一人と一人
「精霊は、その生き様に夢をみる」
マーリン先生のことば。
「精霊契約で魔力は奪われない。彼らは、気に入れば力をくれる。だから、あなたは、思うがまま生きて、精一杯、この子を魅了しなさい」
とも言った。
いつだって、思うがままに生きている。
だから、今、ここにいる。
円形闘技場、観客の視線はここに集まる。
一回戦、最終試合を満員の観客は、総立ちで歓迎した。
白を基調とした騎士服。あたしの魔力と相性のいい、マーリン先生のおすすめの色。デザインも、動きやすさを重視した結果、スカート丈が短い。肌の露出が少し多い気がするけど、そこは、「がまん、がまん、これも戦術よ」と先生は言ってた。
なんの戦術なのよっっ!
先生いわく、「男の子は見せパンでも興奮する」、らしい……。それって剣技と全然、関係ないじゃない。見せパンでも、恥ずかしいもんは、恥ずかしいのっ!
「あのあの、お嬢さま、お似合いです」
メアリーちゃんがほめてくれる。セバス爺もそう言ってくれた。観客席を見るとマーリン先生が親指を立ててサムズアップ。
係の人が、あたしを呼ぶ。
出番だ!
両ほほをパーンと叩く、セバス爺に「行ってこい!」と背中を叩いてくれる。
気合い入りました。そりゃもう、マックス全開です! さあ、いきまっせ!
観客の視線や雑音は意外に気にならない。体に力がみなぎる。溢れた魔力が、輝く粒子となり全身を覆っていくのがわかる。
ここは、もう闘技台の上。
「あれが、噂の『氷の姫君』……」
ふいに、観客の声が聞こえてしまう。
嫌いな呼び名……、だって、すごく冷たい女みたいじゃん。それに、そのせいで……。
腰に吊るした『六花』の持ち手を触る。これを想うと、それでもいい。あの日からの疎遠も、この一戦で、何かが変わる。
落ち着いて、冷静に、そして、大きく息を吸った。
だめ……、胸の鼓動が高まる。
早く、動きたい!
大歓声!
闘技台が震えたように感じた。
人気者の登場ね。
あたしにとっては、世界一無愛想で、不器用な男の子。
それでも、世界を救うのだから、こんな歓声でも、まだまだ足りないわ。あたしが、全力で他力本願をする相手。そして、あたしの運命をきっと変えてくれる人。
最年少ドラゴンスレイヤー、ランスロット第三王子。
「久しぶりね。元気だった?」
「僕は、いつもと変わらない。君には、ここで、負けてもらう」
僕? 君?
「随分とお上品なのね。似合ってないわよ」
「僕にも、立場がある」
ほんとっ、かわいくないっ!
「戦意喪失、気絶、場外は負けだ」
審判が説明をする。
「この一戦、追加のルールがある。攻撃にも魔法の使用を認める」
えっ!
びっくりして声を出してしまった。
審判とランスロットがあたしを見る。
「これは、殿下のご意向です」
そういうこと……。
「君は、剣より魔法が得意だろ? 僕は、それを超える」
なにそれ、あたしは、そびえ立つ山じゃないのよ!
審判が、「はじめ!」と開始の号令をした。
キッとにらむと、彼は距離をとった。
言いたいことは、沢山あるのよっ!
「君は、国へ帰るべきだ」
「その、口調はやめなさい」
まったく、誰の影響かしら?
「言ったはずだ、立場があると」
そういう構えをするのね。
試技でみた素振りの構え……、あたしを試す気。
『六花』を抜く。
ランスロットから頂いたサーベル。
この人、いったい何を考えてるのかしら?
右手一本を突き出す。握られた持ち手は肩の高さで止め、サーベルを水平にして、剣先は、ランスロットに向けた。
攻撃魔法?
それは、まだ、使わないわ!
「剣ではなく、最初から魔法で構わない」
随分と強気じゃない。剣神の加護のせいかしら?
ううん、違う、この人のことだから、きっと……。
でも、
「それを、決めるのは、あたし」
たいしたことなかったら、許さないんだから!
闘技台の上では、一人と一人の二人きり。
だから、全力でいく、中途半端はしないわ!
突き出した右手を肘を曲げるようにして後ろに下げる。持ち手のつばをあご辺りで止めた。同時に、左足を肩幅より広く前に出し、重心を少し低く。
剣先の上に、軽く左手を添える。
このままでは、やっぱり届かないわね。
重心をもっと低く、右足に体重をのせる。
剣先から伸びる線が、わずかに彼に、とどいた。
右足を強く蹴って、一気に解放した。
彼の剣よりも疾く、ととげ、あたし!




