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勇者5「躓き」



 主力に比べれば小部隊とは言え、100人となればそれなりの規模である。流石に獣道のような道を使う訳にもいかない。

 森の中を縫うように走る、やっと荷車が一台通れるような幅の道は、魔族の狩人や、地元民が使う生活道路であろうか?

 複写した地図を片手に熟練の野伏(レンジャー)が先導し、その後を長く伸びた一団が続いて行く。


 最初の数日はまだ魔族領に入ったばかりと言う事もあり、特に目立った戦闘も無くひたすら歩くだけであった。

 問題と言えば、夏が近くなり林の中には虫が多いこと、そして風呂に入れない事や()()()()事情に女性冒険者が不満を漏らす程度だ。



「そういやぁペイン、あの金ピカな鎧はどうしたんだ? まるで大聖堂の礼拝室にあるシャーリアス像みたいで似合ってたのによ」

 

 歩きながらですそう聞いてくるレックスの顔は今にも吹き出しそうで、からかわれているのは一目瞭然だ。


「暗殺しに行く人間があんな目立つ鎧着てどうすんだよ!しかもクッソ重かったしよ、ありゃあ完全に鑑賞用だぜ」


 今ペインが着ているのは冒険者として活動する時から愛用している皮鎧だ。それほど高級なものではないが、着慣れているし愛着もあった。


 そんな行軍とも言えないような行軍中の事だ、先触れに出ていた野伏の一人が厳しい表情で駆け戻って来た。

 今まで呑気に歩いていた部隊員の間に緊張が走り、あっという間に油断の無い顔つきに変わる。この辺りはさすが熟練の冒険者達だ。


「恐らく哨戒の部隊だと思う。小規模な魔族の隊がこっちに向かって来ている。恐らく数は10~15・・・どうする?」


「まあアチラさんとしても警戒はするだろうな・・・この人数だ、隠れてやり過ごせるとも思えない・・・()るしかないな!」


 即断即決、レックスの判断は早かった。

 すぐさま奇襲までの手順が決まり、冒険者達は少し戻って道の左右の樹木や岩影に身を潜める。

 そうして彼等が息を殺していると、道の先から魔族の小隊が姿を表す。全員武装していて農民や商人でないことは明らかだ、数は12、騎乗しているのは2名・・・


 その馬の頭が突然爆ぜた。


 魔法による狙撃。

 銀の弩矢(シルバー・バレット)メンバーの中でも腕利きの魔術師による、小炎弾(ファイア・バレット)小石弾(ストーン・バレット)の4連奏、その2発ずつが一瞬にして魔族の騎乗していた騎馬の命を奪ったのだ。

 憐れな軍馬はそのまま前へ崩れ落ち、乗っていた魔族を振り落とす。

 そこに間髪を入れず数十本の矢が一斉に降り注いだ。


 まず馬を狙い、機動力を奪ってから確実に仕留める。レックスが即座に思いつき、実行に移したそのシンプルな作戦の示す所は一つ。絶対に逃がさないと言うこと。

 最初の弓の斉射で魔族の半分は行動不能になっている。偶然その矢から逃れ、まだ動ける魔族が慌てて来た道に向かって走り出すが、それは読まれている。

 第二射でさらに二人が倒れ、残った者も回り込んだ冒険者達が囲んで始末した。


「なーんだ、魔族が強くなったとか言ってた割に大した事無いじゃん、これなら余裕なんじゃない?」

「ばーか、哨戒部隊にわざわざエース級の兵を投入するかよ、ともかく一人も逃がさなかったのは良かったな」


 魔族とは言っても下級魔族は戦闘形態も無く、ほとんど人間と変わらない見た目をしている。

 それでもゴブリンなど人型の魔物を多く討伐する事の多い冒険者にとっては、魔族=魔物と思い込む事で意外と平気のようだったが、回復要員として参加した神官の中には初めて見る戦場の凄惨さに絶句している者も居た。


「おいおい大丈夫かよ?」

 自分達だって駆け出しの頃は同じだっただろうに、そんな神官を冒険者たちが笑う。


 それから一週間ほど森の中を進み、その間2回の戦闘があった。しかしいずれも出会ったのは大して強くも無い哨戒の部隊で人数も少なく、銀の弩矢(シルバー・バレット)は危なげなく勝利を重ねてさらに先へと進んでいった。


「ナレイアさんだっけ?アンタ意外と取り乱さないんだな、地母神の司祭って言やぁ荒事とは最も遠い生活をしてきたはずなのに、けっこう肝が据わってんだねぇ?」


 ペインが進軍中の無聊を慰めるようにナレイアに話しかける。それに対してナレイアは特に何も答えなかったが、彼女は切り殺された死体に取り乱す事も無く、むしろ討ち取った哨戒部隊の魔族の為に安らかな死を祈る程度の余裕があった。魔族に光の神の祈りもどうかと思うが。


