プロローグ
*挿絵が出ます
王都魔法学園。
貴族の子息は皆この学園に通い、学問と魔法を学ぶ。
整えられた緑の中庭の中央には、意匠を凝らした石造りの屋根つきテラス。
いつものように豪華なティーセットでお茶を嗜む。
そのわたくしを見て、皆ヒソヒソと噂話をする。
何をしていても注目の的、憧れの眼差しだ。
「ドロシー様、素敵な髪飾りですね」
取り巻きの一人が、わたくしを褒め称える。
「エルネスト殿下からの贈り物ですの」
瞳の色と同じ、赤い宝石が付いた煌びやかな髪飾り。
わたくしの艶やかな金色の髪によく似合う。
「贈り物は嬉しいけど、ちっとも会いに来てくださらないのよ?」
取り巻きの一人が、慌ててフォローする。
「王子殿下は今、聖女様召喚の儀でお忙しいそうですから……」
数年前、預言士は魔王の復活と、国を救う聖女の出現を預言した。
でも、わたくしには関係のないこと。
「もう。わたくしをほうっておくなんて、抗議の手紙を差し上げようかしら」
エルネスト殿下とわたくしは婚約者なのだから当然の権利だ。
その時、後方からザワザワと、どよめきが広がった。
(あら、わたくし何かしたかしら?)
「あれが噂の……」
「異世界から召喚されたというのは、本当だったのか」
「なぜ魔法学園に?」
わたくしに、ではなかった。
その中心にいたのは一人の少女。
短い黒髪に紫の瞳。
学園の制服を着ているが、タイは曲がっているし、どこか着こなしが不格好だ。
だが顔は可愛い。とても可愛い。
「あれが聖女サクラ様なのね」
生徒達に注目されている聖女。
(気に食わないわ)
わたくし以外の女が、わたくし以上に目立っているのが気に食わない。
わたくしはふと名案を思いつく。
異世界から来たひとりぼっちの聖女。
仲良くしてあげたら、皆わたくしの寛大さに感動するんじゃないかしら。
わたくしが聖女の前に立つ。
「ごきげんよう。わたくしはドロシー・アクヤーク。アクヤーク侯爵の一人娘です」
ぽかんと聖女が口を開けた。
「貴女を、わたくしの取り巻きに加えてあげてもよろしくてよ」
さぞ感激するかと思いきや、聖女は口の端だけで笑い、
「ああ、悪役令嬢ってやつね」
わたくしのからだに衝撃が走った。
(あー、たしかに。こんなキャラ、乙女ゲームでよく見たなあ)
……?
(ギャグキャラにしても『悪役』って、ストレートすぎるネーミングセンスは、どうなんだろう)
……??
この記憶は何?
乙女ゲーム?
ギャグキャラ?
ぐわんぐわんと走馬灯のようなものが頭の中を駆け巡り、
わたくしはそのまま、顔面から倒れた。