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第2話

 扉を通り、最初に目に飛び込んできたのは、赤煉瓦造りの建物が歴史を感じさせてくれる街並みだった。

 現在地を知るべく、システムウィンドウを呼び出しマップを表示させると、どうやらエステル王国の首都ユベールの中心部辺りに出て来たようだ。


「まずは、……魔術師ギルドに行くか」


 じゃないと魔法も使えないもんな。

 いきなり初期装備の杖だけで狩りに行くのは無謀過ぎるというか、ただの馬鹿だ。

 各職業の技や魔法は、それぞれのギルドで修得できる。

 他にギルドで出来る事は、クエストを受けられる事と訓練場でキャラを鍛えられる事だ。

 マップ上で魔術師ギルドの位置を確認してみると、街の北西部にあるらしい。

 どうやらこの街は、四隅に各職ギルドがある造りになっているようだ。

 ちなみに、街の北部には遠目からでも目立つ大きなお城がある。

 マップを確認しながら、同じ様に街の北西方向に向かう人の流れに乗りつつ、目的地を目指して歩き始めた。



―――――



 魔術師ギルドは、目の前にある一見神殿風の建物のようだ。

 入り口が広く造られているので、大勢が1度に入ろうとしても支障はないだろう。

 道の真ん中で、いつまでも立ち止まっていては通行の邪魔になるので、さっさと中に入る事にする。


「やっぱ中も広いな」


 建物の中は巨大なホールの様になっていて、正面奥にはカウンターがありNPCが5人配置されている。たぶん、クエストを受けるための受付だろう。

 右側には店があり購入できる窓口は4つあるらしく、それぞれにプレイヤーが行列を作っているので、その最後尾に並ぶべく歩を進める。

 行列がさばけるのを待ちながら、魔法ショップでどの魔法を買うかを考える。

 もちろん、どれが必要なのか順位付けはしていたが、初期装備と共に貰えるお金やそれぞれの魔法の値段が不明だったのだ。

 アイテム画面のリストには初期装備のウッドスタッフとローブ、魔術書があり、所持金のところを見ると1000ゴールドと表示されていた。

 魔術書の効果は、プレイヤーが魔法を手に入れると、自動的に魔法名と呪文が本に登録されるというものだ。

 なので、記憶力に自信のないプレイヤーには、あんちょこ代わりとして重宝されるだろう。

 まあ、そんなプレイヤーは、最初から魔術師を選ばないかもしれないけど。

 ちなみに、いくら他で情報を得て呪文を記憶していても、魔術書に登録されていない魔法は使えないらしい。


「こんなものか……」


 流石に、これだけ人数が並んでいるから1つも買えないという事はないだろうが、魔法を2つ以上修得するのは難しそうだ。

 列がゆっくりと進む中、前を見てみると店の脇のベンチに、ひっそりと1人のNPCが腰掛けている。

 店員と違って、いかにもなローブを着込んでいるから、魔術師という設定のNPCなのだろう。

 他のプレイヤーは、誰も気にしてないみたいだけど、魔法を買った後で話し掛けてみるか。

 それにしても、序盤はソロの方が効率が良さそうだから、今までさほど意識してなかったが、順番が回ってくるまでやる事がないので、他のプレイヤーを観察してみる。


「…………」


 うん。普通だ。まったく面白みがない。

 全員服装が同じで少し奇妙な光景に思えるが、顔は普通に街中で見かけるのと変わらない。

 他のゲームの美形率を考えると、ここがゲームの世界だとはわかっているが、妙に現実味があり、よりリアルに感じられるので、今から戦争が楽しみである。

 そんな事を考えている間に、いつのまにか自分の順番が回ってきた。


「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか?」


 というNPCの声と共に購入できる魔法のリストが出現する。

 げっ、一番安いので600Gかよ。

 しかも、次に安いのは1200Gだし……。

 やっぱ魔法を2つ修得するのは無理だったな。

 はぁ、NPC相手に文句を言っても安くならないだろうし、しょうがないか。


「ありがとうございました。またお越し下さい」


 リストの魔法名をクリックし、唯一買える魔法を選び、さっさと次の人に場所を譲る。

 念の為にアイテム画面から魔術書を実体化させ、ちゃんと魔法が登録されているか確認する。

 OK。大丈夫だな。

 んじゃ、次はベンチのNPCに話し掛けるか。

 とりあえず、歩いて行きNPCの前に立って挨拶してみる。


「こんにちは」


「ん? あ、ああ、こんにちは」


 一瞬気付かない振りまでするとは、中々芸が細かい。

 店員のNPCの無機質さと比べると、よく造り込まれてるみたいだ。

 これは期待して良いのかな?


