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元気だして

 舞台脇の控え室。


「君には関係ない」

 とランスロットは言った。

 それからは、無口になり、もの静か……。


 なにこれ、ぜんぜん、かわいくないつ!

 だったら、

「あたしを見て、言いなさい!」


 あなたのそんな顔、あたしは知らない。


 無口? 物静か?


「君には、アンドリューがいる。だから、厄介なことになる前に」

 アンドリュー、誰、それ?


「よろしくお願いします。クラリスさま」

 そういえば、見知った顔が、この部屋にいる。


『氷の姫君』がどうのこうのと、意味不明な言葉を、また並べはじめた。


 彼は、ランスロットと闘技場で試技を競い合った相手。


「バラビー公爵のご子息です」

 メアリーちゃんの耳打ちもくる。


 なによ! そういうこと!


 だって、ランスロットが素振りで負かした相手……。あたしは、それ以下ってこと……。


 幼い頃の映像が脳裏に浮かぶ。


 なんでだろう?


 窓枠に座り、あの時の彼は、無口で物静か……。

 カーテンが風に揺れ、あたしは突然、彼の声を聞いて動揺しちゃった……。


 で、

「蝶やカマキリ、セミにバッタ、そうそう、カブトムシもだったかしら?」

 ちょっと邪魔、アンドリューなにやらを、手で脇にやる。


「今度は、なに?」

 あたし、怒ってるのよ!


「アンドリューは、立派な男だ」

 あの頃とランスロットは全然違う。


 なんで、そんなに、元気がないのよ!


「違うわ。あの時の方が良かった」

「あわあわ、お嬢さま、アンドリューさまは、公爵の」

「あの時の方が良かったの!」


 同じ嫌がらせでも、あの頃のあなたは、元気だった。


「君のことは大事だ。だから厄介ごとには巻き込みたくない」


 大事? そんな言葉はいらない。

 悪口の方がいい。その方が、安心できる。


 ねぇ、こっちを見て、何か言って!

 もっと元気をだして!


 振り向きもせず、そのまま、ランスロットは、あたしを残して部屋を出て行った。


 その背中……は、あの頃のように氷を投げつける隙はなかった。


「あ、あの〜、クラリスさま?」

 それと、部屋に持ってきた虫やら何やらもそうだけど、この彼もちゃんと連れて行って欲しかった。


「オーウェンさま、何か、あたしに御用でも?」

 一応、公爵のご子息なので、膝を曲げ、正しいご挨拶をする。


「ラ、ランスロット王子は、き、君には相応しくない」

 ふーん、二回も同じことを言うんだ……。


 この人、嫌い!


「御用がないようであれば、失礼させていただきます」


 もう一度、スカートの裾をつまみ、軽く膝を曲げて会釈。その後、そのまま部屋を出た。


 それにしても、

「オーウェンさま、顔色が悪かったけど、どこか具合が悪かったのかしら?」

 それに、自信もなくて頼りない感じ……。


「ですです、お嬢さまが、虫以下だとおっしゃるから落ち込んでらっしゃいました」


「そんなことは言ってません。あの方、人間です」


「そ、それだけですか? オーウェンさまは、お顔が良くて、社交界で人気ですよお。来年には、成人されて、なんらかの爵位を、継がれちゃいます」


 ふーん、来年で成人。ということは、十四歳。ということは、二浪……。


「それは、なんて、お可哀想に!」


「あわあわ、お嬢さま、違います、違います。今期の王立騎士学校には、ランスロット殿下に合わせて、ご入学をずらされた方々が大勢いらっしゃいます」


 そんなことまでするの!

 まあ、しそうね。それが、貴族ですもん。


 ランスロットなら、それだけの価値がありそう。


「でもでも、オーウェンさまは、お嬢さまのご入学を待たれたと思います」

 馬鹿なのかしら。いえ、馬鹿ね。


「オホホホ、田舎の方は、あいさつも出来ないのかしら?」

 スラっとした、スタイルの良いご令嬢。凄く美人……、いいえ、凄い美人になりそうな幼い顔立ちの子ね。


 でも、誰? それに、オホホホなんて笑い方、初めて生で見たわ……。


「あのあの、クレセント公爵のご息女、シンディーさまです」


「初めまして、シンディーさま」

 膝を曲げて会釈。

 ちよっとお、公爵のご子息、ご令嬢が多くない?


「噂にきく、『氷の姫君』も大したことないわね」

 彼女は、口を手で隠し、オホホホと笑う。頑張って意地悪をしてるって演技が、とても微笑ましい。


「あたくしの、見本を見せて差し上げます」


 彼女のする、お辞儀はとても綺麗。

 深々と頭を下げる、その姿は、とても、性格の良いご令嬢に見えた。


「クラリスさま、お会いしたいと思っておりました、初めまして、クレセントの次女、シンディーと申します」

 ていねい過ぎじゃない?


 彼女のご年配のメイドも、あたしと同意見のようで、「お嬢さまは、公爵のご令嬢ですよ」と耳打ちしたのが聞こえた。


 彼女は動じない。

「会いたいと思ってなくても、会いたいと添えるのがポイントなのよ」

 ドヤ顔で鼻をふくらました。


 いい、すごくいい!


 それに、この子たら、裏表もないのね。


「お嬢さま、本音は隠すものです」

 メイドさんも大変だなあ。


「ねぇ、あなた、お友達いる?」

 なんか、こう、こういうのいい。


「い、いるわよ……。一人でお人形遊びばかり、してないんだからっ!」


 きゃっ! かわいい!

「あなた、いい」

 ガシッと両手で彼女の手を握る。


「だ、だめよ。よんだいこうしゃくと辺境伯は、敵対してるんだからっ」

 きゃぁーーっ、耳まで顔を赤くして、凄く嬉しそう。


 これは、もう、承諾よね。


「なら、敵同士、毎日、遊びましょう」

「で、てきどうし、な、なら、いいのか?」

「いいのよ!」


 彼女のメイドさんが、ため息をしながら、会釈をしてくる。


「じゃあ、明日、また、学校で」

「ふん、そ、そんなにいうなら」

 彼女は、肩を震わせ、最後に瞳を閉じて、

「ちゃんと、明日、覚悟なさいっ! 約束なんだからっ!」

 と叫び、綺麗な会釈をすると、オホホホと笑いながら去っていった。


 彼女とは、対等に話せる関係になれそう。

 四大公爵と辺境伯の対立なんて関係ないわ。


 それに、あれも聞ける。


 セバス爺も、ランスロットも教えてくれない。

『氷の姫君』の意味を彼女なら聞き出せる。


 だって、きっとシンディー・クレセントは、嘘をつけない女の子なんだから。

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