「確かに悲しい事だと思いますが、世の中の悪い流れを根本から変えるには、どうしても必要な事だと思いますから・・・」


 それからも話しかけ続けると、彼女は自分がこの作戦に随行した理由を少しだけ話してくれた。それは、今現在の治安の悪化やインフレを解消するには、この冷戦とも言えるべき人族と魔族の対立に一旦区切りを付けなくてはならないと思うからだと言う事。(どちらかと言えば魔族が悪いというより、それを利用して利益を得ようとする人間に問題があるとナレイアは言っていたが、ペインには良く解らなかった)


 つまり目先の高額報酬が目当てではなく、貧しさゆえにやりたくも無い犯罪を犯さなければならなくなる」人間を減らしたいという想いからだと言う事を。


(聖職者なんて一皮むけば俗物ばかりだと思ってたが、居るんだなァ、中には、こういう奴が・・・)

 まだ若いのにどこか覚悟の決まった顔で歩くナレイアの横顔を見ながら、ペインはそう思った。


◇ ◇ ◇ ◇

_________________



 一人の犠牲者も出さず、意気揚々と進んでいた銀の弩矢(シルバー・バレット)の部隊であったが、その雰囲気に変化が訪れたのはそれから更に一週間ほど経った頃だっただろうか?

 

「おい!、まだ来ねぇのかよ!? この前帰った奴らにはちゃんとこのルートを通るって伝えたよな?」

「五月蠅いな、俺だってちゃんと探した!だけど居なかったものはしょうがないだろうが!文句があるなら自分で探しに行けよ!」


 定期的にこの隊に食料や物資を補給していた輜重部隊が、今回初めて姿を見せなかったのだ。

 予定を1日過ぎた時点で部隊は一旦停止し、後方へ何人か野伏(レンジャー)を送って探させてみたが手掛かりは掴めなかった。


「もしかして・・・俺達が厄介だと気付いた魔族共が、兵站を狙って兵糧攻めを企んでるとか・・・」


 確かに何処に居るかも分からないゲリラ部隊の精鋭100人に対抗するには魔族側も同等の部隊を用意しなければならないだろう、しかも戦力を揃えただけでは意味が無く、まず発見する事が困難だ。しかし魔族の精鋭は現在イワティスで人族の主力と睨み合っている、それほど多くの精鋭は揃えられない。


 その点、潜伏能力や戦力に長けた銀の弩矢(シルバー・バレット)本体を狙うのではなく、輜重部隊を狙うのであれば精鋭は必要ない。そしてここは魔族領内だ、荷車が通れそうな道も把握しているだろう、地の利は向こうにある。


「おい、冗談じゃねぇぞ!? こっから何も食わずに進めっていうのか?」

 誰かが漏らした呟きに、他の誰かが反応し、部隊全体に動揺が広がっていく。


「ッチ!、兵站の維持は部隊運用の最重要課題だろうが・・・あのザッハールって司教はそんな事も知らねぇのか!?」


 元々彼らが普段こなす依頼などは大抵一週間程度で片が付くのである。冒険者たちにとっても一か月以上になる遠征は初めてで、疲れが溜まってきていた。

 今までは連戦連勝で食料もあり、気分的に疲れを感じにくくなっていたが、食料が届かないというこの状況に、今まで感じていなかった疲れがどっと噴き出して来る。


 そしてその疲れとストレス、空腹は一気に隊の雰囲気を悪くしていったのである。



「どうする?戻るか?」

「バカ!戻るったって食い物は要るだろ。それにろくすっぽ戦いもせずに帰ったら作戦は失敗だ、今イワティスで戦ってる奴らの中には死人も出てるだろう?今更作戦中止なんて出来ねぇよ」

