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後編(ホテル)


 俺はアニエスに手を引かれ車へと戻った。


 先ほどまでいろんなことがあったはずだが、今はソワソワとしてそんなことも忘れかける。


 ……あれ、ていうかこれってかなり際どくはないか……?


 だって、アレだ。約束ではアニエスは今身に着けている下着を見せることになっているんだぞ? それをこんな密室でしかも二人きりの中されて、果たして俺は普通に理性を保てるのか……?


「それでは師し……」

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! ……なーんか腹がへったなあ。うん、腹が減らないかアニエス!?」


 俺が急に大声でそう言い、アニエスは驚いて目を丸くする。


「……師匠。お腹がすいたのですか?」

「あ、ああ……す、すかない?」

「そうですね……」


 アニエスは(しばら)く考えてから、コンコンコンと前の運転席との間にある壁の小窓を叩いた。


「はい、お嬢様いかがいたしましたか?」

「このままホテルへ行ってちょうだい」


 えっっっ………………!??!?



「かしこまりました。例のホテルで合っていますでしょうか?」

「ええ、そうよ。お願い」



 まままままままま…………マジですかっ!?!?



「師匠。もう少しだけ待ってくださいね?」



 アニエスはにっこりと微笑んだ。

 俺もつられて笑うが……え、今、俺どんな顔してる??


 俺は思わぬ展開に、身体中から滝のような滂沱(ぼうだ)の汗をダラダラと流す。


 え、え、どうなっちゃうの!?

 え、ホテル。なんで!?

 まさかそこまでの展開になるだなんて想定外なんだが………………!?


 俺はチラリとアニエスを見る。


 アニエスは来た時と同じくとんでもなく綺麗だが、軽く整えてはいるものの、メンフィスとあんなことがあったためわずかに服や髪が乱れ、首には絞められた手の跡が少し残っていた。


 最後に挨拶したメンショー伯爵は停電の混乱で、もみくちゃにでもなったのだろうと思っていたようで、首もよくよく観察しないとわからないからスルーされた。

 ……でも今こうして改めて見ると、あまりにも婀娜(あだ)っぽくて倒錯的で官能的過ぎる!



 正直、こんな相手に身体の芯が(うず)かぬわけが無い……!!!!



 しかし、同時に考える。こいつのバッグにいる恐ろしき面々を!!?!


(こいつとホテルにただ向かったというだけで、俺は間違いなく殺される……)


 うん、怖い。ちびりそう。

 いい大人がちびりそう。……考えるだけで、そっちも瞬時に縮みあがる!


「あ、あにえす、やっぱりそのお腹大丈夫かも、うん、大丈夫、平気だヨ」


「すぐですから心配しないでください。ルームサービスがとっても美味しいんですよ?」



 部屋!? 



 レストランでもなく、もはや部屋!!?

 え、え、もしかして最初からそのつもりだったの!??


 よし………………よし。

 ドアだ……このまま飛び出すか? 

 いや、だがしかし、ここまで女子にさせて言わせて逃げるのってどうなんだ!? それ、めっちゃ傷つかない!!?


 それに………。


 俺はもう一度アニエスをチラッと見た。



「うん? 師匠、どうされたんですか? 何か気になることでも?」



 そう言い、にっこりと小首を傾げるアニエス。

 やべえ、死ぬほど可愛い。

 このまま死んでもいいくらい超可愛い!!!!


 いやいやいや……でも、死ぬほど可愛いのと、本当に死んでもいいは違うだろう俺!?


 しっかりしろ俺!! 

 命は大事に☆ だぞ俺ーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!



「あ、師匠。到着しました!」



 え!!? もう!!?


 ……それは、超高級グランドホテルだった。あ、なんかここ知ってる。なんか前にどっかの王族だか大統領が泊まったとか新聞で見た……。


 それから車のドアが、おもむろにガチャリと開く。

 どうやらホテルのボーイが開けてくれたようだ。


「お帰りなさいませ、アルティミスティア様!」

「ええ、ただいま」


 俺の方がドア側だったため先に降り、手を差し出し車を降りるアニエスをエスコートする。


 ん? っていうか、ただいまって??

 

 アニエスは車から降りてそのまま立ち上がると、俺の腕にするりと自分の腕を絡めた。


「!?」

「師匠このままエスコートをお願いしても宜しいですか?」


 いや、これこの状況で振りほどける奴いるの!?


 先ほどのホテルのボーイが俺たちの前を先導し、エレベーター前に行くとエレベーターを操作して中に乗り込み、行く階数へとレバーを合わせる。


 どうやらこのボーイが最後まで部屋へと案内してくれるみたいだ……って、部屋の階数、最上階なの!?



「あ、そうだわ。ルームサービスをお願い」

「かしこまりました。いつものメニューで宜しいでしょうか?」

「うーん……そうね。取りあえずメニュー表のものを全て持ってきていただけるかしら?」

「かしこまりました!」

「え!? 全メニュー?」

「師匠なら召し上がれますよ……だって…………」



 …………何ーーーーーー!? その間!?


 え、何なに、何だコレ!? 


 これはもしや『夜は長いから』的な意味なのか!? いやいやいやいや落ち着け俺!? そ、そうじゃないかもしれないだろ!? 深呼吸だ!! ヒッヒッフー!?



 ……間もなくして、チーンとエレベーターが最上階のフロアに着いた。

 うん、もう、廊下からしてレベルが違い過ぎない??

 つーか、普通、ホテルってずらずら隣のドアが並んでいるものだけど、今、目に入ってくるのはニドア……しかも左右で開く両開きの大扉しか視界に入ってこないんだけど??


 ボーイが、俺たちの部屋らしきドアの前に立ち、上品にノックをする。

 すると……中からスタスタスタと速足で歩いてくる複数の音が聞こえた……。



「え……あれ、二……いや三人??」



 そこで初めて、今まで何一つ顔色を変えなかったアニエスが、(いぶか)しげな表情になる。

 そして、そこでガチャリとドアが開いた。

 そこには……。



「……おかえり。二人とも?」



 青い顔をしたアニエスのヤング・レディーズ・メイドのコーラ女史。黒髪赤目の謎のイケメン。それから……。



「帰ってくるのを待ってたよ?」



 アニエスを愛してやまない、俺の弟子にしてアニエスの義弟エースが立っていたのだった。









※本編にあまり関係ありませんが、一話で亡くなったアニエスの愛犬アザクワ(享年15歳)のことを、ブラッシングした最後の抜け毛の束を、香り袋のサシェに入れて、アニエスは暫くずっと持ち歩いていました。

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