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勇者8「決着」



 爆発方向からマイルスの声が聞こえる。

 毎週教会に集まった人々に向かい、経典を朗読する事で鍛えた声だ。良く響くその声が今は鬨の声となって魔族兵を引きつける。

 それと同時に謁見の間に続く通路の影からレックスとメイナードが雄たけびと共に飛び出し、魔王に襲い掛かった。


「ぬうっ、こ奴らが侵入者か!おのれ!!」

 魔王の姿があっという間に赤銅色の肌を持つ悪魔の姿に変わる。高位魔族、それも戦闘職だけが持つ戦闘形態だ! ただでさえ強力な高位魔族、それが今は魔王スキルの影響を受けている。魔王スキルは割合強化、元々の戦闘力が大きい者ほど大きな加護を受ける。ならば魔王として玉座に座るほどの高位魔族がその影響を受けるならばその効果はいかばかりか!


 人族の冒険者の中では最高クラスの戦闘力を持つレックスとメイナード、その連携の取れた攻撃を、魔王は二対一でも余裕で捌き、跳ね返す。


 レックスの両刃の斧も、メイナードの鋭い槍もその身体には届かず、逆に腕の一振りで跳ね返され、あっという間に体勢を崩され地面に這いつくばる事になった、その時だ。


「地母神の名において彼の者を撃ち、消滅させんことを!!・・・・聖撃(バニッシュ)!!」


 凛々しい女の声が響き渡ると同時に激しい光が魔王を襲う。

 神聖魔法の中の数少ない攻撃を目的とした奇跡、『聖撃(バニッシュ)』・・・信じる神の加護を以って、対象を光と共に消滅(バニッシュ)させると言われる程の威力を持つ高位の奇跡である。

 攻撃を目的とする為、地母神ニースとは相性が悪いとされるその奇跡をこの若さでさで授かるとは、いったいナレイアはどれほど地母神に愛されているのか!


 それでも一撃で葬るとはいかず魔王は健在、しかし何の痛痒も無いとはいかず。当然レックス、メイナードへの追撃も阻止された。その間に二人は立ち上がり叫ぶ。


「ペイン!ロルス!カイヤ!いけぇぇぇぇ!!!」

 即座に動いたのは暗殺者のロルスだ、音もたてずに魔王の横を回り込むように少女に接近しようとするが、残っていた魔族兵に阻止され、つばぜり合いの状態に。

 そしてその脇を通り抜けようとしたカイヤは魔王の放った火球で焼き尽くされ、断末魔の悲鳴を上げる間もなく消し炭となった。魔王も冒険者たちの狙いが魔王スキルを持つ少女である事に気付いたのだ。

 立ち上がったレックスたちがペイン達を通すために再び魔王に襲い掛かるが、既に魔王は彼らの事はハエでも追い払うかのようにあしらっていて、その意識は他の二人に注がれている。

 すなわち恐るべき奇跡の使い手であるナレイアと、少し遅れて少女に向かおうとしているペインにだ。

 認識疎外の呪いで魔力を使い果たしたエマはその場にへたり込んでいる。


加速(ヘイスト)!」


 走りながら発動したペインの自己強化魔法、そのスピードが急激に上がり、魔王の放った魔法がさっきまでペインの居た場所を焼き尽くす。

 焦る魔王がすれ違いざまロルスの頭を叩き潰し、少女を守ろうとその元に駆け付けようとした時、再びナレイアの聖撃(バニッシュ)が魔王を襲い、その衝撃と光が魔王の目を塞いだ。その間に加速の加護を受けたペインはまるで狼のような速度で少女に迫り剣を突き出そうとする。

 ペインにはその瞬間がスローモーションのように見えた。


 衝撃と閃光に顔を覆い怯む魔王、涙を浮かべ恐怖に顔を歪める少女。その瞳に剣を突き出そうとする鬼のような形相をした自分の姿が映し出される。

 自問自答している暇はない、だが何で俺がこんな事をしなければならないのか、どうしても分からなかった。

 俺が戦う相手は醜悪で凶暴で冷酷な、魔王と言う強大な悪では無かったのか?


 この少女に罪はない。自分が『勇者』という職業を突然授かってしまったのと同じで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なのに、何故こんないたいけな少女を殺されなければならない!?