「ふむ。わしのような老いぼれにわざわざ声をかけるとは、珍しい若者じゃな。……どうじゃ。もし、時間があるのなら、魔法について知る限りの事を教えて進ぜよう」


 公式サイトの魔術師マニュアルを読んでいないプレイヤーの為に、解説をしてくれるNPCだったようだ。

 マニュアルは何度も読んだので、すでに知っている情報を聞くのは無駄でしかないが、


「じゃあ、お願いします」


「おお、そうかそうか。それじゃあ、始めるぞい。そもそも魔法というのは……」


 マニュアルにはなかった情報が隠されている可能性もあるので、このNPCの解説を最後まで聞いてみる事にした。

 それにしても、NPCとはわかっているものの、滅多に話し相手がいないキャラ設定なのか、心底嬉しそうな顔をして話し始めた老魔術師を見ると、話を途中で止めるのは良心の呵責を感じて無理だなと思った。



―――――



「以上じゃ。どうじゃな? 魔法についてちゃんと理解できたじゃろうか?」


「はぁ……、ああ、いや、はい。どうもありがとうございました」


 大気中に満ちるマナだの精霊との意思の疎通だのファンタジーっぽい説明が混ざってわかりにくかったが、要するに長い呪文を詠唱する事で力を溜めて、杖を使って行使する対象を選び、魔法の名前を唱える事によって溜めた力を解放をするらしい。

 余分な情報が多かった上、肝心の部分は公式サイトの魔術師用マニュアルと同じだったので、馬鹿正直に最後まで聞いて、貴重な時間を無駄にしてしまったようだ。

 まあ一応、システムメッセージにINTと魔法スキルの熟練度が0.1上昇したと出ていたので、全くの無駄ではなかったが。

 それに、戦闘以外でもステータスやスキル熟練度が上昇するという情報は、ここじゃなくてもすぐに知り得ただろうが、初めて知った情報である。

 久しぶりに話せて満足したのか、嬉しそうにしている老魔術師にもう一度お礼を言い、魔法ショップを離れ、訓練場に向かう。

 訓練場は魔法ショップとは逆側、入り口から左手の方にあるのを、並んでいる間に他のプレイヤーの会話を盗み聞きして確認している。

 そして、訓練場に続く通路を進んでいくと、突き当たりで道が左右に分かれていた。


「えーと、左が魔法訓練場で、……右は杖用の訓練場ね」


 正面にあった看板の情報を読み取り、確認するように口に出す。

 当然、左側の通路を進み、歩いていると突き当たりに扉があった。

 通路もだが、あまり扉も大きくない。

 1度に大勢では利用できないのだろうか?

