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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

番と言われても。

大事な事は○○が教えてくれた。

作者: 佐藤なつ

合わないと思ったら、すぐお辞めになることをおすすめします。


鐘の音がする。

下校を促すメロディーだ。

反響して聞きづらい。

なんて思いながら、私は貸し出し手続きをして図書室を後にした。

ついつい夢中になってしまった。

本の世界に逃げる事のできる楽しい時間。

また、今度来れる時に。

学校の図書館は、いつでも私を受け入れてくれる素晴らしい場所。


私は読書が好きだ。

色んな本が私に知識を与えてくれる。

その世界に私を連れていってくれる。

本を開けば、私は名探偵になり、怪盗になり、恋する乙女や男子になり、熱血スポーツ少年、少女になる。

ちなみに、今日は武将になった。

北条早雲は最高だった。

素晴らしい。


もちろん誰かになるだけではない。

そんな勿体ないことはしない。


実用書も時々読んでいる。

高校図書に、掃除の仕方や、時短レシピ本があるのは不思議だが大変助かっている。

かの北条早雲も言っていた。

少しでも暇があらば物の本を見、文字のあるものを

なんて。

読んだ本にそんな記述があった気がするがどうだっただろう。

他の武将と混じっているかもしれない。

残念な事に、本に感動はすれど私の記憶力は、まぁまぁポンコツだ。

ただ感動した気持ちだけは残る。

それが快楽物質となって私を読書へと誘うのだ。

残念な私の記憶力はともかく、本を読むことは素晴らしいことだ。

知識は力になる。

たとえポンコツ記憶力でも、繰り返し読めばまぁまぁ身になる。

新しい情報は今の世の流れを見て、何が必要かを知る力になる。

何度か読む間に、新しい情報が古くなるのも一興ではあるが、また、古い知識も、今までの過程を知れて、今後の予測に繋がるだろう。

まぁ、どちらにしろ本を読むのは楽しいこと。

だから、私は図書室や図書館が好きだ。


今日の新聞だって、はたまた百年前の文豪の書だって。

色んな物がある。

本の力を借りて私は時をも遡れる。

現在、現実を、忘れさせてくれる。

それは一時の夢としても。

今、私は、現実に戻るために走っている。

それにしても、北条早雲。

罪作りな男だ。

彼の人生を追うのに夢中になって時間が過ぎるのを忘れてしまった。

本当に急がねばならない。


急いで、我が家の家事をしなくてはならないのだ。

別に家族の誰かが調子が悪いとか言うわけではない。


家族構成は、父・母・私・妹の4人家族だ。

全員健康。

そして、一応、全員血縁関係にある。

なのだが、我が家は普通の家族ではない。

いや、普通の定義は人によって違うと思うのだが、それでも敢えて言おう。

尋常では無いと。


現状、私は姉の立場だが、妹が優遇されている。

私は今、慌てて家に帰って家事をしなくてはならないのだが、妹は一切しなくて良いのだ。妹は家族の中で大事な存在だから。

だから雑用はしなくて良い。

でも、私はしなくてはいけない。

特に大事な存在と言われたことも無いが、代わりに、家族の為に家事を覚えるのは当然だと言われる。


それはどんな理論なのだろう。


良くわからない。

そういう両親も良くわかっていないだろう。


強いて言うなら、既に家のルールがそうなっているからとでも言うしか無いだろうか。

家のルール。

私が物心ついた頃からそうだった。


私は両親に嫌われていた。

平凡な見た目、鈍臭く失敗ばかりな私はどうにも気に触る事をしてしまうみたいで、母に良く怒られ目に見えない所を抓られたりしていた。

妹は何をしても怒られなかった。

上手に立ち回って問題を回避か、私になすりつけてしまう。

その上、妹は、本当に可愛かった。

見た目も、性格も、親が望む子供っていうのを体現していた。


両親は上昇志向の人間で、可愛くて優秀な理想の子供の妹を大事に大事にしていた。

お陰でいつも妹が優先された。

お出かけも妹が優先。

非常時も、妹が病気をすれば手厚く看病するのに、私の時は放置で仕事に行った。

辛うじてレトルトのお粥は置いていってくれたが、熱で朦朧としている手ではレトルトパウチを開けることができなくて結局食べられなかった。

そういうエピソードは沢山ある。


子供の頃の私は、

自分が蔑ろにされるのは、何故なんだろう。

自分が悪い子だから。

自分が何かをしたんだろうか。

悩んだり、泣いたりしていたものだ。


ただ泣いていただけではない。

同じ姉妹でどちらかが優遇されるというのは可笑しい。

私の事も見て欲しい。

そう思って主張した事もあった。

妹は年子で、年が近いから尚更悔しくて、小さな頃の私は心の苦しさのままに叫んで、泣いた。

当然聞き入れられないし、むしろ事態は悪化した。


あの頃の自分に言えるなら言いたい。

原因の全てが自分にあると思い込んで、何とかしようとしてたなんて、無駄な事だよ。

聞く耳をもたない人達に心の底から訴えても聞いてもらえないよ。

と。

だが、しかし、あの頃の自分に言えたとしても、あの頃の自分がすぐ受け入れられたかどうか。

無理だろう。

家族に未練があったからだ。


私が悟れたのは、数年経ってからだ。

そのきっかけも本だった。


ある時、学校図書で物語を読んで、姉妹格差というものを知った。

物語ジャンルとしても結構あるということも。

どの本か忘れたが、

”家族は一番近い他人。

皆、平等にと言うのは難しいのだ。”

そう書いてある一文にストンと何かを納得した。

また、他の本にはこう書いてあった。

”他人を変えるのは難しい。

自分が変わるしか無い。”

