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いつだって真っ直ぐに

 夜が明け、朝が来る。

 心地よい温もりの中、布団にもぐりこみ、ずっと寝ていたいと望んでも、朝は、容赦なくやって来る。


 闘技場の日から数日が過ぎた。


 体を動かすと、気が楽になる。


 膝を曲げ、大地を強く蹴る。

 屋敷を囲む、高い壁、その頂上では、小鳥たちが、並んで羽繕いをしていた。


 放物線の頂点。

 開けた視界が、遠くに王城を見せた。


「お嬢さま、よそ見が過ぎます」

 セバス爺も跳躍して追ってくる。


 はやい!


 高く跳んで距離を取ろうとしたのは、悪手だったわ……。彼の剣撃を、魔法で作った氷の剣で受け止める。


 スピードは、多分、あたしの方が、セバス爺より速いはず……。


 でも、力は遠く及ばない。戦術の組み立ても、爺が上手……。


 剣撃を受けた衝撃で、バランスを崩しながら、着地。もう! 隙だらけになっちゃう。反撃は……、無理ね……。

「セバス爺に、勝てる日なんて来るのかしら」


「いいえ、お嬢さま、紙一重です」

 彼の剣は、あたしの喉元で寸止めされていた。


 肩で息を吸う。

 そして、セバス爺との、次戦を思い描く。


「もう、ひと勝負、お願いします」

 彼が離れる。その距離は、お互いに、間合いの外。今では、あたしがひと呼吸で移動する距離が基準。


 あたしの間合いの方が広い。


 だから、いつだって、初撃の優位は、あたしにある。


 利き腕の右に、魔力を練って氷の剣を作る。

 肩の力を抜き、自然体で息をゆっくり吐き出した。


 そして、線を思い描く、それを、セバス爺とつないだ。


 両手で氷剣を構える、剣先は、あたしのひたいの位置でとめた。そこに、願いを込める。


 これが、あたしの剣の構え。


 そして半身をひねり、氷剣の持ち手を、左脇腹で止め、一気に全身で前へ。


 そして突きをくり出した。


「いつも、真っ直ぐがすぎます」

 セバス爺の反撃。


 それも承知。あたしが予想した線の内よ!

 突きをやめ、セバス爺の一撃をかわすのに集中。


 あたしにとって、剣の斬り合いは、チェスと同じ。

 先を読み、時に臨機応変に対応し、隙を見つけ、相手の反撃を限定していく。そして、チェクメイトに追い込む。


 それが、出来ればなぁ〜。


 氷剣が弾き飛ばされた。


「お嬢さま、今日は、このあたりで切り上げましょう」

 座り込む、あたしが立つのを、セバス爺が手を貸してくれた。


「だめね……、いくら早くなっても、打ち合いで力負けてしまうわ」

「仕方がありません。お嬢さまは、お身体が小さく、線も細い」

「そんなに細いかしら……」

 そういえば、昔、「ぽっちゃり」とか「デブ」とか……。


 ああ、なんか、腹が立ってきた!


「ご心配されなくても、魅力的な女性に成長されてます」


 あら、そう……。

 でも、セバス爺だし、お爺さまだし……。

 なんかこう、孫娘の容姿をほめてるセリフみたいで、複雑です。


 剣を構えてみた。

 初めてする構え、いいえ、これは最初に習う構えね……。


 上段から振り下ろす。相手の剣が、戻す軌道に入ったら……。

「ランスロット殿の真似ですか?」

「ええ、セバス爺、彼とあたしの差って?」

「速さは互角、力は、お嬢さまより優っております」


 もう一度振る、そして、またもう一度。

 返す剣で、相手の剣を弾くには、相当な力……。


 追いつける? その必要はないわ……、彼には、強くなってもらうんだから……。


 でも、同じ景色は、見てみたい。それを他人にとやかくなんて。もう言わせない!


 何回か素振りをし、そう決めた。


 軽い朝食の後、身支度を整える。

 王立騎士学校で学ぶ日が始まるのね。


 制服のブレザーに着替える。何度着ても、地味な制服……。


 着替えを手伝ってくれた同い年のメイドが、なかなか感想を言ってくれない。


 似合ってるか、気になる〜っ!


 なんかこう……、

「大丈夫かな?」

 不安なのよっ!


 ああ、もう、いっそのこと、肌の露出を多めに……、そんなの、恥ずかしいに決まってる! いえ、そもそも、あたしに、そんな色気があるのかしら?


 胸元で両手を組んでまま、動かなかったメイドが口を開く。


「あのあの、お嬢さま、すごくお似合いです」

 コクコクとメイドさんが、うなずいてくれる。

 この子たらっ、もしかして、胸がすごく大きい?


 あたしのは……。


「あのあの、あたしは、お嬢さまぐらいがうらやましいです」


 やだ、目線でバレたのね。

 でも、ぐらいって複雑……。


「あのあの、男の人って、胸ばかり見て、あたしの顔をぜんぜん見てくれないんです。それが」

「あたしを見てって思うわよね」

 まあ、ランスロットは、顔どころか、こっちを見てないけどね……。


 あの人、いつも、どこを見てるのかしら?


