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第1話

 街から遠く離れた森林フィールド、20m程先で運良く”難”を逃れた1匹のオーガが、炎に包まれ火達磨となった同族達の姿を見て騒いでいる。

 不思議な事に、その炎は周りに落ちている枯れ枝や落ち葉に燃え移らない。

 そんな不可思議な光景の中、唯一の生き残りを置き去りにするかのように炎上の追加ダメージにより、生き絶えたオーガから順に、光の粒子となり弾けて消えていく。

 んー、ラスイチだし気分を変えて違う属性の魔法にするか、こんがりローストだけじゃ味気ないし。

 単調な作業になりがちなソロ狩りでは、こういう遊び心も大切だったりする。

 どの属性の呪文にするかを決めて、ノート数ページを犠牲に暗記した呪文を記憶の淵から呼び覚まし、詠唱を始める。


「ちょっちグロくなるけど、まぁいいか……、『呼び掛けに応えよ、心冷たき氷精の吐息、その切っ先で我が敵を貫け』」


 ようやくこちらの気配に気付いたのか、無駄に騒いでいたオーガが巨大な棍棒を振り上げこちらに向かって走って来る。

 まあ、今更気付いた所で遅いがね。

 その胴体部分に杖から伸びた青白い光の線をあて、最後に力ある言霊を唱える。


「『アイスジャベリン』」


 唱え終えると共に、杖の先端から50cmほどの氷柱が4本出現し、青白い光の線を導火線を辿る様に飛んで行き、オーガの胴体部分に次々と突き刺さっていく。

 うん、突き刺さる音が実に生々しい。

 変な趣味に目覚めたら責任を取ってもらえるのだろうか?


「グァアアアァアァァ……」


 4本の氷柱によって胴体が千切れかかっているオーガは、すでに死相が見えている。

 しかし、いくら相手がリアルっぽくても所詮データで自分のやった事とはいえ、中々に残酷な光景である。

 気の弱い人間が見たなら、夜1人でトイレに行けなくなる事間違い無しだ。


「未成年もやってるんだから、少しは修正いれないとやばいだろ運営さん」


 こんな事で騒がれてゲーム自体が無くなったら、たまったもんじゃない。

 久々の当たりゲームなのだから。

 などと、どうでもいい事を考えている間に、重傷による継続ダメージがHPを削りきったようで、最後のオーガが光の粒子となり弾け飛ぶ。

 周囲に他のモンスターがいないか確認し、木に寄りかかってMPが回復するのを待つ。

 ただ待つのも手持ち無沙汰なのでステータス画面を確認してみると、今の戦闘でINTが0.02にMENが0.01、あと魔法スキルの熟練度が0.04上昇していた。

 序盤に比べると多少キャラは成長したが、今からこのペースだと、レベル制のMMOとは違い上限が低いとはいえ、目標とする理想のステータスまではかなりの時間が掛かりそうだ。

 どのゲームもだが序盤はさくさく成長する為、伸びが悪くなってくると単調な狩りと相俟ってやる気が落ちてしまう。

 そのせいか、自キャラが伸び悩みだす中程度まで成長すると無駄にキャラの作り直しを繰り返すプレイヤーもいたりする。

 序盤の急成長に自分が強くなっているという実感が持てて楽しいのだろう。

 まあ、このゲームでは狩り以外に主目的が置かれている為、そういうプレイヤーはいたとしても極々少数だろう。

 成長システム自体、最初っから作り直さなくても大丈夫なように出来ているのだから尚更である。


「今日は戦争だし早めに切り上げるか……」



―――――



 Cruel war Online。

 略してCOのcβ当選通知メールが届いたのは、ちょうど1ヶ月前だった。

 cβ募集人数3000に対し、応募は50万人以上だったというのだから、半ば諦めかけていただけに奇跡以外のなにものでもない気がしたものだ。

 実はこのゲーム、噴き出す流血や手足が千切れ飛ぶなどの残酷な表現――プレイヤーは少量の流血のみ――、更に一定以上はリミッターが掛かるとはいえ痛覚も忠実に再現されている為、初のR15指定を受けたVRMMORPGだったりする。

