「……そうだな」
「昨日、壬生さんと軽く話したけれど俺みたいな大食いって別に珍しいんじゃないんだってよ!新宿の店には大食いチャレンジやってる店も多いんだってさ!今度行ってみようぜ!」
「……分かった分かった。取り敢えず、落ち着いたら、な?」
樹は、本当に食い物のことになると他を忘れがちになる。
俺たちの境遇、忘れているんじゃないよな?……一応、裏社会の人間に目を付けられているんだぞ?あの霧生ってヤツが無事に逃げたのなら、俺たちのことも当然上の地位の人間には報告されているだろうし、もしかしたらもっと危険な目に遭うのもそうそう遠くないかもしれない。
「あ。今日ってまだ平日だよな……カスミ、どうするんだろ……アイツのことだから、学校行く!とかって言いだしそうじゃね?」
「……あー……有り得るな」
基本、カスミは真面目な生徒だ。遅刻・早退はあまり自分からはしない生徒。俺たちとつるんで、それに付き合うようにして早退することぐらいはあるものの、自分勝手に学校を休むようなことはしないはず。
だとすると……ちょっとこれから揉めることになるかもしれない……。
ここで、湊たちの制服おさらい!男女ともにブレザータイプ!上着はグレー。スカートやパンツはチェック柄だぜ!新宿にある学校!制服……特に、スカートやパンツのガラが可愛い恰好良い!って思っているヤツらは多いらしい。
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