と。

納得した。


納得しても、それを受け入れられるのに、また少し時間がかかった。

どこにも、ぶつけられない気持ちを無理矢理に飲み込んで、最後は諦めて、それで、ようやく心の平安が保てるようになったのだ。

飲み込めるようになったら、本当に馬鹿馬鹿しいことばかりだと思うようになった。


思い返せば、あの頃の私、愚かだった。


拗ねたり、嘆いたり、悲劇のヒロインぶったり。

自分なりに藻掻いて、事態を悪化させる。


全く無意味な事、いや相手を喜ばせることをしてた。

何をやっても受け入れられない相手には何もしない方が良い。

反応を返せば喜ばせる。

私が悲しめば、相手に優越感を与えるだけ。


だから、私は感じないようにした。

何も何も感じない。

私は他人に何をされようとも、何も感じないのだ。

血の繋がっているだけの他人に住処を与えもらい、更には食事まで恵んで頂ける。

ありがたいと思って生きていく事にした。

それに、生きるのには何とか足りている。


他の国では、食べる事も出来ず、親に売られる事もあるらしい。

親の借金の形とか。


理由は様々。

奴隷。

幼いまま嫁ぐ。

等、形態も様々。


私は、そんな状況にない。

それだけで、ありがたい事なのだ。

そう自分に言い聞かせた。

言い聞かせ続けている内に、将来の自分の夢が固まっていった。


困っている人を助けられる人に。

海外に出て、そう言う組織に所属して、活動に従事したい。

国を出れば、家族からの干渉もない。

そんな夢を見るようになった。


調べてみれば色々な職種で募集が出ている。

これも図書館で調べた。

図書館様々である。


私の思考は、自由である。

想像の翼はためかせ、想像の中の私は、私の思うままに生きている。

少しでも想像の自分に近づけられるように、今すぐは無理でもいつか叶えられるように。


どう行動すべきか。

私のポンコツの頭でも考えれば何とか出来るかもしれない。

ただ、今、確かな事は。

今は無理だ。

私は未成年で、何をするにも親の許可がいる。

今、私は、耐える時だと思った。

とにかく両親に文句を言われないよう、妹に攻撃されないように平穏に毎日を過ごす。

それで大人になるのまでやり過ごすのだ。


私は家では空気になる事を目指した。

存在感を消し、夜な夜な靴屋で靴を完成させるおとぎ話の生き物のように、ひっそりと家事をこなし、部屋に立てこもる。

気分は忍。

忍びになりきる為に、忍者関連の本を読みあさった。

あの時の図書カードには見事に忍び関連の本が並んだ。

ちなみに最近は武将ブーム中なので、図書カードには武将関連のワードが並んでいる。

今一押しは武田信玄。

心の中では風林火山を唱えている。

それにしても良いよね。

武将。

忍びは生い立ちが不明な事が多いけど、武将は生涯にわたって本になっていることが多い。幼少の頃から耐え忍び、才能を開花していく彼らの人生は私に勇気を与えてくれる。

含蓄有る言葉は、生きる指針を与えてくれている。


風林火山。

シンプルな四文字に全てが込められている。

他にも続くらしいけど、この四文字構成が格好良い。

何て素晴らしいのだ。

私の心を鷲づかみだ。

私は、そのままに行動することを目指してみた。


風のように素早く動き家事をこなし、林のように静かに家族のヒステリーに構え、山のようにどっしりと部屋に構えている。

そんなイメージで、毎日を過ごしてみた。

鈍臭いので実際は上手くいかないことが多いけど、気持ちは風林火山で動いた。

ちなみに、火の部分は、悲しいかな、家族に怒りの燃料を与えてしまうイメージしかわかないので例えられない。

家に火をつけるとかそういう妄想は犯罪だからしない。

しないようにしている。

放火は重罪である。

脱線してしまったが、武将達の日常を想像すれば、私の悩みなど些少な物なのだと、そう、思える。

・・・だろう。

多分、そんな気がする。


それにしても、ここまで来るのが本当に長かった。

やっと悟る事が出来たのだ。

自分の目標の為に今は伏せるべき時。

だから、私は、自分を捨てて、やれることをやる。

何を言われても聞く。

理不尽に当たられても謝罪する。