 そんな疑問が頭に浮んだが、気にしても仕方ないのでとりあえず中に入ってみると、


「もしかして、1人用?」


 奥行き30m幅10mくらいの部屋で、訓練場と言うよりもどう見てもただの長細い個室である。

 奥の方に何かあるみたいなので近付いて行く。


「わ、藁人形ぉ?」


 いやいや、流石にこれはないだろ開発チーム……悪趣味過ぎるぞ。

 身長2mほどの藁人形のような物が立っていた。

 どうやらこれが魔法を使う的なんだろう。

 当初は武道の道場の様に、大勢並んでの訓練を想像していたけど、この方が集中できていいかもしれない。

 どうせ今日だけしか利用しないんだろうし。

 入り口近くまで戻り、さっそく魔法を使ってみる為、装備画面を呼び出して、ウッドスタッフとローブを装備する。

 操作を終えた瞬間、服装が麻の服から、いかにも魔法使いっていう感じのローブに切り替わるが、


「やっぱ、魔法使いの杖ってイメージじゃないよな、これ」


 と呟きつつ、手に持つ杖に目線を落とす。

 事前にSSスクリーンショットや動画で見た事はあったが、やはり魔法使いの杖というよりも棒術で使われそうな武器としての棒っぽい。

 材質は木製、長さは120cmほど、全体が均一の太さの棒で、先端部に小さな赤い宝石が埋め込まれており、近接戦闘用にか石突き部分は金属で補強されている。

 魔術師の近接戦闘能力なんて、あくまでも気休めのようなもので、近付かれてしまったら戦士どころか探索者にもさくっと殺られるだろうに、開発チームも御苦労なものである。

 他の武器と同じく武器のスキル熟練度も装備条件になっているので、それを少しでも緩和する為の苦肉の策なのかもしれない。

 気を取り直して、先程習得した魔法の呪文を記憶の淵より呼び覚ます。

 すでに、公式サイトに載っていた初級と思われる魔法の呪文は、何度もノートに書き写して記憶済みなのだ。

 ふん、学校が定期的に実施している漢字検定を毎回一夜漬けでクリアしてきた記憶力、……舐めるなよ。

 と、偉そうな事を考えているが、どれもそれほど長くなかったし数も少なかったから、出来た事だったりする。


「確か、こうだったな。『生命の根源たる炎よ、勇ましき火精の助力を受け、全てを撃ち砕く火球となれ』」


 呪文の詠唱が完了すると同時に、杖の先端部分にある赤い宝石から赤く光る線が発生した。

 ふむ、なるほど。

 杖を使って対象の選択をするって部分だけ、マニュアルではよくわからなかったが、どうやらレーザーサイトみたいなものだったらしい。

 試しに杖を左右に振ってみると、その動きに合わせるように光る線も左右に振れる。


「これは……」


 一見照準を付けやすく便利そうなシステムだが、はっきり言って最悪である。

 COは戦争が売りのゲーム、即ち対人戦がメインなのだ。

 ただでさえ、魔法には詠唱と対象の選択、力を発動させるという3工程が必要であり、前情報通りの威力があったとしても不利な部分の方が大きい。

 だというのに、それに加え相手にどこを攻撃するか丸分かりだなんて、あまりに待遇が悪過ぎてまったく笑えない。

 この光りの線が他のプレイヤーには見えない可能性もあるが、杖の先端から真っ直ぐ伸びているのだから実情は大して変わらない。

 これからそこを攻撃しますよ、と教えているのに、その場に止まってくれる親切なプレイヤーがいる筈ない。

 戦士に壁になってもらい敵を足止めしつつ、人数を揃えて避け様もないくらい魔法を集中させればこの欠点も関係はないのだろう。

 実際、それは他のゲームのボス戦でも使われている、遠距離職を活用したよくある戦い方の1つである。

 ただし、個人の判断力や身のこなし等のプレイヤースキルというものが全く関係しないその戦い方は、自分にとって最も好まない戦闘方法であり、それとは正反対のものを求めてこのゲームに参加した意味がない。

 楽しむ為にゲームをやっているのに、これでは本末転倒だ。

 ひょっとして、俺、罠職選んじゃった……?

 あー、せめて、この光りの線が杖を動かさなくても自在に動かせればなぁ。

 などと考えていると、


「……っ!?」


 その意思を読み取ったかのように、杖の先端から固定されてる様に真っ直ぐ伸びていた光りの線が、かすかに動いた。

 まさか、思考操作が出来るのか?

