②
*挿絵が出ます
ヒロインのキャラ攻略を邪魔するには、常に側にいる必要がある。
そのためにも、先ずはヒロインと仲良くならねば。
広い学園の長ぁい渡り廊下で私はようやくヒロインの後ろ姿を見つける。
「よろしいかしら」
おでこにでっかい絆創膏を貼ったドロシーに、突然話しかけられた聖女様はビクッと後ずさった。
そりゃそうだ。
今日は取り巻きがいないとは言え、悪役令嬢なのだから。
悪役っぽさを緩めるために、メイドたちに頼んで縦ロールはやめてもらったが、あまり効果はなかったようだ。
ゲームではヒロインにデフォルトネームはない。
(確かサクラ、とか呼ばれてたような…)
だとすると日本人の可能性が高い。
アクヤークに話しかけられたら警戒しない方がおかしい。
「昨日は失礼いたしました」
逃げられる前に謝意を述べ、わたしよりも10センチは背の低い聖女様に合わせて、深く頭を下げる。
少し警戒の色が薄まった……ことを期待しとく。
「ところで、サクラ様はどのような御用で、こんな外れに?」
「……食堂の場所を聞いたら、こっちだって……言われたので」
聖女に悪意を向ける生徒がいる。
ゲームの設定と同じだ。
聖女は、魔王と戦える状態で召喚されると預言されていたが、とある攻略キャラの妨害で、一つも魔法を使えない状態で召喚されるのだ。
そのため、魔法を学びに学園に編入してくる。
序盤では、そんな彼女を偽物聖女なのではと、疑うものが多い。
ちなみにゲームで嘘の食堂の場所を教えるのは、当のドロシーなのだが。
「こちらは全くの逆方向です。よろしければ、わたくしがご案内しましょう」
「……」
わたしが歩き出すと、聖女様は少し離れてついてくる。
まだ警戒少しされているらしい。
食堂に着くと、ドロシーの学友たちがブンブンと手をふっていた。
いつものように席を大量に確保して。
後ろのサクラに気づいて顔色を変える。
「聖女様だわ。ドロシー様の視界に入ったら大変」
「面倒ごとは、ごめんだわ」
「せっかく食堂に来れないようにしたのに」
ヒソヒソと話す。
嘘の場所を教えたのは彼女たちらしい。
聖女様の視線が冷ややか。
仲間だと思われてる。
「皆さんごめんなさい、今日はサクラ様と二人で食事させていただけるかしら」
聖女様の方に向き直り、
「学食の使い方はご存じないでしょう?教えて差し上げますわ」
「ドロシー様が……学食を召し上がるのですか!?」
学友たちが確保していた机には、メイドたちが作った、豪華な食事で埋め尽くされていた。
「それは皆さんで召し上がってください。さあ行きましょう、サクラ様」
いつもと違いすぎるドロシーに、他の生徒もざわめく。
「あの傲慢令嬢が聖女様に親切を?」
「何か企んでいるんじゃあ……」
「そんな頭があるわけないだろ」
なぜこの悪口が、今までドロシーの耳には届かなかったのか。
(ナルシスト補正って怖い)
目立たない席で聖女様と二人、向き合って学食を食べる。
「……」
(ヒロインって無口設定だったかしら)
ゲームの印象にはない。
『憂国聖女』のヒロインと言えば……
まず強い。
めちゃくちゃ強い。
剣も魔法も強い。
どの攻略対象キャラよりも強い。
ひたむきで努力家で、一途。
そして、その明るい笑顔で誰もが虜になってしまう……はずなんだけど。
(わたしが警戒されてるからなのかな)
どちらかと言うと陰の気をまとっている。
「美味しくないかしら?」
聖女様は何かを言おうとして、いったん考え込み、
「美味しい、です」
と短く言った。
この聖女様の懐に入るのは、相当難しそうだ。
「あの、学園生活、何かと不慣れで大変でしょう。わたくしでよろしければお手伝いしますので、なんでもおしゃってくださいね」
死亡エンドを回避するために、ぜひ頼ってくださいね。
「ありがとう」
聖女様が微笑んだ。
ズギャーン。
美形。
物凄い美形だ。
同性だというのに、胸を撃ち抜かれた。
前世を思い出す前のドロシーは、自分にしか興味なかったから気付かなかったが、わたしは美形耐性がない。
これは落ちる。
誰でも恋に落ちる。
いや、落ちてもらっては困るのだ。
(助けて神様!ピンチです)
果たして悪役令嬢を助けてくれる神は、この世界にいるのだろうか。