ランスロット
世界は最初からつまらない、クソだ。
王国の第三王子として生を受けた俺は、幼い頃、そう信じていた。
剣神の加護?
王宮の星見たちは、俺の中にそれを見たらしい。
あいつらは、星なんて見ていない、興味があるのは、王の顔色、そして、己の地位と立場だ。
そんな奴らが俺の中に何が見え、何を理解した?
家中の者たちは、俺が、どんなわがままをしても、叱ろうとはしないない。それに、兄上たちにも、避けられていた。
いつも、一人。
俺の名前は、ランスロット、世界は最初からつまらないと思っていたクズだ。
そんな俺の物語は、この一言から動く。
「辺境伯のご令嬢を、祝いに行ってこい」
王は、俺に命じた。
兄上たちではなく、俺なのは、剣神の加護を辺境伯に見せびらかしたいからだ。ひねくれたガキだった俺は、直感で知った。
王国の一部であって、王の支配が及ばない場所。そこを王国最大の軍事力を率いて、支配をしているのが辺境伯だ。
全て壊し、それを成す、良い機会。
めちゃくちゃにしてやる。
辺境伯の城の中庭、そこには、両親に可愛いがられている女の子がいた。
嫌がらせしよう。どうせ、誰も叱りはしまい。
女の子をカエルで驚かす。
きゃーーっと悲鳴をあげる女の子、そして、父親の辺境伯は激怒した。
「貴様! 娘を泣かしおって、王国とは戦争じゃあ!」
おお、良い度胸だ、親父殿!
「望むところだ!」
ドーンと言い返す。
王国を出るとき、辺境伯を怒らせるなと注意をされていた。戦争したら国が割れる、めちゃくちゃになってしまう。辺境伯の実力は計り知れない。
怒号はやがて辺境伯の家臣たちにも広がっていた。
こんな世界は大嫌いだ。めちゃくちゃになって終わってしまえ!
でも、女の子は泣きながら戦争を止めた。
「戦争はやめて! 喧嘩もやめて!」
つまらない、当たり前のセリフ。
それは、彼女の父親に向けて願うべき言葉。
彼女はなぜだろう……。
最初は父親へ、それからはずっと、俺を見ていた。
実力も何もない、王子という地位と剣神の加護というあいまいしかない俺にだ。
彼女は力のない俺に何を望む?
王国が、人質として辺境伯に俺の身を預けることで、辺境伯は手打ちとした。
それからの辺境伯は、俺を厳しく叱り、そして稽古をつける。
初めてクラリスがタオルを渡してくれた日のことは忘れない。
そして、あの言葉が俺を変えた。
「強くなりたい」
その時、彼女は泣いていた。
大人ですら持てない練習用の剣を、彼女は一瞬とはいえ浮かせて見せた。加護もなにもない、小さな女の子が、だ。
幸せな境遇、優しい両親、王国最強の軍隊ですら、彼女の味方だ。
強さがいらぬ彼女が強さを望む。
泣きながら祈るように彼女は言った言葉。
「強くなりたい」
ああ、俺もそうありたいと強く思う。
それ以来、稽古中、彼女の姿を見ることはない。
会話すらなく、避けられているようだ。
だから、いろいろな虫を捕まえてはクラリスに持って行く。
いつも、彼女は部屋で本を読んでいた。
そこに、バッタ、カマキリ、蝉に蝶、とにかく一杯を持っていく。その時は黙って俺を見てくれる。
八歳ぐらいになると、扉に鍵がつく。
でも、無駄だ。窓から入れば良い。
その頃は、彼女も虫には飽きていたので、トカゲやイモリ、たまに虫を見せてやる。口数は少ないが表情が面白い。見ていて飽きない奴……。
十歳になった。
最近、魔法の言葉を知った。
彼女に「ぽっちゃり」と言うと会話が出来るのだ!
さて、ぽっちゃりクラリスは、今日も部屋にいるかな?