私にはプライドは無い。

いや、無くなったのだろうな。

口先だけのお礼、謝罪。

何でも言える。


ありがとう。

感謝しています。

すみません。

申し訳ありません。

以後気をつけます。


幾つかのパターンに合わせて謝罪、御礼する。

心の籠もっていない言葉に満足する人達。

それで、面倒毎は去るのだ。

幾らでも言える。

そうやって私は耐える。

私が願う事はただ一つ。


災い事から離れて、出て行く力を身につける。

この家から独り立ちする為に、口先だけの言葉を幾らでも言おう。

そう思って生きてきた。


なのに、運命と言うか、世の中は世知辛い物だ。

私の妹には幸運が。

私には不運が付きまとっているのだろう。


私は、今、自宅でお手伝いと言う名の家政婦業に従事している。

通常営業ならば走って帰れば家事は何とか間に合うはずだった。

だが、今日は無理だった。

何と、今日はゲストが来ていたのだ。

ぶっちゃけると妹の婚約者だ。

何か、今更こじつけ感があるが、この世界には妖”あやかし”なる選ばれし者がいて人離れした能力で上流社会を牛耳っているらしい。

妖と言うだけあって、特殊能力があるのだそうだ。

何それ。

と、思うがまぁ、一般人の私には伺いしれないことだ。

妖関連の本と言うのは余り見かけなかった。

だから、私は知らなかった。


どの時代でも、一般人は知れない事が沢山ある。

その中で生きていくしかないのだから。

通常なら交わるはずの無い、一般家庭と上流家庭。

なのに、うちの両親はここでも尋常じゃなかった。

ウチの娘(妹)超可愛い。

勉強も出来る。

玉の輿乗れるんじゃ無いか。

みたいなお目出度い思考になったらしい。

あぁ、言葉が悪い。

言い直そう。

両親は可愛い妹にその人達と縁付けさせたくて超有名私立校に行かせた。

それで首尾良く見初められたらしい。

元々、私の時にそういう考えだったらしいが、私があんまりにも鈍臭くて諦めたらしい。

次に産まれた妹に、全ての期待を注いで、それを受けて妹も、もの凄い努力してた。


それでも、同じ考えの人と言うのは何人のいたらしく、蹴散らし合う仁義なき争いがあったようだ。

妹が得意げに両親に報告していたので一部だが知っている。

蹴散らした事を両親は褒めていた。

私はドン引いた。

これで我が家も上流社会の仲間入り。

みたいに三人が胸を張っている。

そりゃ私は私は嫌われるはずだ。

見た目も本当に平凡。

能力も低い。

運動も、勉強も努力してもソコソコ。

上昇志向、玉の輿を狙う家庭では浮いて当然だった訳だ。

おまけに妖の婚約者 柳水主水は、まぁまぁ高位の妖らしく、平凡な私が恥ずかしいと両親と妹は私を隠そうとする。

なのに、柳水様は、一般家庭で育った妹の事を気にして、身分違いの庶民のお家に何度も訪ねていらっしゃる。

多分、資金援助もしているっぽい。

スポンサーが来たら全力おもてなしをしなくてはならない。

とばかりに、我が家で家庭料理を振る舞う羽目になる。

こういうアットホームな雰囲気で貴方の愛おしい相手。

番というらしいが、あなたの愛おしい番は素朴に暮らしていますよ。

みたいなアピールらしい。

作られた素朴なアットホーム感を演出しなくてはならないので、私は、柳水様がいらっしゃるときは必死になって家庭料理を作るお手伝いをしなくてはならないのだ。

面倒な下ごしらえは私のお仕事。

野菜を洗い、皮を剥き、汚れ物は洗う。

大忙しだ。

私にとっては大変迷惑な日になる。

通常の家事に付け加えておもてなし家事までしなくてはならないのだから。


そんな日に、私がギリギリに帰ってしまったので、おもてなしが出来ない。

母親と言う人がお怒りになって私を責めてきました。

やむなく、出前なんか取った訳だが、私の分は無いのですよ。

いや、大丈夫。

こういう扱い、ドアマットって言うんでしょう。

私、本で読んで知っている。


体験した者として言おう。

正直、もう何も思わない。

強がりではない。

思うレベルを超えると何とも思わないのだ。

食べ物が無い。

とかなら、もっと思うかも知れないが一応食べる物はある。

居間では私以外の、この家の住人が家族団らんをしている。