 

「ハァァァァ!!」

 迷いとは裏腹に、裂帛の気合と共に繰り出されたペインの突き。それが無力な少女の胸に吸い込まれる。

 たまたま変なスキルを授かってしまっただけの、何の抵抗も出来ない無垢で無力な少女。

 罪悪感とやるせなさでペインの目にも涙が浮かぶ。

 それでも『勇者』としての身体能力はいかんなく発揮され、右手に握られた勇者の剣は無慈悲なほど正確に少女の心臓を貫く。

 小さな吐血・・・そしてその次の瞬間、少女の目から光が消えた。



◇ ◇ ◇ ◇

________________



「貴様ぁぁァァァァぁぁ!!!」

 聖撃(バニッシュ)による足止めを突破して魔王がペインに襲い掛かる、だがもはや遅い、ペインの剣は既に少女の胸を貫いた後だ。そしてその瞬間魔王スキルの影響が切れる。


 ペインに襲い掛かろうとしていた魔王の膝がいきなりガクンと崩れ、そのまま前へつんのめる様にペインに向かって倒れるように空中を泳いだ。

 一度引退した冒険者が復帰した際、頭では昔のように動けると思っているのに体がついてこない、そんな時にこういう転び方をする。

 恐らく魔王スキルが急に切れたことにより、今まで動いていた体が急に思い通りに動かなくなった・・・その認識のズレからバランスを崩したのだろう。そしてそれは致命的な隙だった。



「ォォォオオオオ!!」

 ペインは少女を貫いていた剣を乱暴に抜き、そのまま少女の血に染まった勇者の剣で、バランスを崩したまま無防備に突っ込んでくる魔王の首を刎ねる!


 ・・・・とさり。


 そんな軽い音がして魔王の頭が地面に転がった。

 戦闘形態の解けた魔王の顔は、玉座に座っていた時の厳めしく、雄々しかった顔よりも随分年を取ったように見え。まるでただの老人のようだった。


「やった!!はははやったぞ!」

 魔王に吹き飛ばされ、地面に這いつくばっていたレックスが歓声を上げる。


「はは、ははははは、ぎゃははははは!!!」

 レックスとメイナードは笑い続ける。

「どうだ!これが人間様の力だ!ざまーみろ!ぎゃはははは!!」

 まるで恨みを晴らすように、首の無い魔王の体を笑いながら蹴り続ける二人は、既に狂っているのかもしれない。


 その時、ヒョウ!と言う風切りの音とともに一本の矢が飛来して、床にへたり込んでいたエマの胸を貫いた。

 ぐももったような呻きを上げ、エマがその場で動かなくなる。


「曲者!!、魔、魔王様が!!、き、貴様らァァァァ!!」

 陽動に釣り出された近衛たちであった。


 その手には討ち取った侵入者・・・マイルスとケイマンの首がある。

 彼らは言っていた。「陽動の為に爆発魔法を打った後は逃げさせてもらう」と、だがそれは叶わなかった様だ。


「ペイン!!お前らはその首持って早く行けェ!、こいつらは俺の斧の餌食にしてやる!」

「おい!レックス、お前死ぬ気か!?」

「ははは、おう。自分の体の事は自分が一番良く解ってる、俺は例え帰れてももう長くねぇ・・だったら最後の最後に大暴れしてやるぜ」


 確かにレックスやメイナードの身体は魔国産の煙草・・・いや、ここまで人体に悪影響がある事を考えると麻薬、あるいは毒と言ってもいいかもしれない・・・によって侵され、まるで幽鬼のような雰囲気を漂わせ始めていた。

 ペインが同じように魔国産の煙草に手を出し無事なのは、明らかに『勇者』という特殊な職業による恩恵によるものだった、そういう意味ではペインも既に人間ではないのかもしれない。


「無事に帰った奴が居なきゃ俺達の華々しい最期を報告する奴が居ねぇじゃねぇか!、俺は英雄に・・・伝説なるんだ! それに金だ!100億だぜ!? 仕事だけして報酬を誰も貰えねぇなんて悔しいじゃねぇかよ!!ペイン!お前、俺達の代わりにあの大聖堂のクソ親父から金を毟り取ってくれよ!!」


