11 腹ごしらえの中で
壬生さんは樹の要望に応え、いろいろな出前を取ってくれた。
ジャンクフードにも偏見みたいなモノは無いようで、むしろ壬生さんからあちこちに連絡してくれたところもある。
壬生さんは意外と若者の好みを熟知しているのか、出前を取れるものはジャンク系のモノが多かった。ピザとか寿司とか肉類とか、もちろん女性陣のことも考えてくれたのかヘルシーな食べ物とかスイーツ系もあったけれど、そのほとんどは樹の要望品だった。
そして、その大半が樹の胃袋の中へと消えていくことになってしまった。
「いやぁ~!壬生さん、アンタめちゃくちゃ良い人じゃん!!」
正直、俺やカスミ、渚さんたちは一般的な一人前分の量を口にすると既に箸は止まってしまった。が、樹は残りの食料は残すまい!としてガツガツと食べ続けている。
「……いや、お前は食い過ぎだから」
「いえいえ。こういうのも何ですが、情報というものは欲しい人はいるものですから意外と良い商いになっているんですよ」
一応、奢ってもらうことになってしまって心配してしまうのは金の面。でも、情報屋というものは意外と儲かる職業らしい。
「……大食いって聞いてはいたけれど、よくそんなに入るわね……」
渚さんもカスミ同様に樹の底の知れない胃袋のデカさに、だいぶ引いてしまっているようだ。
「樹くんは、いつもこんな感じですよ?出会ったばかりの頃は、私も似たような反応をしていましたけれど……」
「んで、さっきの……ヴェイカント?歩く『物質』理論装置だっけか?でも、未だにどういうモンなのか分かんねえんだよなあ……」
「おや。監視カメラからの映像で良ければいくらでもお見せしますよ?」
「お、マジか!」
俺たちは現実世界でヴェイカントと遭遇したことが無いので、どんな見た目をしているのかが分からない。そのため監視カメラ映像の提供をしてくれる壬生さんに感謝した。
そこには、ある一定の距離の範囲内を同じ速度で行ったり来たりしている姿が映っている。
分からない人からすると同じ場所をうろうろしてばかりいるので不審者にしか見えない。
だが、コイツがヴェイカントってヤツなんだろう。
「ふ~ん?……ウロウロしているって点では不審者極まりないって感じだけれど、見た目は普通の人間っぽいな……」
「……見た目は、な。目が赤い。これはカラコンとかが入ってるってレベルの赤さじゃないだろ」
監視カメラからの映像でも鮮明に映る、目の赤さ。そして不気味なほどに顔色は悪いし、表情といったものが全く変わらないから人間との違いがよく分かる。
「あとは……あー、たまに擦れ違う人とぶつかったりしても無反応だな……」
「ヴェイカントは、ごくごく簡単な命令しか遂行出来ないわ。でも、現実世界において人間の見た目をしているってことはそこに『物質』理論が働いているってことよ」
「……SC現象の起こる異空間ではどんな姿なんだ?」
「機械生物みたいな感じね。味方登録をしていないモノたちを攻撃することしか考えていないわ」
やっぱり人間の見た目を出来ているのは現実世界のみ、らしい。
本来の姿はSC現象の中のモノで、機会があれば拝んでみるのも良いだろう。
「ん?ってことは、コイツらって……町中で、ずーっとアクセ装置を持っているヤツがいないかどうか探しまくってるってことか?」
「そういうことになっちゃうわね……」
「……なら、コイツらを見かけたらある程度距離を取って離れれば良いってことか」
「え、どうして?」
カスミは『物質』理論そのものを理解していたとしても異空間に飛び込むことになっても自我を保てることが出来ているから分からないのかもしれないが、もしもヴェイカントっていうのがいつでもSC現象を引き起こしている状態なのだとしたら、装置に登録した俺たちは近場を通りがかるだけで異空間に引きずり込まれる。
そうならないためにも、一定の距離があればヴェイカントたちの探知には引っかからないってことだ。
「……SC現象を起こせる範囲にも限界があるんだろ。それがあるなら探知出来る距離にも範囲があるはずだ。だいたい、同じようなところをウロウロしているだけなら隙を見てその間に移動することは可能なはず……」
「湊くんは、頭の回転が優れているのか……状況判断が早い方なのでしょうか?」
「私もびっくりするような事を知っていたりするんです。彼の趣味のようなモノがあるとか……」
少し離れた場所で大人組の壬生さんと渚さんはあれこれと話し込んでいるようだが、俺たちは俺たちで考えることがあって監視カメラからの映像を元にし、対処を考えていく。
「……でも、コアがあるからって人間と同じ見た目を維持し続けることが出来るモンなのか?」
「そこは、ほら。理論を上手く使って『自分の見た目は人間です』っていう簡単な情報を周囲にアピールをしているってことよ。普通の人たちからすればそれを直に受けてしまっているわけだからヴェイカントたちは普通の人間と変わらないように見えているはずよ」
