勇者1「冒険者ペイン」
これは「放浪の元勇者、ペイン・ブラッド」と言う話の前日譚と言うか、ペインの若い頃の話です。
話自体は独立していますし、時系列的にはこっちの方が早いので、こちらから読んで頂いて全く問題ありません。全9話です、それではよろしくお願いします。
冒険者と言うものが職業として認められるようになって、いったいどれほどの時が経っただろうか?
元々彼らは定職に就かず、遺跡や墳墓など、いかにも何かありそうな場所から金目のものを盗んで売りさばき、その日暮らしを続けるならず者であった。
だが、それだけでは食っていけないので、ついでに魔獣を倒してその素材を売ったり、気まぐれに金と引き換えにモンスターに困っている村人の頼みを引き受けたりもした。
荒事に強く、体力がある彼らは金次第で何でもやった。
要するに「何でも屋」だ。
そのうちギルドが出来て仕事が斡旋される様になると、彼らは自分達の事を「冒険者」と自称するようになる。
誰が最初に言い出したかは分からない。
だが「墓荒らし」だの「何でも屋」だの言われるよりは冒険者の方が聞こえがいいと言う事だろう。
前人未到の遺跡を踏破し、手ごわい竜や悪魔と戦いを演じる。
「冒険」と言う言葉にはそんな響きがあった。
そして一部手練れの冒険者たちの中には実際にそんな冒険を経て、一攫千金を成し遂げ、あるいは名を上げる者が出てくる。すると若く無謀な少年少女の中にはそれに憧れ、冒険者を志す者が現れ始める。
この物語の主人公、ペイン・ブラッドもそんな青年の一人であった。
◇ ◇ ◇ ◇
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「ようペイン、お前最近やけに調子がいいじゃないか!」
「おうよ!ついに俺の秘められた才能が開花しちまったかなァ?参ったぜ」
人里近くに住み着いたゴブリンを退治するという地味な仕事の帰り道、仕事仲間の盗賊からそう声を掛けられ、ペインは軽口を返す。
途端に仲間たちから「バ~カ、調子に乗んな」だとか「才能?無い無い!」といった言葉が笑い声と共に返ってくる。
いくら相手がひ弱な妖魔だとしても危険な仕事には変わりない。全てが終わって誰も欠けず、後は報酬を貰うのみと言うこの瞬間が、冒険者にとって一番安らげる時間帯だ。
「でも本当に最近のペインは凄いですね、今日のゴブリンだってペインがほとんど始末したようなものでしょう?私達の出番なんてまるで無かった・・・」
後衛の女魔術師がそう言い、その言葉に仲間の何人かが頷いた。
確かに思う所はあった。
ペインは「戦士」である。
武器戦闘の専門家、盾役、前衛・・・実力はピンキリだとしても、要するに体力がある奴なら誰でもやれる一般的な戦闘職だ。
基本的にペインのパーティーの戦い方は、ペインともう一人の二人の戦士が盾役となり、その間に魔術師や弓使いが攻撃を当て、弱った敵を袋叩きにするという戦闘スタイルだった。
神官と盗賊は回復と罠の専門家で、戦闘にはほぼ参加しない。(最後の袋叩きの時だけ参加してくるが)
だが最近はペインの剣が冴えまくり、まず接敵した瞬間敵を切り捨ててしまう為、後衛をはじめ他のメンバーは「ただ見ているだけ」と言う状況が多くなって来ている。
「そうだよなァ、なんか最近よ、相手の攻撃が凄くハッキリ見えるし、むしろ誰とやり合っても負ける気がしねぇんだ。嘘じゃないぜ?」
実際2回前の冒険の時には、以前なら明らかに格上であった筈のオークエリートを、一対一であっさりと倒している。
「ねぇペイン、アナタもしかして、経験が満たされて特別なスキルを授かったか、職業が変わったんじゃない?」
物知りな魔術師にそう言われ、そう言えば以前金が無くて馬小屋に泊まった時、寝苦しさにうなされながら何か夢を見た様な気がする。
やけに調子が良くなったのはそれからだ。
ペインは街に帰り報酬を受け取ると、久しぶりに教会にでも行ってみようかと言う気になった。
教会では特に術使いを常時募集しており、王都の教会はデカい分「鑑定」なんてレアスキル持ちの人間が居るので、希望すればその人間にどんな才能があるのか大まかに鑑定てもらえる。
むろんお布施は取られるが。
以前見てもらった時、ペインの持つ才能は「戦士」で、それ以外に才能は無いと言われた。
どうせ今回の報酬を貰ってから暫くの間は、仲間たちは自堕落な生活を送り次の依頼など受けないだろう。
その間の暇潰しには丁度いいと思った。
(もしかして『剣匠』とかになってたりしてな? もしそうなら冒険者なんか辞めて城勤めの身分になれるかもしれないぞ?)