「ああ、このままおめおめ帰ったりしたら、そいつら戦死者の遺族から俺達は完全に戦犯扱いだぞ?」

「それにみっともないだろう、散々魔王を討ち取ってやるって吹いていたのに『腹が減ったので帰ってきました』じゃあいい笑いものだ!」

「そうだな、ここに参加して無い冒険者仲間からも笑われるし、そうなったらこの仕事を続けてなんかいられねぇぞ?」


 一応相談らしきことはするが、彼らの自尊心の高さ、承認欲求が撤退の二文字を許さない。

 それに撤退するには進軍しすぎている、ここからならば引き返すより、魔都ハジムへの距離の方が近かった。


「おい、お前狩人なんだろ? なんかこの森の中で喰いモンを調達とか出来ねぇのかよ?」


 強面の戦士に詰められているのはペインのパーティーのメイサと言う女弓使いである。

「哨戒の魔族との戦いでも全く役に立って無かったんだから、こんな時くらい役に立てねぇのかよ」

「ご、ごめんなさい」


「おい!やめろよ!」

 今にも胸ぐらをつかみそうな戦士をペインが止める。


「いいのペイン・・・そうだよね、一応採取の経験もあるし、もしかして獣が獲れれば解体もできる、私、少しその辺を探して来るよ」


 狩人としての経験があるメイサが森の恵みを調達すると言い出すと、何もしないよりはマシかとオレも、私もと手を上げる者が現れ始める。


「よし、方針はこうだ、まず撤退はしねぇ。だが少し戻って輜重隊の捜索をしよう。その間出来る者は周辺で喰えるものを探す、獣を獲ったりな。魔都まではあと少しだ、もう2回くらい輜重隊が来ればハジムまでは到達できる」

「おう!」

「分かったぜ」


 こうして銀の弩矢(シルバーバレット)の隊員たちは、数時間の道のりを引き返し、輜重隊を見つけやすい所にキャンプを張って、急に来なくなった輜重隊の捜索をする事になる。

 今までのように見つけにくい森の中ではない為魔術師が認識疎外の(まじな)いをし、平地でキャンプを張る。戦いでは連勝しているのに思わぬ事で味方に足を引っ張られる事になった。


 しかし待てど暮らせど輜重隊は来ない。それもその筈、輜重隊は魔軍の遊撃隊によってことごとく撃破されていたのだ。


 魔軍としてもこの森のどこかに別動隊が居る事は掴んでいた。しかし広大な森でゲリラ戦をされ、捜索に出した兵が一人も帰ってこない為正確な位置を掴むことも難しい。

 そこで発見するのが容易で撃破しやすい輜重隊を狙ったのである。それは魔族領の自然の厳しさを知っている魔族からの兵糧攻めであった。


「この辺りは標高が高くて気温が低いせいかあまり果実類は見つからなかった、でもキノコ類はいくつか見つける事が出来たよ」

「私は山鳥を3羽と、ネズミはどうしようかと思ったけど、一応持って来た」

 採取に出た人間がそれぞれ成果を持って帰って来る。


 周辺での採取はあまりうまくいかなかった。何しろ人族の領土とは生態系が違う。下手な植物の実などに手を出して、毒でもあったら目も当てられない。

 それでもキノコ類は人族領と同じ種類に()()()ものが生えていたし、倒木に生えるそれはかなり量が確保できた。


「けっ!ネズミにキノコかよ、腹の足しにもならねぇぜ!」

「贅沢言わないの、輜重隊が来るまでの辛抱だから」


 量が足りないとぼやく男性陣を嗜める女性陣だが、彼女達も山鳥はともかくネズミを持って来たメイサには眉をしかめる。

 しかしそのネズミは丸々太っていて小さなウサギくらい有った。


 周辺を捜索したメンバーが小さな小川を見つけたが、魚がいるような大きな川ではなく水も淀んでいる。浄化(ピューリファイ)の奇跡をかければ一応飲めるだろうが、元がどぶ川のような川の水だと思うとそれも出来るだけ飲みたくないと言うのが女性陣の本音であった。


 それでも解体した獣を焼き、残りの食糧と合わせて夕食を摂るとピリピリとした空気が一瞬和らいだ。しかしそんな和やかな雰囲気も長くは続かなかった。


「うげ・・・うげぇっ!」

 その日の夜、銀の弩矢(シルバーバレット)のメンバーは激しい吐き気と下痢に見舞われた。恐らくキノコが原因か、それとも獲って来た動物の処理が甘かったのか、あるいは毒でも持っていたか・・・


 神聖魔法でも病気を癒す奇跡はかなりの高位の奇跡である、そこまでの奇跡が使える神官はほとんどいないし、居ても腹痛程度の病に使う奇跡ではない。

 必然的にそれぞれが持っている下痢止めなどの効果のある薬草を飲んで横になるしか無くなった。


 そしてそんな中、最初の犠牲者が出る。


 それは翌朝朝日が昇り、目の下にクマが出来たメンバーのげっそりとした顔が確認できるようになった時だった。

 隊の何人かが自分のパーティーメンバーが居ない事に気付いて、その事をレックスに伝えたのだ。


 すぐさま数人の小隊を組んで周辺を捜索すると、その行方不明者は、キャンプから少し離れた場所で、無残な姿で発見されたのである。



________________つづく





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