私は、一人パンを囓る。

食パンにハムを一枚、マヨネーズをかけて半分に折っただけのなんちゃってサンドイッチ。立ったままかぶりつく。

それでも私にはご馳走だ。

ちなみに、食事の選択肢が無い訳でもない。

カップ麺を食べようかと思ったが、途中で呼び出されて放置すると麺が伸びてしまう。

どうしてもカップ麺が食べたければラーメンでは無く焼きそばがおすすめだ。

伸びてもダメージが少ない。

作っている途中で呼ばれると大惨事になることはかわりないのだが。

大惨事の確立が下がると言うだけで私は焼きそば推しをしている。

まぁ、どちらにしろ、これは私の体験による主観なので他の人は違うかもしれないとだけは付け足しておきたい。

また脱線してしまった。

どうも嫌な事を考えたくなくて他の事を考えてしまうのだ。

でも現実は変わらない。

仕方なく、パンを食べながら、この後の行程を頭で描く。

出前を取ったとは言え、お茶菓子や飲み物くらいは出すわけで、シンクに溜まった食器がある。

これを洗って、明日の朝食の準備をして、皆が風呂に入ったら残り湯を貰って、風呂掃除をして・・・。

結構やることがあるな。

早く柳水様が帰ってくれたら良いのだが。

と、思っていたらまさかの柳水様がキッチンに乱入。

そして、私に有り難いお言葉を賜った。

内容は、

私がフラフラ遊んでいた為に、大事な家族の予定が狂ってしまったと聞いた。

姉として、この家の一員として節度有る行動をするように。

妹に迷惑をかけないように。

と、言うことでした。

何と言うことでしょう!


どうせ妹が自分に都合の良いように言って、愛しい恋人の言うことを鵜呑みにしたのだろう。

でも、私は腹が立たない。

「以後、気をつけます。」

脳内返答例集から適当に言葉を返した。


『迷惑をかける。』

ってどういうことやねん!

自分の中のエセ関西人がツッコミを入れて、それを冷静なもう一人の私が、

『妹側からすると、そういう考えなのだろう。

そう信じているのだから仕方がない。』

なんてなだめている。

脳内で二人は楽しく話をしている。

その様を私は楽しんだ。

私が一人脳内で遊んでいる間に話し終えた柳水様。

「家族を大事にするように。」

そう締めくくって去っていく。

妖とは家族を大事にする生き物らしく、私は良く、家族を大事にしろと窘められるのだ。


でもね。相手が家族って思っていないんですけどね。

そういう場合ってどうしたら良いのでしょうね。

せんせー教えて下さい。

そう聞いてしまいたいけど、面倒な事になるので聞きません。

私はそんな事にかける労力は無い。

それよりも、早く、ここから出たい!


星に願掛けする少女のように、手を組んで祈ってみた。

まぁ、叶わないって知っていますが。

ごっこ遊びは楽しいのでやってみました。

そうしたら、何と・・、お星様願いを叶えてくれた!

いや、そう思うくらいの驚きの出来事が起きました。


何と!妹!結婚するらしいです。

何をとち狂ったのか学生結婚するんですって。

お二人が18才になった時に。

なんということでしょう。

まだちょっと先ですが、妹が家を出たら私の敵が一人いなくなる訳です。

やった!お星様ありがとう。

物語の主人公ごっこが初めて叶った。

なんて思っていたら、妹が嫁に行ったら両親も柳水様のお家にご厄介になるんですって!

柳水様のお屋敷の敷地内に住まいを貰えるらしい。

妹がお強請りしたんですって。

何それ。

そんな恥知らずな事出来るの?

と、思いましたけど。

同時に、まさか私は今度其処で下働き?

と焦りましたら、私は一人暮らししたがっていると、柳水様に言ったらしくってアパートを借りてくれました。

家族の一員の夢を叶えてあげようと言うことらしい。

初めて柳水様に感謝。


話は進んで、私の高校卒業と同時に家を出ることになりました。

婚姻の為の道具を置く場所無いから、私の部屋を物置にしたいんですって。

はい。どうぞどうぞ。

って思いました。

妹が

「物置にするから早く荷物纏めてね。」

なんて言ってくるのを真顔で聞きました。

喜んではダメと言うことは私でも何となくわかります。

真顔で、心の中では踊り狂っていました。

凄い!

