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私が育てたのは駄犬か、それとも忠犬か 〜婚姻を断ったのに麗しの騎士様に捕まって舐められています〜  作者: 日室千種


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余談の騎士団

本日三話同時更新。この前に二話あります。

番外的なお話を二話、追加しました。

これで完結です。



 余談だが。

 男爵家の令嬢は、調査の結果、すべて虚言だったことが明らかになった。ランドリックが子爵として男爵家に手紙で苦情を申し入れ、それで令嬢はすぐさま縁談を用意されたらしい。ジョゼットがランドリックとともに社交界に出るようになってからも、姿を見かけたことはない。







 空翔馬部隊と、地削獣部隊との合同抜き打ち対抗試合は、波乱の展開となった。

 それは、ランドリックが何気なくこぼした一言から。


「騎士団の奴ら、俺が結婚するって言ったらうるさくて。なんで俺の結婚相手にあんなに興味があるんだろう。いろいろしつこく聞かれた」

「それは、お祝いの気持ちからでは?」

「それにしては、一部、真剣な顔でやめとけって言う奴らもいるんだ。見損なったとか言われるのは意味がわからない」

「見損なった? そう言われたの?」


 ランドリックから聞いた限りでは、独身主義を謳っていたわけでもない。見損なったと非難されるのは、確かに不思議だ。


「大体、俺は別に、あいつらに祝ってもらうほど親しいわけでもないよ。俺の推薦した若手が気に食わなくて、反抗してる奴らだしね」


 解せない顔をするランドリックの横で、ジョゼットはゆっくりと紫の目を瞬いた。





 試合当日は、曇り空。

 通常訓練を終えた午後、城外の原野に両部隊が合流し、騎士たちにとっては寝耳に水の試合開始となった。

 部隊別チームの組み合わせは純粋にクジで決める。

 ざわつく騎士たちに、参加者として管理職にある騎士たち、つまり小隊長はもちろん、部隊長、副長、そしてランドリックも参加すると説明された時。上がった野太い歓声は、王城の外まで聞こえた。騎士たちは、憧れの上位騎士と同じ組になれるようにと叫び、膝をついて祈る者までいた。