 この期に及んで自分達の見栄とカネの話とは、何と言う・・・・・・いや、しかし冒険者らしいと言えばこれ以上冒険者らしいやり取りも無かった。


「だけどよ・・・」

 それでも仲間を見捨てる事を躊躇するペインに、魔王の首を拾ったナレイアが、その首を投げてよこしながら凛とした声で言い切った。


「いくら勇者とは言え完全に包囲されたら勝てないどころか逃げる事も出来ないでしょう、それなら彼らの言葉に甘えてその首を持ち帰り、人族の勝利を確定させるのが最善です」


「はっっはっは!!、なんでぇ、そっちの司祭のネェチャンの方がよっぽど状況を理解してるじゃねぇか!!ペインもそのネェチャンを見習って腹を括れ!」


「くそっ!」


 ペインは一言そう吐き捨てると、投げつけられた魔王の首を拾って侵入した通路側に向かって走り出す。ナレイアは既に先導する様に走り出していて、走りながら戦闘前に下ろした背負い袋を拾っていた。


「絶対お前らの武勇伝は(みやこ)の奴等に伝えてやる!!人族を救った英雄だってなぁぁぁ!!」

「わははは、そりゃあいいな、頼んだぜペイン! うをぉぉぉ!!!」


 背後でレックスとメイナードが魔族の近衛兵と戦う音が響き始める。


 ペインとナレイアはその雄たけびと剣戟を背後に聞きながら、潜入したルートを逆走するように城から抜け出す。

 ナレイアも唯の司祭ではないのだろう、異常なほどの持久力を発揮してペインに付いて来た。何処をどう通ったのかもよく覚えていない、しかし魔王の首を背負い袋に入れたペインとナレイアは、再びゲリラのように森を抜け、獣や虫、野草を食べながら、なんとか味方の陣までたどり着いたのだった。


 魔王の首を持ち帰った勇者に王国軍は沸いた。

 逆に魔王スキルの影響が切れた魔族は弱体化し、元々数で勝る人族が魔族を押し始める。そのまま押し切りイワティスを落とす事も出来たであろうが、早馬によってもたらされた魔王の討伐成功を聞いた首都カナンでは、今回の遠征の目的は達したとばかりに停戦を選択する・・・


 司教ザッハール・ニルスにとって脅威だったのは魔王スキルで強化された魔族であり、そのスキルの持ち主が居なくなった今、魔族は大した脅威では無くなった。その上魔族領の大陸最北方地域は人間にとって厳しすぎる自然環境で、占領した所で大した意味が無かったのだ。

 そして無能で主体性の無い王にとって、この戦争には何の興味もなかった。ただザッハールが「危険だ」と言うから許可を出し「もう大丈夫だ」と言うから停戦した、ただそれだけである。面倒臭い事はしなくていいならその方が良かった。


 こうして人魔大戦と呼ばれた人族による魔族領への侵攻と、暗殺による魔王殺害の二面作戦による戦争は終結し、魔族は魔王スキルの持ち主と、一族を纏める魔王を失い弱体化したまま人族との停戦に合意する。


 この戦争で人族に得るものがあったかと言うと、何も無かったというのが真実だろう。

 ただ魔王スキルの持ち主を始末し、本当にあったかどうか解りもしない「魔族の大進行を未然に防いだ」という、言いがかりにも等しい成果があっただけだ。


 だが今回の戦争で主攻をおとりに使い、最も被害が出る役割を冒険者に任せたことで国軍の被害を最小限に抑えた司教ザッハールの手腕は高く評価された。(それでも数千人の犠牲者は出たが、戦争を仕掛けて勝利した事を考えれば最小限の被害である)


 そして困難な任務を生き抜き、人族にとっての災厄に()()()()()()()()()魔王を討ち取った勇者ペインと司祭ナレイアは、その任務を果たすにあたって勇敢に散ったとされる98人の英雄と共に、人々から崇拝に近い感謝と尊敬を受ける事になるのである。




_________________つづく



やっぱりRPGでよくある「数人パーティーで城に乗り込み魔王を倒す」と言うのを小説化すると凄い無理がありますねwそれでも精いっぱい考えて書きました、楽しんで頂けていればいいんですが。

次回、最終回、エピローグです。


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読んでいただき有難うございました。

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