凄い幸運がやってきた!!

心の中の私が踊り狂う。

自分に、そんな感情があったなんて驚きました。

もの凄く嬉しくって、嬉しくって。

でも、与えられたのはおんぼろアパート。

今時四畳半で風呂無しって凄い物件だったけど、もう全然良かった。

多分、あいつら、ゴホン。ご両親は準備金の上前はねたんだと思う。

でも、開放感半端なくってどうでも良かった。

実家から遠いって言うのも最高。


恐らく近場で探したんだろうけど、こういう物件が無かったんでしょうね。

それでも、家事手伝いに実家に通えって言われたけど、遠いからって理由つけてあんまり行かないで済むようになって本当に私にとっては最高の物件だった。

高校卒業後は大学は行かせて貰えなかったので就職しました。

妹は柳水様と楽しいキャンパスライフ送るんだっていって、嫁入り準備と同時にお受験の準備してました。

私は、地道にお金を貯めて、いつか大学に行こうと思って就職後も高校時代の教科書やノートを見返したりしてた。

幸運に狂喜乱舞したせいか、感情がちょっと出てしまって、妹の事羨ましいって思うのが止められなくって、家族からもっと離れたくなってしまった。

職場に、『何でもやります。恥ずかしいけど、家族に冷遇されていましたから何処かに逃げたい。』って内情を初めて訴えて転勤希望を出してみた。

無理だろうなって思っていたら、何とそれが通って。

もの凄い僻地のしかもアシスタント待遇。

でも、私にとってはもの凄い幸運の連鎖にしか感じられなかった。

しかも、誂えたように結婚式の翌週とかに僻地に飛べるって聞いて指折り数えてしまいました。

早くこないかな結婚式って数えていた。

僻地でもネットは繋がっているし、郵便物は届くから、そこで、通信制の大学とか何か資格の勉強して、そこからスキルアップして・・。

なんて未来を思いながら、結婚式前の準備にこき使われて、耐えて耐えて。

やってきました結婚式の日。

一応、姉なので出席はしなくてはいけないらしい。

妹はもちろん両親は誂えたお召し物でしたけど、私はレンタルでした。

別にいらんけど、晴れ着なんて。

という強がりみたいな事を思いながらも、それを陵駕する浮かれた気持ち。


たまらない。

心からの笑みを浮かべてお客様にご挨拶して、また下働きしまくりました。

式と披露宴は滞りなく済んで、二次会と三次会とどんどん場が砕けていっても私は下働き。妹の友人達も、私の事使いまくりでしたよ。


妹と柳水様のご学友達の為にお酌をしたり、グラスを倒したら片付けたり、酔っ払った人の介抱したり。

店員ばりに働きました。

酔っ払った妹に本音バリバリのイヤミ言われてもニコニコしながら聞き流しました。

だって、今日で終わりだからね。

最後くらいお姉ちゃんらしく頑張るよ。


なんて思いながら精一杯働いて、やっと三次会が終わるって時に、厄介なお客が来た。


何か、柳水様のご友人のお兄様で。

何か、柳水様よりも格上の妖一族なんですって。

何か、海外から帰ってくる便が遅れちゃってギリギリになっちゃったんですって。

へー。皆がヘコヘコしている。

と、思いながら後ろの方で見てたらバッチィィンと目が合った。

で、今。私。手掴まれている。

いや、手、掴まれからのハグされている。


三次会・主役・妹です・・私じゃ無い。

これしか頭に浮かばなかった。

でも、お兄さん、周りが見えてない。

妹の凄い顔も見えてない。

それで言うに事欠いて

「俺の・・番だ!運命の!!」

なんて言う。


いや、場が盛り上がりましたよ。

皆、酔っ払っていますからね。

ヒュー。

みたいな口笛初めて現物見ましたよ。


私、青ざめましたよ。

むしろ吐きそうになった。


そうしたら、お兄さんったら。

「大丈夫か?」

なんて言って挨拶もそこそこに私の手を引っ張って会場を出てしまう。

「いや、ちょっと。待って。私、会場、後片付けがあります。」

「何故?君が?」

「いや、私。姉なんで。」

私、片言。

言葉が出てこない。

「そんな事!君は何もしなくって良い!!」

お兄さんは叫んで、会場に戻ると柳水様に

「私の番に後片付けをさせるな!人を寄越す!!」

と、また叫んで私の手をグイグイ引っ張って車に乗せられてしまったのですよ。

あぁ、拉致されていました。

それでお兄さん何処かに電話して、そのまま服屋さんに連れていかれた

何ていうの?

