③
*挿絵が出ます
悪役令嬢には、神の加護がなさそうなので……。
聖女様と仲良くなるには自力しかない。
授業中。
「サクラ様、研究課題、お手伝いいたしますわ」
休み時間。
「中庭は人でいっぱいです。裏庭なら落ち着けますわ」
単純接触効果。
会う回数が多いほど、好意はもたれやすい。
「一緒にお花摘みに参りましょう」
「い、いや、それはちょっと…」
これは断られた。
だがドロシーは初期値が低いのだ。
果敢に声をかけるのみ!
「サクラ様はこちらの文字が読めないですわよね。授業のこと、わたくしになんでもお聞きください」
「ああ、じゃあここ……」
魔法学のテキストを差し出される。
余白には、聞き取った日本語で、びっしりとメモ書きがしてある。
さすが、努力家だ。
(あ、あら?)
だが、テキストの内容が全然わからない。
そういえば、前のドロシーは、全く勉強をしていなかった。
「ま、先ずは音読いたしましょう」
文字は一応、わたしでも読めるのだから。
その晩、わたしは図書室から魔法関連の本を大量に借り、寮の自室に戻った。
寮の自室と言っても、6畳間とかではない。
例えるなら、タワーマンションのワンフロア。
生家によって割り振られるので、侯爵令嬢には専属メイドもついている。
そのメイドたちが、本を持って帰ってきたわたしを見て、頭を打っておかしくなったのかしら、と青ざめていた。
無理もない。
かまわず、持ち帰った本を読み進める。
わたしは元々オタク気質。
本を読むのは苦じゃない。
魔法知識があれば、聖女様に近づく口実になる。
(ゲームの知識もあるしね)
それから、わたしと聖女様は、裏庭で魔法の特訓をするようになった。
舎屋から離れ、うっそうと木が生い茂る裏庭には滅多に生徒が来ない。
いつもの学友たちは、面倒なことになるので、まいてきている。
「そうです。手のひらに集中して……」
聖女様は、あっという間に、いくつかの魔法をマスターしてしまった。
さすがは『憂国聖女』のヒロイン。
「完璧です!」
わたしが褒めると、聖女様が柔らかく笑った。
よしよし。仲良し作戦、いい感じ。
「ドロシーはどんな魔法が使える、ですか?」
「わ、わたくしですか?」
木陰で休憩中。
いつもと同じ、ちょっと不自然な敬語で聖女様がわたしに尋ねた。
「わ、わたくしは魔法適性が低くて……」
わたしが使える魔法の数は、ゼロだ。
自衛のためにも習得しておきたかったが、全く進歩しなかった。
そもそも、魔力ってなに?
「適正がないのにこんなに勉強してるなんて、ドロシーは努力家なんだな」
ドロシーが努力家?
そうじゃない。聖女様は『わたし』を褒めているんだ。
「いつもありがとう。」
聖女様はわたしに謝意を述べて、微笑んだ。
「ドロシーが友達になってくれて、本当に助かったよ」
友達……?
わたしに友達ができるのは、学生時代以来じゃないだろうか。
社会人になってから、友達ができるようなことをしてこなかった。
学生時代の友達も、新生活に遠慮してしまって、徐々に疎遠になった。
自ら関わろうとしなかったのだ。
わたしは浮かれた。
友達!
新しい友達!
こんな美少女で!優しい!友達!!
(よーし、もっと仲良くなっちゃうぞー!)
仲の良い友達って何をするかな。
一緒にお出かけとか、パジャマパーティとか?
あとは一緒に登校とか!
ちなみにわたしの友達感は、学生時代で止まってる。
翌朝、浮かれたままのわたしは聖女様、いや、友人サクラの部屋に向かった。
(思い切って、部屋に迎えに行っちゃお)
聖女様の住まいだが、一般生徒と同じ、小さな部屋。
ノックと同時に部屋を開けた。
「サクラ様、一緒に登校いたしましょう〜」
そこには、着替え途中で上半身がはだけた、驚いた顔のサクラがいた。
サクラの裸の上半身。
……胸がなかった。
(いや、貧乳という意味ではなく)