あぁ、なるほど。つか、そんなモノ……今の研究で作り出すことが出来るってことにびっくりだっての。裏の人間たちだって、こんな凄いモノが作れるならもっと世間に良いモノでも作ってやれば良いのに……。
「ほぉ~ん?」
「……んで、装置を持っている俺たちはヴェイカントの本来の情報を受け取ることが出来るわけだから自動的に装置が起動するってわけか」
「未だによく分かんねえけれど、そもそも戦闘のときになるとなんで魔法みたいなことが出来るんだ?」
魔法……確かに。
まるでファンタジーに登場するキャラクターたちの気持ちが分かったような気がした。
「私が戦う前に言ったこと覚えている?湊くんは炎系、樹くんは水系の攻撃をすることが出来るって言ったでしょう?それをあなたたちは受け取り、異空間の中で当たり前のように使っていたけれど、もしも私がそんな説明をしていなかったらあなたたちは何も出来なかったと思うわ」
渚さんから『あなたは炎が扱える』『水を扱える』って装置を介して認識を強く受けたことによって、SC現象の中ではそれを当たり前のように扱えたってことだろうか……。
今更ながら認識っていう力って凄いんだな。
「……それも、認識で埋め込んだ情報の一つってワケか?」
「それもあるわね」
「SC現象の中は、言わば認識情報と反認識情報が対する空間。簡単な話、思い込みが強ければ強いほどに強い魔法は生まれるでしょうね。でも、その分、気力を使ってしまうから先にバテて戦線から離脱……っていうこともあるわよ?」
「っつーと、もしも属性とか関係無く、相手に『死ね』とか『壊れろ』とかって強い認識を飛ばし続けていたら相手はその通りになるってこと?」
さすがにそれは……無理じゃねえか?こっち側が『死ね』『壊れろ』って認識を強く与えたとしても向こう側だって『死なない』『壊れない』っていう認識を持つわけだからそうそう簡単にはいかないはずだ。
「もちろんそれを防ぐために相手も装置を起動しているのだからそう簡単にはいかないでしょうけれど、理論的には間違っていないわよ。でも、強い認識を相手にぶつけるってことは気力の消耗が激しいの」
「……気力気力って言ってるけれど、それって体力とは別モノだよな?」
「うーん……精神的な強さ……っていうと、もっとややこしくなっちゃうわね……。あ!樹くんだったら、力を使った分だけどんどんお腹が減るって感じになる、かしら?」
とうとう渚さんもどう説明するのが分かりやすいか困ったようで、樹を例にあげて説明しだしてしまった。あー、確かにコイツの場合は、分かりやすい。でも、それは樹のケースだけだ。
他の一般的な人の場合だと、どうなるんだろう?
「おー!それは分かりやすい!」
「……いや、それ樹の場合だから」
「疲労とか、装置に慣れない人だと肉体の消耗が激しいみたいね。あなたたちは若いからきっと明日辺りにでも体に変化が表れるんじゃないかしら」
「……命に別状があるとかってワケじゃないんだろ?だったら慣れるまで使い込んでみるっていうのも一つの手かもな。幸い、ここら辺にはヴェイカントが多いらしいし」
単なる疲労が溜まるぐらいなら、一つ考えて試してみたいことがある。
実際にヴェイカントっていうのと戦うことだ。俺だってまだまだ装置の扱いには慣れていないし、ヴェイカント相手に戦い方を学んでいくっていうのも良いかもしれない。
「おいおい。自ら探知に引っかかっていくってことか?」
「……戦いの経験値が足りないと、手練れのヤツらと対峙したときが大変だろ?」
手練れのヤツがどんな戦い方をするのか分からないが、装置の扱い方が上手いんだろう。それから戦い方も。だったら少しでも戦闘経験値を上げて、いろいろな戦いを試してみるってのは名案だと思う。
「それは言えるわね。……そう言えば、壬生さんが持っていたモノは、誰かが登録しているのかしら?」
「いえいえ。ワケの分からないモノには極力触れないようにしているので、その登録とやらは誰もしていませんよ」
普通に壬生さんは装置を持っていたから壬生さんが登録していたのかと思っていたけれど、そういうわけでもなかったらしい。つまり、未登録の装置がここに一つ、余っているってことか。
「……確か、一人一つまでしか登録出来ないんだったか」
「そうよ。だから、持っている装置が壊れたりするまでそれを使い続けるしかないわね。でも、とっても貴重なモノなんだから壊しちゃダメよ?それ一つを作るために凄い時間が掛かるんだから」
ヴェイカントの謎。少しは、イメージ出来てきたでしょうか?まだまだ、難しいかな?つまり、コアの目の部分をズドンとしてしまえば異空間に引きずり込まれることなく、ヴェイカントを倒せる。……でも、そんな上手くいくかな?
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