お高い感じの服を扱っている所。

お兄さんは、

「私の大事な番がそんなくたびれたドレスを着ているなんて。買ったらそれは処分しよう。」

「あ、あの~。私、この服、レンタル、返さないといけない。」

片言しか出てこない。

でも、何とか言った。

両親は、ご丁寧な事に式の着物をレンタルしてくれて、二次会用にちょっとくたびれたドレスをもレンタルしてくれていたのだ。

「レンタル????!!」

お兄さんは驚いて口をぱっかり開けたまま止まっていた。

言い忘れたが、お兄さんは美形だ。

本当に綺麗な人だ。

驚いた顔も綺麗だった。

「なんて事だ。結婚式にレンタルなんて。」

「いや、合理的ですから。」

一度しか着ない服。

買ってどうする。

邪魔になる。

その論理で言うとお兄さんが私に買ってくれようとする新しい服も邪魔になるからいらない。

本当にいらない。

店、ほとんど締まっていて無理矢理開けさせたのも辛かった。

ごめんなさい店員さん。


いらないって言う服を何でか押しつけられて、断り続ける方が時間がかかるって思ってやむなく受け取って、要らないっていうのに、家まで送り届けられて。

ボロアパートの前に高級車。

素敵な絵面ですよ。

しかも、お兄さんまた口ぱっかーん開けてた。

今時珍しい趣のレトロな佇まいですからね。。

二階建て鉄骨。

階段外付け。

階段、昇ると全世帯に帰ってきたことがカンカン伝わる素敵な設計となっています。

築ウン十年。

今となっては探すのが難しい程のレア物件です。


ぱっかーん開けているウチに、

「あ、どうも。ありがとございました。」

と、言って横を通って、階段を上ろうとしました。

カンカン。と

二歩ほど昇った所で止められました。

また手引っ張られています。

「こっ!こんな所に住まわせられない!!」

いや、今、現在進行形で住んでますけど。

居住者少ないけど、隣の隣にも入居してますけど。

全く失礼な。

と、思ったのと同時に誰かが壁をドンと叩く音がした。

このアパートでは壁ドンと言えば不満を表す時の表現だ。

うるせぇぞ!

