エピローグ - 帰還勇者の凱旋
これが本当の最終回になります。
-業務連絡:突然ですが週末帰省します
SNSの新着通知が開いて、何事かと詳細を開く。
-ちょっと相談もあるので迎えのドライバー頼める?
-1人おまけがついてるんだけど。
おまけだと?いつも一人で帰ってくるのに珍しいこともあるものだ。
お姉さんのとこの姪っ子さんが、単独で祖父母のところに帰るのに
付き添い頼まれたとかそういう感じだろうか。
まぁ、相談とか気になるキーワードもあるけど別に当日聞けばいいし。
「おっけー、っと。あとは何時の電車、って聞いとけばいいか」
しかし奴がこの時期に帰ってくるって珍しいなぁ。
実家で何か行事の手伝いとかあるのだろうか?
駅の駐車場に車を止め、電車の到着を待つ。
田舎だからコンビニも近くにはないし、
時間をつぶす手段に困るんだよな・・・。
「そういやアイツのSNS、最近怪しい機器の開発解析報告とか
全然ないけどついに飽きたんかなー」
以前はボカロの声で唄う縦笛とか、3Dプリンタでの作品群とか
色々作って動画とか画像アップしてたし。
最近じゃVRヘッドセット買った、までは読んだけど
その後の活用報告がぴたっと止まっている。
何か他に打ち込めるものでも見つけたのかねえ。
暇なのでそんな他愛のないことを考えながら駅の前を
うろうろしていると、遠くに列車の姿が見えた。
「え、お・・・、ちょっ」
言葉が出てこない。
無人改札から出てきた友人、とおまけ1名さま。
しかしその光景が予想外だった。
友人、はいつも通りだ。
半年くらいぶりではあるが特に変わっちゃいない。
しかしこのおまけ様はなんだ。
「おい、ちょっとこちらに来なさい」
手招きで友人を呼び寄せ、声を落として尋ねる。
「あのねーちゃんは何だ?
どう見ても日本人じゃないが?」
人のいない所で相談したい、とのことなので
峠道の途中にある展望台で車を止める。
のども乾いたので自販機でジュースでも買って、と。
「ねー、旦那はいつも通りコーラでいいの?」
「あ、じゃ2本頼むわ。」
彼女もコーラ派かよ!彼女かどうかはまだ知らないけど。
「さて、と。では口頭弁論を始めましょうか」
人気のない展望台の片隅にある休憩スペース。
友人と彼女さん(仮)の正面に座って本題に入る。
「被告人トモヒコ、まずは申し開きはあるか?」
「なんで犯罪犯してる前提なんだよ!」
しばし周囲に沈黙が訪れる。
その後2人で大爆笑。
「あー笑った笑った。
で、まずはちょっとこの状況を説明してくれやトモやん。
彼女どこの国の人?
どうやら日本語は話せないみたいだけど」
そうなのだ。
車の中で2人でぼそぼそ会話しているのが聞こえたが、
彼女の言葉は日本語どころか、響き自体が俺の知識の中にはないものなのだ。
まぁ、英語すら赤点だったのでそれ以外の国の言語とかそもそも
理解不能なんですけどー。
あと、友人は普通に日本語をしゃべっているのに会話が
成り立っているように見えるのも非常に気になるところではある。
どこのアニメキャラだ。
「うん、彼女ね、異世界人なんだ」
「ハイ異世界頂きましたー、・・・ってマジ?」
つい冗談めかして返してしまったがそういう雰囲気ではないのはすぐわかる。
「で、どこかの路地で倒れていたとか?
そのとき着衣は?全裸とかだと家まで連れて帰るの大変だろ?」
「順応はえーな・・・」
友人が呆れた声を出すが別に驚くようなことかこれが?
オタ脳なめんなよ。
道端で突然猫が日本語で話しかけてきても真顔で応対できる気がする俺。
「いや異世界行ってたの最初は俺なんだけどさ」
「あー、なるほどそれで現地妻ひっかけて戻ってきたと」
「説明させろや!」
友人の反応が面白いので調子に乗ってたらさすがに怒られた。
「で、勇者さんよー、ちゃんとお約束の台詞は
聞いてきたんだろうなぁ?」
「もう勇者じゃねーし!で、どんな台詞よ」
「おお トモヒコよ しんでしまうとは なさけない って」
「死んだらそこで試合終了だよ!続かねーよ!」
盛り上がる俺たち2人を、横からジト目で睨んでる彼女さん。
まぁ、面白くはないだろうなぁ・・・。
「それにしても奴が異世界で勇者ってぷふー、笑えるねえ」
友人と異世界彼女を実家に送り届けたあとの1人きりの車内、
運転しながらひとり呟く。
ご両親にはどう説明するのだろうか。
そもそも異世界人って住民登録どうするんだろう。
パスポート不携帯で捕まっても強制送還で行く先ないし。
「ま、いざとなったら魔法でちょちょいのチョイ、
でなんとかなるでしょー!」
そう、翻訳魔道器というものは本来異世界にいる勇者、と
その会話対象に限定して効果を発揮するものだったらしい。
こちらの世界に帰った今、その影響は消えているはずなのだが
友人とその彼女、アーティスと言ったが、の間には会話が成立する。
異世界にいる間に友人の体質に何らかの影響があった、
そう考えるのが一番しっくりくる。
「こればっかはただの一般人の俺ではフォローしようがないしねー、
2人の愛の力で乗り越えてくれたまえあははー」
「さて」
子供たちが寝静まり、静かになった家の中で俺はPCに向かう。
あの後展望台で、1年にわたる波乱万丈な生活のことを聞いた。
隣の彼女さんがしきりにうんうん頷いていたので、
誇張ではなく、本当にあった出来事なのだあれが。
ほとんど外に出なかった、というのがアイツらしいけど
異世界の状況がそんな狭い範囲しかわからないのは
つまらないものだなあ。
面白いのでちょっと脚色してネットにアップしていい?と
聞いてみたら、個人情報さえ出さなければ気にしないそうだ。
まあこんな話まともにとらえる奴なんているわけないわな。
今まで他人の作品を読むため専用でユーザー登録していた小説投稿サイト。
初めて、「新規投稿」のボタンをクリックする。
タイトルはもう決めてある。
「召喚勇者が引きこもるのでクエストが進みません・・・っと。」
Fin
物語はここで終わりますが、小ネタのストックがちょっと残ってますので
回想録という形で少しずつ追加したいと思っています。