ペインは「もしかしたら・・・」と言う可能性に心を躍らせ、大聖堂近くにある、下位神官の修行場のような教会に足を運び、何度か治療に訪れて顔見知りになっている青年神官に声を掛けた。
「邪魔するよ、なあ、ちょっといいか?」
「あれ、ペインさん、どうしたんですか? また怪我ですか?」
「最近は怪我でここに来た事なんかねぇだろ」
最近ここに来た用事と言えば、貧民向けの炊き出しの日にタダ飯を食いに来ただけだ。
「最近ちょっと不思議な事があってね、鑑定を頼みたいんだ、大丈夫、金ならちゃんと払うからさ。」
「そうですか、では少々お待ちください」
しばらく礼拝堂の硬い長椅子に座って待っていると、かなり久しぶりに見る禿げ頭が近づいて来た。
小太りで丸眼鏡をかけた禿げ頭のその中年神官の名はマイルズと言った。
「何か私に鑑定て欲しいのだとか?」
「ああ、最近妙に強くなっている気がするんだ、よく覚えてないけど変な夢を見たような気もするし・・・良い事ならいいんだけどよ、何か呪いの可能性も無い訳じゃねぇし、いっちょ見て貰おうと思ってさ」
体に何か不思議な事が起こる時は良い事とは限らない。一見良い効果のように見えて、実は何かを犠牲にしているような呪いの可能性だってあるのだ。
マイルズに5000レイアのお布施を渡し、ペインは自分を「鑑定」してもらう。マイルスは神官としてはそれほど経験豊富では無かったが、鑑定スキルだけはかなり鍛えている。まあその方が儲かるからだが、一応信用してもいい相手だ。
マイルズが精神を集中すると、瞳の色が明滅するように色を変える。玉虫色に色を変えるその不思議な瞳に眼鏡の下から見つめられ、ペインは緊張しながら答えを待った。
「そんな・・・まさか・・・」
マイルズの第一声、それは擦れたような呟きとなって唇から洩れた。
「な、なんだよ!?もしかして何か悪い事なのか!?」
不安になって聞くペインに、マイルズはゆっくりと首を振る。
「いや、いいか悪いかで言えば間違いなく良い事だと思うんだけど、なんだか自分の目が信じられないよ・・・これは上に報告しなければならない内容だ。悪いけど付いて来てくれないかね?」
マイルズの言う上と言えば、ここ王都カナンにある大聖堂である。そこの司祭やら司教やら、ともかくそう言ったお偉方に報告しなければならないような鑑定結果が出たと言う事だ。
「マジかよ・・・」
ペインは一瞬怯んだが、悪いニュースではないと言う事は確かだというから、もしかして自分の職業が聖堂騎士やら君主やらに変わっていたとか?と、そんな事を考えた。
それなら大聖堂に報告と言われても頷ける。そしてそう言った職種であれば高給で召し抱えられる可能性もありそうだ。
ペインはそんな想像をしながら、その時は「でも、大聖堂勤めなんて固っ苦しそうで嫌だな」なんていう事をおぼろげに考えていた。
◇ ◇ ◇ ◇
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「司教様、市街地の教会のマイルズから、至急相談したい事があるとの連絡が入っております」
マイルズはペインを伴って大聖堂に向かう前に、『至急』印の入った手紙を丁稚に持たせ、大聖堂まで走らせていた。
その手紙を受け取ったのは40代半ばで司教の地位まで上り詰めた、ザッハール・ニルスと言う一人の高司祭である。
ザッハール・ニルスは、聖職者にあってはならないほどに悪い噂の絶えない人物だ。
金に執着し、喜捨によって得た金を貸し付けたり、投資したりして私財を増やしているという。彼が若くして司教の位に上りつめられたのも「その位をカネで買ったから」などという噂もある。
しかし彼には才能があり、多方面に貸しを作っているだけでなく、その財力と発言権を利用して様々な企画や事業を成功させ、シャーリアス教団の勢力拡大や信者獲得にも大きく貢献している為、清流派の老司祭たちも彼に文句を言うことは出来ず「次期の大司教も確実」と、そう言われている男だった。
「マイルズ・・・と言うと、高い鑑定能力を持つ男だったな。よろしい、手紙をこれへ」
ザッハールはペーパーナイフを手に取り、未だのりが乾いていない、その手紙を開けると、一通り目を通し驚愕する。
「勇者・・・だと!?」
それが本当ならば自分の目で確かめなくてはならない。
何故なら最近北方の魔族の領土で魔王が誕生したという噂があるからだ。魔王の能力は強力で、このままでは人族と魔族のパワーバランスが崩れるかもしれないのだ。
そして古来より、魔王の誕生と同時に勇者スキルを持つ人間が人族の中に現れる。それは歴史が証明している。
なぜなのか?それは誰にも分からない。魔王スキルも勇者の能力も神から与えられるものであり、神の御心など所詮定命の身である人間などには解る筈が無いからだ。
神を信じ、その声を聞くと言われる「司教」の位に居るザッハールが言う言葉では無いが、実際ザッハールは神の声など聞いたことは無かった。
だが神聖魔法は使う事が出来るし、故に神は居るのだと何となくは信じていたが、その心まで分ろうはずも無いとも思っていた。