と、壁に拳を当てて周りに知らしめるのだ。

「静かにして下さい。声が響くのです。」

私は声を潜めた。

「あっ・・すまない。」

お兄さんは私に謝ってきた。

その後ろで運転手さんが凄い顔して見てる。

多分、お兄さん謝った事とかなさそう。

まぁ、私には関係ないけど。

「しかし、こんなセキュリティの無い場所に私の番が・・・。」

番、番、うるさいな。

としか思えない。

しかし、きっと彼はここでは引かないのだろう。

こういう時はどうしたら良いのだろう。

私のポンコツ頭を総動員してみる。

こういう時、物語のヒロインならどうするのだろうか。

あまりその手のジャンルを読まなかったからわからないな。

取りあえず、しおらしくしてみようか。

「私、ここで暮らすのが好きなんです。」

「そんな事ないはずだ!」

あ。全然ダメだった。

そもそも私の演技力では棒読みになってしまうから全然ダメだったのだろう。

お兄さんも、『誰かにそう言わされているのか。いるんだな!』なんて言っている。

もう、ダメだ。

しかも興奮してまくし立て始めてしまった。

そうすると数少ない住民から、壁ドンが数発、発射された。

あぁ、私、ここにも住めない。

あ、でも来週から僻地に飛ぶから良いか。

意識を飛ばしていると、お兄さんは強引に私の手を掴んで引っ張って、車に戻されて、それでお兄さんの家に連れて行かれてしまった。


凄い豪邸だった。

そうじゃないかな。

なんて思ったけどね。

想像以上の豪邸だった。

深夜のご帰還だったのですが、私に素敵なお部屋が宛がわれて、温かいお風呂に入らせてもらって、ふかふかの布団で寝て。

逆に寝付けなかった。

固い寝具が懐かしい。


寝不足で迎えた翌朝。

現在地がわからないので、仕事に行きたくても行けない。

手元にあるのは、昨日押しつけられた洒落た服のみ。

これでは出社が出来ない。

一応、僻地出向準備期間なので、準備の為のお休みは貰える。

妹の結婚式翌日って事もあって、上司はお休みにしたらとも言ってくれていた。

でも、私は仕事に行きたかった。

大した仕事してなかったけど、引き継ぎ資料作りとか私物整理とか、とにかくやりたかった。

どうしようかって思ったらお手伝いさんらしき人がやってきて、昨日買ったのと違う服渡されて此方へどうぞって言って案内されて辿り着いたのが食堂。


立派な食卓に、知らん人が勢揃い。

お兄さんが

おはよう。

って挨拶してくれてから集まって居る人を紹介してくれた。

お父様、お母様、妹・・・。

「私の番だ!」

なんてお兄さん紹介してくれた訳だけど、それで皆、正体も知れない私に

「まぁ!」

なんて言って凄い友好的なムードになった。

恐ろしい人達だな。

「番。」

って言ったら全てが解決するらしい。

昨日、ろくすっぽ食べずに働いていたのでお腹はすいていたから食べながらお兄さんやお兄さんの家族が話すのを見ていた。

そうしたら、一族が集められている朝食の席でお兄さんが私に、

「仕事にはもう行かなくて良いよ。あんな仕事、君にさせられない。」

と、言い出した。

もう、何だか良くわかりません。

その後、とうとうとお兄さんは語るのです。

仕事は退職手続きをした。

家は、退去手続きをした。

君の家族がしてきた、君への無礼・冷遇については償いをさせよう。

どやぁ。

と、語ってくる。


私は、ポロリと

「それ、いつ私が頼みました?」

と、心のままに言葉を溢してしまった。


シーン。

と、場が静まりかえった。

あぁ、やってしまったな。

と、思う。

最近、実家から離れてた事。

来週には開放されると油断してたこと。

私の感情は大分復活してしまったらしい。

感情と言うより、無駄口を叩くようになったのか。


「失礼しました。折角して頂いたのに。私はこれで失礼します。」

食事中だが、もう無礼はしてしまっている。

これ以上無礼を重ねても問題ないだろう。

私はここでは異分子。

お腹がすいていても、この豪華な食事は私には合わなかった。

この家族団欒の空気も。


「ま・・まってくれ。君は私の大事な・・。」

お兄さんが言う。

正直になった私の口は止まらない。

「番って、良くわからない理由で拘束されるのは怖いです。」

「はっ・・?」

空気が固まった。

妖の世界では家族が大事なもので、とりわけ番は至上の存在らしいってのは私でも知っている。

何よりも大事な愛おしい存在。

でも、私は、そういうのがわからない。

と、いうか苦手だ。

散々見せつけられてきたから。

妹と柳水様と、両親に。


どうぞどうぞ。

やっとあなたの番だよ。

なんて言われても私には嫌悪感しかない。

固まっている空気の間に私は動いた。

部屋を出て、割り当てられて部屋に向かい、バッグを手にした。

タクシーでも拾えたら良いな。

出費は痛いけど仕方ない。

なんて思っていたら、走って私を追いかけてくる誰か。

「待ちなさいよ!あなたはどうしてお兄様を拒絶するの!?あんなに素敵なお兄様を!」

凄い勢いでお兄様推しをしてくる。

お兄様は優秀で、お綺麗で、仕事も出来て。

もの凄い褒めまくっている。


そーですか。

しか感想は無い。

強いて言うなら、

「素敵なお兄様で良かったですね。」

くらいだろうか。

「何が気に入らないのよ!完璧でしょう?!お兄様は、あなたよりも綺麗な人達に求婚されているのよ。」

妹さんは、そう言ってから私の平凡さを詰ってきた。

自慢の兄が連れてきた番が私みたいな平凡でがっかりしてたんだって。

なのに、あんな歓迎ムード出せたんだ。

凄いね。

そう言えば、昨日の結婚式の二次会でもツーンってしてたな。

思い出した。

私もあなたと家族になるのは無理です。

だから、

「じゃあ、その人とご結婚なされば宜しいのでは?あなたが気に入った人を薦めれば良い。」

それで解決じゃないですか。

そう思ったのに更に怒ってくる。

どうしろっていうのでしょう。

何がそんなに気に入らないのか。

最高の妖に番と言われている栄誉を感じないのか。


色々言ってくる。

これは、腹を割って言わないといけないのか。

あんまりハッキリ言うのは苦手なんだけど。

むしろ、今まで私の意見は通ったことが無いので上手く言えるか自信が無い。

でも、今、頑張らないといけないのか。

既に辛い。

もたもたしてたからお兄さんがやってきた。

後ろからお兄さんのご両親もついてきた。

廊下で立ち話。

辛い。

でも、頑張る。

頑張るしかない。

ちゃんと腹を割って話さねば相手は納得しないだろう。


「もう一度、言います。私。番って良くわからないのです。そして、番に選ばれた栄誉って言うのもわかりません。正直言うと、まるで買ってない宝くじを当選したという迷惑メールが来たみたいな気持ちです。詐欺怖い。」

