麒麟の子
世は泰平より戦乱の兆しを見せる蠢動の時代。
ある大陸には、四つに割れた国があった。
一つは、焔と共に励む鍛治の国、朱雀。
一つは、肥沃な土壌と鉱脈に恵まれた資源の国、玄武。
一つは、雷雨吹き荒ぶ武人の国、青龍。
一つは、風と共に遊ぶ商人の国、白虎。
各国は泰平にあって、その得難きを忘れ、虎視眈々と天下統一の野望を果たさんと狙っていた。
だがそのような世情とは無関係な片田舎の少年の元に、王位なる獣、麒麟が現れる。
それは、その少年こそが天下統一を果たす大偉人たる予言であった。
……
麒麟。それは、骨格は鹿に似て、顔は龍に似る、牛の尾と馬の蹄をもち、肉のある一角を生やす、黄毛と鱗に覆われた霊獣である。
草木や小さな虫たちを踏むことさえ嫌う心穏やかな瑞兆の獣。
そして、今、俺もその麒麟として産まれたのだ。
踏むことが嫌いというか、不思議パワーで浮いている。
心穏やかというか、霞で生きるので欲が薄い。
そして、そんな俺の目の前にあるのは、捨て子。
「きれい……」
子どもは俺の姿を見て、呆然としている。
そして、俺も内心、混乱している。
俺は日本人だ。そのはずだ。何故に麒麟にうまれかわってるの?俺そんな大層な人間じゃなかったよね?
うん、うん?
そもそも何故に、産まれたところに捨て子がいるのやら。
「お腹空いた……」
黙考していた俺の耳にそんな言葉が聞こえる。ちなみに、言葉が聞こえるのは霊獣だからだろう、たぶん。
よくわからんが、世界からサポートでも受けているのだ、たぶん。
「ーー」
何か言おうとして、声が無かった。どうやら麒麟には声帯がないらしい。
……いや、これでどうしろと?この子どもを助けるために、生まれたんじゃなかったんか?
ポトッ
うん?何だ、今の音。
「あ、角」
角?のわ!?角が抜けとる?!何でやねん!
地面に落ちて、いや、若干、浮いたままの角に顔を近づける。
クンクン。なんか、食えそうじゃね?いや、麒麟は肉なんか食わんけどよ。霞食っとんねん。
これは、そういう機能なのか?
これが子どもの食事?
取り敢えず、口に咥えて子どもに近寄る。
子どもは無警戒に俺を迎え、どうにかこうにかジェスチャーと目線で角を受け取らせる。
「ん?ありがと。……?クンクン」
子どもはよくわかっていないようだったが、匂いを嗅ぐとよほど美味しい匂いだったのか、思い切り齧り付いた。
「美味しい……」
子どもが幸せそうな表情をする。
「お腹一杯」
そして、一食にも足りない量であるはずなのに、子どもは満腹になったらしい。
麒麟の角は、万能栄養食か何かなのだろうか?
これでよかったのか?
「眠い……」
そして、腹が満たされた子どもはその場で横になって眠ってしまった。
俺は、恐る恐る近づいて、寄り添うように身体を横たえる。
まぁ、麒麟はただ在るだけで生きていけるようだし、しっかり育てていきますかね。
……
あれから、30年。
あの時の子どもは、この大陸の皇帝になった。
歴史上初の統一国家の誕生である。
俺が念話できることに気づいてからは、色々と地球の雑学を語ったのだが、それで無双してしまったらしい。
いや、割と運が味方した場面もあったようだが。
かなりの善政を敷いているし、そもそも別に戦争で統一したのは少数で、ほとんどは交渉で治めてしまった。
流石は、麒麟の子と言ったところか。
さてさて、結局、これでよかったのかね?
何となく、思いついたままに書いた。
内容とか特に無いし、連載版にするつもりもないので、誰かこれからインスピレーションを万が一にも受けた人は書いて知らせてほしい。それ読むから。