「これからマイルズはその人物を連れて大聖堂まで来るそうです」
「うむ、これは無視できぬ報告だ。午後の予定はキャンセルしてくれ、それから聖堂騎士のアベルを呼んで欲しい、頼むぞ!」
「ハッ!!」
ザッハール・ニルスは手早く指示を飛ばすと、自らも考えを纏め始める。
北に送った密偵からの報告では魔王の誕生はほぼ間違いない。で、あれば人族の脅威だ、何か手を打たなくては・・・
この話を知る者は未だ少ない筈だが、何かを感じ取ったのか北にある街では治安は悪化の一途をたどっている。それに一部では金持による物資の買い占めも起き始めているという事だ。
王都カナン。北方魔族領からは遠く離れたこの大都市においてもそれはまるで無関係ではない。
高くそびえる尖塔を持つ大聖堂、その一室で、司教・ザッハール・ニルスはしばし沈思黙考し、その勇者が本物だった場合どうするのが最善の手か考え込む。その顔はまるで軍将棋にでも興じている様で、深刻ながらもまるで楽しんでいるようであった。
◇ ◇ ◇ ◇
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「失礼いたします!、手紙にて用件をお知らせしたマイルズと申しますが!」
ペインを伴って大聖堂を訪れたマイルズは、荘厳な建物に恐縮しつつ、出迎えの司祭にそう言付ける。
「ああ、話は聞いているよ。ザッハール司教は君の報告を重要と判断され、午後の予定をすべてキャンセルされて君をお待ちだ、すぐに礼拝堂に向かってくれ」
「ハハッ、承知しました!」
まるで歌劇を見ているよな大袈裟なやり取りに、ペインは不安を募らせる。
(一体なんだってぇんだよ?司教?、嫌な予感しかしねぇ・・・)
聖職者への相談や懺悔に使われるらしいさほど広くない部屋、そこで待っていたのは聖職者と言うよりは大商人と言った方がしっくりくるような、ギラギラした目をした壮年の男だった。
「ようこそ、マイルズ君、そして貴方がペイン・ブラッドかな?」
まるでペインを値踏みするようなその視線に、ペインは何か嫌なものを感じた。
高級そうな衣服に装飾品、首から聖印を下げている所を見るまでも無く、この男がザッハール・ニルス司教なのだろう。
「ああ、俺がペインだが・・・なんだかいきなりこんな所に連れてこられて正直少し混乱している」
「ふむ、だろうな、それはすまなかった。それではマイルズ君の鑑定結果を私が更に詳しく見てみよう、マイルズ君の鑑定ではペイン、君の職業は『勇者』と出たと言う事だがね」
「勇者!?・・・お、俺が!?」
「ああそうだよ、実に興味深い!」
そう言ってザッハールは満面の笑みを浮かべる。それは温かみがあり、包容力のある笑みだ。
ここに相談に来た民衆も、こんな笑顔を向けられたら無条件に彼の事を信用してしまいそうだ。だがペインには恐らく笑顔を作っているのだろうと感じられた。なんでそう思うのかは自分でも分からないのだが・・・
それから数刻、ペインはこの密談にはもってこいの狭い部屋で、ザッハールからの質問に答え、鑑定を受けた。あのよく覚えてない夢を見た寝苦しい夜から、急に勘が鋭くなり、身体能力も向上したのだと。
「ふむ、神から特別なスキルを授かる時に夢でそれを告げられると言うのは聞いた事がある。恐らくそれが神託の夢だったのだろうが、あまりに就寝環境が悪かったせいで覚えていないのかも知れない・・・確かに君の職業は私の鑑定でも『勇者』と出ている」
「マジかよ・・・・この俺が・・・勇者・・・」
勇者と言う職業についてはペインも知っている。だがそれはおとぎ話の様なもので、『剣匠』や『聖堂騎士』のように就職に有利になる様なものではない。
大抵勇者と言うものは、絵本の中で魔王と戦っているものだ。・・・つまり、あまり金になりそうにないイメージしかない。
だが司教ザッハールはそんなペインの思考を読んだように「これから君の特性について色々調べさせてもらえないか? もちろん報酬は十分に用意しよう、それによっては君は人類の救世主になるかもしれない」と。
俺が人類の救世主?何を言っているんだこの男は・・・と最初は思った。
しかしザッハールの提示した報酬は思ったよりも多かったし、「君は人と違う選ばれし人間だ!」と持ち上げられるのも気分が良かった。
結局ペインは報酬につられてザッハールの頼みを引き受ける事にして、明日再び来ると約束して大聖堂を後にする。
大聖堂の広い石段を下りていくペインの後ろ姿を見送るのは司教ザッハール・ニルスと、その腹心を務める司祭エウロペ。
丁寧に頭を下げて勇者を見送る二人に怪しい所など微塵も無い。
しかし頭を上げ、振り返ったその顔には笑顔はなく、二人の司教と司祭は足早に建物の中に消えていった。
__________________つづく
初めての方も久しぶりの方も、ここまで読んで頂き有難うございます。本エピソードは全9話、既に完結まで予約投稿済みです。途中でエタる事はありませんので安心してお読みいただけます。
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