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 真面目で保守的。ごくごく平均的な日本人。

 普通の学校をとっくに昔に卒業して、普通の会社に就職した。

 休日は一人でゲーム。

 地味で目立たず、親しい友人もおらず、恋人もいない。

 30歳を目前にして、交通事故に巻き込まれて死んだ。

 自分の死を確信しながら、思ったことは……


(あ〜……、 一度でいいから、恋したかったなあ)


 それがわたくし……

 いや、わたしの『前世』だ。


 そんなわたしが生まれ変わった先は、国有数の侯爵家一人娘。

 傲慢かつナルシストな性格に育ったのは、蝶よ花よと育てられた影響か、前世の反動か。


 ドロシー・アクヤーク。


 わたしはこの名前に覚えがあった。

 乙女ゲーム『憂国の聖女とフォルトゥナの騎士』。

 ドロシー・アクヤークは、ヒロインをいじめる悪役令嬢の名前だ。


 恋に憧れたまま死んだのに、転生先が乙女ゲームの悪役令嬢。

 ご想像の通り、誰にも好かれぬまま破滅する運命だ。


(もしかして……このままでは、まずいのでは?)


 わたしはゲームでドロシーが辿った運命を思い出す。

 正直言って、脇役の顛末なんてパッと思い出せない。


 確か、『憂国聖女』の攻略キャラは4人。

 いずれのルートでもバッドエンドだと国外追放、

 グッドエンドだと……


「死……っ」


 わたしがガバッと飛び起きると、そこは見慣れた学園の寮の自室、ベッドの上だった。

 取り巻き……もとい学友たちとメイド達が、わたしを青い顔で覗き込んでいた。


「ドロシー様!ご無事ですか!?」

「本当に心配しておりましたのよ!本当に!」

 本当に、を二度も言ってしまうと、嘘っぽくならないだろうか。

「あの聖女が何かしましたのね!私たちがお助けできたら良かったのに!」

 自分たちのせいにされないように、責任を押し付けたいのね。


「大丈夫ですわ。ご心配なさらないで」

 わたしはちゃんとドロシーの口調で応える。

 空気を読む日本人というやつだ。


 …なのに空気が凍った。


「で、では、エルネスト殿下には、言いつけないでいただけるのですよね!?」

 学友達が言うエルネストとは、この国の王子で、ドロシーの婚約者。

 そして攻略キャラの一人だ。

 グッドエンドルートで彼に婚約破棄されたドロシーは、闇落ちして魔物と化し、ヒロイン達に殺されるのである。

 彼には王位継承権がないので、悪役令嬢が王妃になるルートはない。

 安心してほしい。


 もっと驚いているのはメイド達である。

「(ヒソヒソ)打ち所がわるかったのかしら」

「わ、私たちは、最高の名医に診ていただきましたから……」

「額のたんこぶもじきに良くなりましょう!」

(あたっ!)

 わたしの額にはけっこう大きなたんこぶができていた。


 わたしはふうと息をつき、

「…大丈夫ですから。今日はもう、休ませていただいてよろしいかしら」

 そう言うと、みな足早に部屋を出て行った。

 気が変わったドロシーが、怒り出す前に。


 皆が部屋を出て行ったのを見送って、わたしはガバッとベッドから飛び降りる。


(まずいわ、どうにか対策しないと)

 紙に大きく『死亡ルート回避案』と書き殴る。

(追放は仕方ないとして、また何もない人生のまま死ぬのは嫌)


 ヒロインが攻略キャラと結ばれるグッドエンドなら死亡。

 好感度が足らずバッドエンドなら追放。

 ならば、


「ヒロインと攻略キャラの仲を邪魔をすればいいんだわ」

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