 そんな明らかに万人受けしなさそうなゲームに、何故こんなに応募が殺到したかというと大規模な戦争システムが原因である。

 cβの時点で数百人単位、正式オープン後は数千人単位の戦争が体験できるのだ。

 多少グロかろうが痛かろうが、ゲーマーなら応募しない筈がない。

 お化け屋敷で小走りにならなかったり、タンスの角に足の小指をぶつけても泣かない忍耐力があれば大丈夫だろう……たぶん。

 ゲームの舞台は、よくある剣と魔法のファンタジーの世界で、魔王などの強大な危機に晒されているわけでもなく、人間同士が醜く争っているという設定だ。

 もちろん、魔王はいないがモンスターは存在しているので安心して欲しい。

 ナニにかはわからないが……。

 舞台となる大陸には、四つの国が存在している。

 簡単に各国の位置関係を説明すると、正三角形の各頂点に戦争状態の三つの国――時計回りに【エステル】【セリン】【グラファ】――があり、そして、その三国中心に中立の国として傭兵国家【ターデン】が存在している。

 ちなみに、それぞれの国へのプレイヤーの振り分けは、戦争状態の三国が各800人、中立のターデンが600人となる。

 どの国になるかは早い者勝ちで、規定数に達するとその国を選ぶ事が出来なくなる。

 狩りやすいモンスターやよく取れる生産に必要な素材の違いが多少あるらしいが、ターデン以外は大した違いは無いそうなので、どの国になろうと知り合いと違う国になりさえしなければ問題無いだろう。

 まあ、コネや不正でもない限り、この倍率では知り合いと揃って当選というのはほぼ無い筈だけど。

 ターデン以外と言ったのは、ターデンは傭兵として三国のどの国の戦争にでも参加可能という特徴があるからだ。

 仮初の国とはいえ、どうせなら自国の為に戦いたいので、ターデンだけは御免である。

 あと、成長システムはレベル制ではなく、プレイヤーの取った行動によってステータスやスキル熟練度が上昇するといったものだ。

 ただし、無限に成長するわけではなく全て上限が100である。

 更に、ステータスはSTR(筋力)、VIT(生命力)、AGI(敏捷力)、INT(知力)、MEM(精神力)の合計が250までしか成長しない。

 スキルは、戦闘系スキルの熟練度は合計150までだが、生産系と娯楽系に関しては制限無しだ。

 といった具合だから、全てMAXの最強キャラの作成は不可能で、レベル制に比べれば廃人と一般プレイヤーの差が小さくなりそうで嬉しい。

 もしかしたら、そういう所も応募者の多さの原因かもしれない。

 色々なVRMMOをやった経験上、廃人との大きな差にやる気を無くすプレイヤーというのは決して少なくないから、気持ちはよくわかる。

 不明な部分があるので別にしたが、HPとMPはモンスターがドロップした食材系アイテムを調理して食べる事により上昇するらしい。

 上限は公式サイトに載ってなかったのだが、掲示板を覗いた限り、おそらく1000だろうという予想が大半を占めている。

 流石に上限無しは勘弁して欲しいものだ。

 死なない兵士は戦争の楽しさを薄れさせてしまうからだ。

 やはり、戦争はぎりぎりの緊張感がいいんだ。

 そう、ギリギリだ。あの見えそうで見えな……いや、失敬。

 後10分でcβが開始するせいか、普段では考えられないほどテンションが上がってるな、俺。



―――――



 ログインして最初に目に飛び込んできたのは、アンティークっぽい椅子に腰掛け何が楽しいのか笑顔でこちらを見つめている女性だった。

 おそらく初期設定の為のNPCだろう。


「はじめまして、これからプレイヤー登録を始めますがよろしいですか?」


「……はい」


 それにしても、このNPC、外装の作り込みが甘いのか、笑顔なのに目が全然笑ってないのでかなり怖かったりする。

 綺麗な顔立ちなだけにその威力は倍増されている。


「それでは、そちらに在ります机で、この用紙にご希望のキャラクターネームと職業、所属したい国家をお書き下さい」


「はい」


 用紙を受け取り、さっさと机に向かう。

 COで選べる職業は、【戦士】【弓使い】【探索者】【魔術師】の4種類。

 公式サイトに載っていた情報を元に簡単に説明。

 戦士は、武器の種類が豊富で唯一重装備が出来る為、狩りでも戦争でも壁に最適だが、近接戦闘特化な上移動速度が遅い。

 弓使いは、武器は弓のみで重装備が出来ないけど、魔術師と違い長い詠唱無しで遠距離攻撃が出来る。

 探索者は、戦士と同じく近接職だが武器は短剣のみで重装備が出来ない。だが、対象を状態異常にする技や自分の姿を隠せる技がある為、戦争ではゲリラ的な活躍が期待出来る。

 魔術師は、アクセサリーを除けば杖とローブしか装備出来ない。更に、魔法の発動には呪文を記憶し、間違えず詠唱する必要があるが、全職中最大の火力を誇り唯一アイテムに頼らなくてもHPの回復が出来る。