 早速、思いがけない発見を試す為、光りの線で近くの壁に8の字を描くよう念じてみると、まるで自分の頭と繋がりを持っているかのように、遅れる事無く動いてくれる。


「おおっ、これなら戦い方次第でなんとかなるかも」


 罠職かと思ったりもしたが、少しは希望が出てきた。

 まあ、1人で勝手に悲観的になっていただけだけど……。

 とりあえずは、思考操作で光りの線がどの程度まで動くのか確かめる。

 杖を壁に向け固定し、上下左右に限界まで動かしてみる。


「ふむ、真横が限界ね。…………とすると、杖の構え方によっては、真後ろにも魔法が撃てるな」


 後は、実際の戦闘で、自分がこの事をどこまで上手く活用できるか、だな。

 ってか、よく考えたら、まだ魔法の一発も撃ってないのに、なに偉そうに考えてるんだろ、俺。

 難しい事は後で考えるとして、今はステータスと魔法スキルの熟練度を上げないと。

 仕切り直すように訓練用の藁人形に向き直り、杖を構え、思考操作で光りの線をあてる。

 そして、


「『ファイアーボール』」


 の言葉と共に、杖の先端からソフトボール程の火球が出現し、すぐさま導火線を辿るように藁人形目掛けて飛んで行き、命中した。

 藁人形は火球が当たった直後、着弾の衝撃を受け、後ろ向きに倒れて燃え出したが、光りの粒子を撒き散らしながら消えていき、攻撃する前の位置に新たなものが現れた。

 訓練用なだけあり、すぐに復活してくれるみたいで助かる。

 ステータス画面を確認すると、今のでINTとMENが共に0.1、魔法スキルの熟練度が0.2上昇していた。

 まあ、安全に強くなれるんだから、こんなものか……。

 訓練場ならMPも減らないので、休憩をする必要もないし。

 COでのMPの回復手段は、アイテムを使うか休憩するかだ。

 休憩は、座ったり壁にもたれるなど楽な体勢をとると、ゆっくりではあるがHPとMPが回復するというもの。ただし、食事を取らず、空腹状態になると休憩しても回復はしない。


「よっしゃ、どんどん行ってみよー。『生命の根源たる炎よ、勇ましき火精の助力を受け、全てを撃ち砕く火球となれ』」


 最初に覚える物だからとはいえ、魔法のエフェクトが地味だった事に少しだけ気落ちしつつも、それを振り払うべく訓練を開始した。



―――――



 あまり好きではない作業的な行為だったが、飽きて止めたくなるのを我慢し、30分ほど魔法の発動を繰り返すとなんとかINTとMEN、魔法スキルの熟練度が5まで上昇した。

 訓練場では、どのステータスと熟練度も5までしか成長しないよう制限されているので、あとは狩りで上げるしかない。

 ただ、このまま狩りに行くよりは、近接戦闘用の杖スキルの熟練度やSTRなどのステータスも訓練場で上げておいた方がいいかもしれない。

 最初は、ノンアクティブの動物系Mobを狩るつもりだが、近付かれる前に仕留め切れず、反撃を受ける可能性もある。

 何度も訪れる退屈を我慢して上げたステータスと熟練度を、手間を惜しみ準備不足が原因で死亡し、デスペナを受けて途中からやり直しするは嫌過ぎる。


「また作業っぽくなりそうだけど、杖用の訓練場に行くか」


 通路の分岐点まで戻り、杖用の訓練場に入る。

 予想していた通り一人用の個室だったが、魔法用に比べるとかなり狭めだ。

 広さは現実の自分の部屋と同じ位なので、多分8畳くらいだろう。

 部屋の真ん中には、先程と同じ様に藁人形が立っていた。

 作業によるストレスを発散するかのように、右手で持っていた杖を両手に構えなおし、力一杯殴りつけてみる。


「あら? 吹き飛ばない?」


 魔法用の藁人形とは違い、こちらは固定式みたいだ。

 まあ、その方が連続して殴れるから嬉しい。

 1回殴る度に、リポップを待つのは時間が倍は掛かりそうだし。

 どのくらいステータスが上昇したか確認する為に、ステータス画面を呼び出す。


「STRが0.08に……、VITが0.04……、杖は0.1か」


 上昇値が少ないが、魔法と違って連続して攻撃できるので、さっきよりは時間が掛からなそうだ。

 石突き部分を使ったり、自分なりに殴り方を工夫しながらやれば、飽きも来ないだろう……しばらくは、だが。

 ん? そういえば、AGIは?

 ま、まさか走って上げるのか!?

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