 大騒ぎの中、ランドリックが引いた棒の先には、色付き紐が三本。

 同じ色の紐の組み合わせを引いた者を探せば、上級騎士へと推薦した若手騎士と、それを快く思わない騎士たちが、互いに距離を空けて立っていた。

 ランドリックは、そこへ悠々と歩み寄り。

「お前たちと一緒か。よろしくな」

 と、顔の横で紐を揺らした。


 制限時間内で、自陣の宝を守り、他陣の宝を最も多く奪ったチームが勝ちだ。

 上級騎士たちはハンデとして、序盤は合戦に参加できない。武器は刃を潰したものだけが許される。

 各チーム、並々ならぬやる気を見せる中、ランドリックのチームは試合序盤で早々に脱落展開となった。


 何しろ騎士たちは、作戦のすり合わせどころか、互いに声もかけない目も合わせない。それでは次々に襲い来る敵から宝を守りきれない。

 チーム内で罵り合いながら、宝を持ち去られかけたその時、ランドリックの待機時間が終わった。


 波乱はここから始まった。


「俺を使え。まず、宝を取り返そう」


 そう言ったランドリックは、一瞬の後には宝を抱えた敵に追いつき、やすやすと取り戻した。

 騎士たちは絶句していたが、若手騎士だけは、ランドリックの俊敏さと戦闘能力をじっと見つめて思案していたが。


「ゼンゲン参謀官、ちょっとだけ強引な策ですが、お願いできますか? まだ、今からでも勝てる気がします」


 何をカッコつけて、と凄む騎士たちに、若手騎士は冷静な顔を向ける。


「皆さんは勝ちたくないですか? せっかく参謀官と同じ組になったのに。俺は、勝ちたい」


 普段言い返すことの少ない相手からの反駁に、騎士たちは顔を見合わせる。

 そこへ、ランドリックが何でもないように、頷いた。


「俺は今一騎士だから、策に従うさ。一緒に勝とうか。多分できると思うよ」


 そこから、彼らは3つのチームの宝を奪い、最多獲得数となって優勝した。

 クジの組み合わせでいえば、もっと強いチームがあったにも関わらず、重量的には劣る空翔馬部隊のチームが勝った。

 これは、確かに大きな波乱だった。


「よくやった!」


 ランドリックが挙げた手に、チームの騎士たちが次々と手を打ち合わせた。

 それから、一人一人が互いに拳を触れ合わせて、健闘を称え合う。

 ランドリックあっての荒っぽい作戦、かつランドリックを活かすために他の騎士も酷使されたので、皆ぼろぼろだ。あちこちに擦り傷と打ち身を作り、薄汚れて、汗まみれ。それでも、最初の険悪な雰囲気はもうなかった。


「いい作戦だった」

「とんでもない、皆さんの動きがとても良かった! 俺、作戦立ててこんなに興奮したのは初めてです! 強い人の強さを引き出すのって、面白いですね!」

「お、おう……」

「俺たちなんて並だろ? 今日はほら、ゼンゲン参謀官が引き上げてくださったから」

「そうだな、あのゼンゲン騎士だぜ。こんな機会なんて凡人の俺等にはそうないからな……。ゼンゲン騎士、最近は現場に出ないからな。もう婚約もしたと聞いて、このまま現場には降りてこないのかと」

「俺たち、あの人に引き上げられてるお前が羨ましかったんだ」


 へへへ、と体の大きな青年たちが俯きがちに鼻の下を擦ったりしている。

 騎士団の青年たちは、根が単純だ。共闘という経験が、彼らの心を柔らかくしていた。


 その横で。

 ランドリックは、すっきりした顔で両肩をぐるりぐるりと回していた。


「ちょっと、物足りないかも」


 実はジョゼットから、問題の騎士たちと一緒に組んでみたらどうかと提案され、クジに細工をした。

 試合開始当初こそ若者たちの様子を観察していたランドリックだったが、提案された作戦に乗ると楽しくなって、すっかり忘れて去ってしまった。

 かつて現役で空を飛び回っていた頃の全力を要求するような、容赦のない作戦に応えることだけを考えると、頭の中が清澄に晴れ渡り、雑音が消え、心地よさに全身が震えた。

 それがもう終わり、というのは、残念すぎる。


 唖然とする若者たちを置いて、ランドリックは跳ねるような足取りで部隊長たちの集団に近寄っていった。


「アルバイン! もう一戦しよう! 次は部隊混ぜこぜで組み合わせだ!」


 再戦。

 目を煌めかせる騎士もいたが、若手の騎士たちはへばっているものが多かったし、上位騎士たちは呆れ顔だ。

 だが結局この日、日付が変わるまでの間に再試合は二回行われた。

 屈託なく、やろうやろうと誘うランドリックを無下にできる者は、ここにはいない騎士総長を含めても、騎士団にはいないのだ。ランドリックに自覚はないが、騎士たちの間でこんなランドリックは、久しぶりだが珍しくはないし、結構可愛がられている。


 おかげで城に帰る体力もなく臨時の野営で夜を明かした騎士たちに、国王がさすがに外聞が悪いと苦言を呈し、それを受ける騎士総長が、うちの騎士たちはほんとに困ったもので、と言いつつ妙に誇らしげで、さらに注意を受けたとか。


 これが波乱の顛末である。


 ランドリック推しの騎士たちが、その後一層推しを深めたのか、それとも騎士たちを薙ぎ倒しながらあまりに楽しそうに笑う様子に引いてしまったのかは、謎のまま。若手イビリはなくなったそうな。




ここまでお付き合いくださってありがとうございました。

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よろしくお願いします。

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