お兄さん、またパッカーンと口開けてる。

妹さんもご両親も似た顔してる。

その後ろに控えているお手伝いさん達も口開けている。

「私、この通り、平凡です。見た目も平凡。綺麗なお兄さんと釣り合いません。」

「お兄さんだなんて他人行儀な事言わないでくれ、私は・・。」

「あ、自己紹介結構です。覚えない方が良いと思うので。」

私は遮りました。

「住む世界が違うから接触しない方が良いです。」

「そんな事!」

また口を挟もうとするから止めます。

「あなたはお金持ちなんでしょう。優秀なんでしょう。でも私は贅沢を望んでおりません。身の丈にあった生活というのを望んでいます。私の事調べたみたいなので言いますが、私の両親は妹を玉の輿に乗せる為にとっても無理しました。妹もとっても努力して、本当に血を滲ませる努力してセレブ私立校に通ってました。そういう無理っていうの直に見ているので私は、なんていうか・・・嫌なんですよね。上流階級的な生活が。私にはそんな努力出来ません。後ですね、お兄さんは綺麗すぎて隣に立つのは辛いです。」

「そんなっ!」

また手を挙げて止める。

「私、自分の事良くわかっているんで良いです。それでですね。お兄さんの事、別次元の生き物だな~としか思えないのですよ。綺麗だなーって感心します。でもそれだけです。

見てて楽しいけど、それだけです。」

淡々と私は喋り続けます。

「お兄さんはきっと偉い人なんでしょう。あなたの番と言う人はきっと大事にされるんでしょう。皆に。でも、偉いのはあなたであって、私の功績ではありません。もし私がそんな風に大事にされたら、きっと居たたまれない気持ちになると思います。

だって私、何も自分で功績なんてあげてないし、人に敬われる何かも持っていないんですから。」

「私の番であること。それでもう充分なんだ。」

私の言葉の隙間に上手に挟み込んできた。

凄いな、間に入れるなんて。

思わず有能さに感動してしまう。

だけど、私は最後まで言い切った。

「それが怖いんです。ツガイなんて、目に見えない、何の保証も無い。なんて言うんですが、心にビビッときたみたいなのを信じられるほど、私は純情じゃありません。

そんな人に一生を捧げるなんて事はとうてい恐ろしくてできません。

もし、何かをして下さると言うのなら、そっとしておいてもらえませんか。

私は、私の力でようやく生きていけると思った所なんです。

庶民らしく、ちまちま貯金して、何とか生活を整えて、私は私の足で立つ為に生きていこうとしているんです。もし、私を哀れだと思って下さるなら、そっとしておいてください。」

「そんな、無理だ。そんな可哀相な目にあってきた君を放置するなんて。」

呻くような言葉。

「えぇ、確かに可哀相でしたよ。助けてもらいたいって思った事もありました。

でも、もうその時期は過ぎたのです。もう、とっくの昔に過ぎたんですよ。」

遅いんだよ~。

っていう私のにべもない言葉にお兄さんは崩れ落ちるように座り込んだ。

妹さんは「お兄ちゃん。可哀相!」って悲鳴混じりに言っている。

でも私は何も思わない。

頑張って言い切った自分に感動しているくらいだ。

私の信念に基づいてちゃんと主張できた。

嬉しい。

人生って時期があるのよね。

攻める時、守る時ってあるのよね。

それを誤ると身の破滅を招いちゃうのよね。

戦乱の時期なら一族郎党、領民も纏めて破滅なのよね。

その為に、自分を見つめ、時期を見すえる事が必要なの。

時には情など踏みにじり、何が自分の人生に大事なのか、取捨選択して生きていかなくてはならない。

かくも過酷な戦国時代。

それに比べたら、全然平気。

そう思って、私は、現代の私の困難を掻い潜って生きてきた。

そして、これからも生きていくつもりだ。

いつだって心に武将が居れば怖いことはない。


だって、今までもそうだったから。


大事な事は、そう本が、武将が教えてくれたのだから。





++++++++++


この話。

ずっと眠っていた。


筋は一緒。

姉妹格差。

姉、努力する。

高位妖に見初められる。

拒否する。


それだけ。


筋が一緒なのは、元は一つの話だったから。


脱線して雰囲気変わった部分を切り取ったのをレスキュー。


もう一つくらい同じ筋で書けそうな位のこっています。


皆様の退屈しのぎになったら、嬉しいです。


もし、感想を書いてあげようと思った。奇特な方がいらっしゃったら、大変申し訳ありません。

現在、感想をいただいても全く追いつかない状況になっております。

返信ができないかもしれません。


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