「ですです、お嬢さまは、お顔も、そのお、あたしの理想です」

 そうなの、あたしは童顔より、もっと大人ぽい顔にあこがれるわ、マーリン先生みたいな、綺麗な顔が好き。


 メイドさんは、あたしのネクタイを手に取って、しょんぼりしだした。


 どうしたの? 元気だして!


「あのあの、ネクタイの色は、残念でしたね」

 ああ、ネクタイの色ね……。


「黒色は、地味よね……」

 ネクタイの色で、身分をしめすなんて、馬鹿らしいこと。


「あのあの、辺境伯は、黒色とかひどいです」

「夜を意味する黒、太陽の恩恵のない夜の色ですもんね」

「ですです、王族の黄色に対する当てつけです」

「黄色は太陽だもんね。あたしは好きよ」

 本当は、赤色の方が可愛いけどね。


「寝る子は育つていうし、夜に人は成長するものよ」

 それに、太陽は、夜を照らしに、必ずやって来るのよ。


「あのあの、でもでも、やっぱり赤が可愛いと思います」

 この子たらっ、あたしと趣味が合うじゃない。赤は、王に血を捧げるの意味らしい。


 そんなの、関係ないわ。色に理屈はいらない。好きな色は、好きでいいと思う。


「メアリーさん? だったかしら、あなたたらっ、妹みたいで可愛いわ。これから、学園でもよろしくね」

「はい、しっかり、お世話をさせていただきます。でも、お嬢さまと同い年ですよお」


 あら? すねちゃった?


「妹なんて言って、ごめんなさい」

 手を差し出すと、彼女も握り返してくれた。


 学園の別棟べつむねに立派な講堂があった。


 道に迷う? そんな心配は、あっさりと打ち消された。


 メイドのメアリーちゃんたらっ、大勢の人混みをかき分け、自信まんまんの足取りで、案内してくれた。きっと、下見をして、予習してたのね。


 彼女の仕草は、どれも一生懸命で可愛い。いつでも、精一杯に頑張れる人は、尊敬しちゃう!


 入学式には、生徒以外も大勢参加している。


 メイドのメアリーちゃんは、その顔ぶれを説明してくれた。ほんと、メモ用紙をめくりながら、読む姿がかわいい。


 メモを、クチャクチャとめくり、額をアセアセと拭きながら、彼女を説明をはじめた。


「あのあの、あちらの方々が、四大公爵になられます」

 これは、壇上の来賓席のことね……。

「そのその、左から」

 彼女は、不器用で、でも細く丁寧に話してくれる。


 その壇上に、ランスロットの姿。

 そこの照明が強いせいか、顔色が悪く見えた。


 ちゃんと剣を、振ってるのかしら……。


「あのあの……」


 彼とまともに稽古を出来る人は、城にいるの?


 運動をした後より、今の彼って……。


「あのあの、あのあの、お嬢さま!」

「あ、メアリーさん、ごめなさい」

「お嬢さま、あたしの話、聞かれてました?」

 メアリーちゃんは、ぷくーっと頬を膨らませた。


 てへ、聞いてません!


「もうっ、お嬢さま! 入学式が始まります。まとめると、今回は、国王の威信を伝える場なんです」

「へぇ、そうなんだ」

「ですです、さあ、お嬢さま、いよいよです」


 王立騎士学校……。


 確か、ここの、教育理念は忠誠と礼節。騎士として正しい愛国心を養うこと、それは、多分、王は絶対であると教えること。


 お父さまと王さま、多分、仲が悪い。

 小さい頃の戦争騒動も、多分、半分本気だったと思う。


 そんな入学式は、つまらない話で始まった。


 王自らが、壇上に立つ。


 直立不動の姿勢で聞かされる長い話。

 心を鍛えるには、丁度良い修行。


 最後に、アイザック王は、自信満々に言う。

「王こそが絶対、それが国を繁栄させる」


 長い話は、すごく簡単。要する、この一言が、彼の理念なのね。


 皆の拍手に合わせた。


 次の登壇者は、もっとつまらない。

 男のくせに覇気がない。いいえ、感情が見えない。


 容姿の良い、お人形が声を出してるみたい。


 内容なんかどうでもいい、つまらないと思っているものが、どんなに言葉を飾って伝えようとしても、心が動かされはしない。


 ランスロットは、とてもつまらない話を壇上で、あたしたちにした。


 素晴らしいという歓声が、あちらこちらから聞こえる。


 彼を見てない人たちの歓声。


 入学式終了後、いち早く席を立つ。

「あのあの、お嬢さまどちらへ」


 メイドちゃんは、すでに、あたしの行きたい方へ、案内をしようとしてる?


「ランスロットに会いに行くのよ」

「ですです。セバスさまから、きっと、そうなると伺ってます!」


 容姿と違って、メアリーちゃんたらっ、出来る子ね。


 あの日、闘技場で「隣に、ふさわしくない」って言われた。ちょっと落ち込んだけど……。

 怖いけど……。


 あんなの、放っておくなんて、絶対にできないの!

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