 ただ、公式サイトに載っている情報だけでの評価なので、実際プレイしてみないと本当のところはどうなのかわからない。

 ふむふむ、名前はいつも使ってるのでいいか……、職業は魔術師で……、国はエステルにしておこう。

 書き終えた紙をNPCに渡すと、それに目を通し数秒目をつぶったかと思うと、


「プレイヤー登録が完了しました」


 速いな、オイ。まあ、希望通りいったんならいいか。

 国はターデン以外ならどこでもいいけど、名前を考えるのは面倒だからな。

 ありきたりな名前だと被りまくるし、安易に神話や有名アニメの登場人物の名前などで登録してしまったら……。

 いや、そんなの個人の勝手だし、それが悪いとは言わないけどね。


「では最後に、そちらの鏡の隣りにあります扉から【Cruel war Online】の世界に移動出来ます。心の準備が出来ましたら、どうぞお通り下さい」


 と、俺の後ろを右手を使い指し示す。

 それにつられるように振り向くと、古めかしい大きな姿見と古い洋館にありそうなドアがあった。

 先程の机やNPCが座っている椅子といい、世界観を合わせたのだろうか?


「それではよい戦争を……」


 その言葉を最後に女性NPCは消えていった。


「よい戦争を、ねぇ。最後まで不気味だったな」


 妙に印象に残るNPCだったが、もう会う事はないだろう。

 そんな事より、せっかくなので鏡で自分の身体を確認する事にした。

 COでは、身長や体型は現実との違和感を少なくする為に変わらないが、顔の外装だけはそのまま適応するとプライバシーがどうだのと騒ぎ出す団体がいるので変更不能のランダム設定だ。

 これは、外装をカスタマイズする為に専用ソフトまで売り出すものが多い中で珍しい事だが、こんな残酷表現満載の戦争ゲームに萌え要素を期待するプレイヤーは少ないだろうし、実際、cβ当選者からも不満の声はあまり出てないようだ。

 俺も仮想世界での顔の美醜なんか正直どうでもいいと思っている。

 身体の動きに違和感さえなければ、ゲームを楽しむのになんの支障もないからだ。

 ちなみに、当たり前の事だがゲーム内での職業とステータスが同じなら、太っていようが痩せていようが背が高かろうが低かろうが、同じ速さで走れるし同じ重さの物を持ち上げられる様に設定されている。

 敢えて現実の能力で差がでるとすれば、咄嗟の判断力などのハードではなくソフト面での違いだけだろう。

 仮想世界のだが自分の身体なのだ、どうでもいいとは心の中で言いつつもやはり興味はあるので、多少緊張しながら鏡を覗き込む。

 と――、


「まあ、可もなく不可もなく、といったところか」


 そこには、ほぼ現実と変わらない自分の顔が写し出されていた。

 変わった所といえば、眉が細くなっているのと多少目付きが鋭くなったくらいか。

 現実とほとんど変わらない外装に一瞬嫌な予感が脳裏を過ぎったが、単なる思い過ごしだろう……。

 いつまでも鏡の前で百面相をしているのは馬鹿らしいので、さっさと扉を通ってCOの世界に向かう事にするが、歩き出そうとしてふとある事に気付く。


「あっ」


 ログインしてからなんか違和感があると思ったら、眼鏡を掛けてないんだ。

 顔を洗う時くらいしか鏡を見ないし、掛けているのが当然過ぎて普通に気付かなかった。

 あー、1度意識すると気になるな。

 あるかどうかわからないけど、アクセサリー系のアイテムで眼鏡があったら買う事にするか……。

 などと、下らない事を考えつつ、今度こそ扉を通りCOの世界に降り立った。

 これが篠宮しのみや雅人まさと改めトウヤとしての第1歩である。

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