抜剣
ランスロットから頂いたサーベル『六花」は、専用武器のくせに、直ぐに手に馴染むことはなかった。
だからこそ、あたしを夢中にさせる。
素振りとセバス爺との実戦に明け暮れた。
そして、いよいよ第一歩というところで、また彼が横やりをいれてきた。
「その剣は、彼からの贈り物ですね」
アンドリューが言う。
稽古場の地面には、草一本生えていない。
周りには壁、空にしか視界が開けていない空間。
先にいた生徒たちは、剣を振る手を止める。
そこに、ランスロットの姿は無かった。
彼が、稽古場にほとんど姿を現さないのは、知っている。
でも、アンドリューみたいな部外者が、腰に下げた『六花』のことを知っているのは、ちょっと残念……。
「そうです」
初夏の日差しで、額に汗がにじみはじめた。
「だから、彼は相応しくない。僕なら、あなたに、剣は、握らせない」
アンドリューの言うことは、いちいち理解に苦しむ。だって、どちらも、あたしの気持ちと意志の問題よ、他人に、どうこう言われる筋合いはないわ!
だって!
「あなたは、あたしを知らない」
突然の風に、髪が乱れた。
白髪が目にかかる。
その髪色は、目立つから嫌いだ。
でも、今日は、違う。
目の前に集中できてる。
「その剣で、勝てぬなら国へ帰れ。彼は、そう伝えたはずだ」
もうっ、なんで、あなたがそこまで知ってるのよ!
ランスロットのおしゃべり!
鼻で息を吸い、その言葉を頬にためて声には出さない。
そして、国にも帰らない。
多少は、剣が振れるようになったのよ!
手には、まだ馴染んでないけど、
「あなたには、負けない」
それは、絶対なの!
「魔法が得意なあなたは、剣では絶対、僕に勝てない。それを教えて差し上げます」
いーだっ!
あなたって、ぜんぜん、かわいないっ!
稽古場の真ん中。
教官に口をはさむ気配はない。この人たらっ、なんのために、ここにいるのかしら? 働きなさいっ!
衆目が集まるのを感じる。
ザワザワとした、聞き取れない話し声。
雑音が多い……。
風が汗の匂いを運んできた。照りつける太陽が雲に隠れる。
影が消えた。風景の色合いがにごる。
「お嬢さま」
メアリーちゃんの祈る声のような気がした。その隣では、シンディーちゃんがアワアワとしてるのかな?
サーベルの握り手を掴む。
金属は、ひんやりてして冷たい。握る指先が脈打つ、そしてサーベルを少し動かす。
刃を僅かに鞘の外に覗かせる。
心臓が一拍。
そして、力強く握り締め、掴んだ腕を勢いよく動かした。
抜剣。
剣の重みが腕を通して伝わる。腰に自然と力が入った。剣先を抜くと、体の中心に、それを持ってくる。
重力に負けぬよう左手を持ち手に添え、同じ方の足を後ろに下げた。アンドリューに対して半身になると、構えは完成する。
「お手合わせをお願いします」
彼に拒否はさせない。
刃に願いを込める。
「あなたが、国へ帰るのは、とても残念……。もっと……。いや、すべきことをする。ただ、その思いは、知って頂きたい」
彼も、剣を抜く。
見覚えのある姿……。
ああ、あなたは、やっぱり、ランスロットと闘技場で戦った人なのね。
丁寧で綺麗な構え。
油断なんてない、あたしだって全力を出す。
すでに、いくつもの未来の剣筋は、彼を捉えていた。
そのどれも選ばない。
ランスロットは、あの時、上段に構えた。
なら、あたしも……、全力で、それに挑む。
「女性相手に、僕からは仕掛けない」
アンドリューが口を尖らせた。
男の子特有のプライド。それとも、紳士的というのかしら?
うううん、どちらも違う。
意外にかわいいところもあるのね……。
彼に続く線は、まだ一本にまとまってない。
それは、間合いの外だから。
なら、すり足でジリっと距離を詰める。
足裏から乾いた砂の感覚が伝わった。
景色が変わる。雑音が消えた。
彼とあたし、二人きりの世界。
間合いの境界が標的と重なった。線は一つ。
それを、たどれ!
両足で、大地を蹴る。上段に構えた剣を、さらに高く。そして、腰が弓のようにそると力がたまる。
振りだした『六花』は、その重みであたしを強く引っ張っていく。
だから、あたしは『六花』に従う。
そして、一本の矢のように、標的を目指せ!
アンドリューの反応はいい。
剣を振り上げ、あたしの上段を弾き返す構え。
上等よ!
力勝負は、望むところ!
刃がぶつかる。
金属音が響く頃には、勝負はついていた。
「ま、参りました」
アンドリューは、目をそらした。遠くに、彼の折れた剣が地面に突き刺さる。
あたしは、寸止めしたサーベルを鞘に収めた。
これで、アンドリューは、あたしを認めてくれるかしら?




