電気街、はさすがに異世界にはない
今回もデートします。
「いい天気だなぁ・・・」
見上げれば、雲一つない青い空。
頑張って早起きしてサンドイッチ作ってきた甲斐があった。
芝生の色が目にまぶしい住人の憩いの場、
あの広場に座って頬張ったら絶対美味しいわこれ。
しかし・・・
「はぁ・・・」
後ろを振り向いて、私は今日何度
・・・いや何十度目かのため息をつく。
そこにあるのは店、とは説明されないとわからないような
薄汚い小屋のような建物。看板すらない。
並んでいる品物がまたひどい。
何に使うのかよくわからない物体が棚に所狭しと並び。
さらに通路に無数に置かれた箱の中には
これまた何に使うのかわからない物体が無造作に積まれ
【動作保証なし、返品不可】なんて張り紙。
そもそもヒビが入ってたり、
絶対そこに本来は何かあったであろうと素人目にもわかる
あちこち欠損したバランスの悪い物体とか。
売り物とはとても思えないんだけどこれ有料なの?
そんな店中を嬉々として物色する、
彼・・・異世界から来た勇者様、やっぱりそうは見えない。
ときたま奥に座った不愛想なおっちゃん(店主らしい)と
話し込んでいるけど、その時2人とも異様な目の色を
していてまた気持ち悪い。
いつまでここにいるつもりかしら。
・・・いい加減、お腹空いたんですけど・・・。
「街に出たい、ですか?」
勇者様から提案があったのは蔵書庫に行った翌日のこと。
珍しいこともあるものだ。
毎日部屋にこもって怪しい研究ばかりしているので
たまには息抜きでも?と誘ってみたことは何度もあるけど、
そのたびダルいとか面倒臭いとか断ってきたくせに。
「いやぁ図書館でいい本見つけちゃってさぁ」
図書館ではなく王家の蔵書庫ですが。
そんな気楽に入れるところではないんですが。
「王都アンダーグラウンド探索!
おススメ裏!名店マップ最新版、
ってタイトルでがっちり掴んでくるよねハートを」
何そんな俗な本入れてるんですか蔵書庫に。
一体だれの仕業ですか。
そもそも誰が読むためにそんな本置いてあるんですか。
「はいはい、でその本に貴方の行きたい店が
掲載されていたと」
「うん、一応雑貨店という体裁になってるんだけど、
どうも品揃えの中に魔族の作った魔道器とか
沢山混ざってるみたいでさ」
え?魔族ってそれ国家が流通を制限して、
研究機関に厳重に保管するレベルのアイテムじゃ?
そのうえなんでそんなもの扱っていることを
平気で紙面に紹介しちゃっているの?
これは報告書に書いていいのかしら。
しばらく悩んだわあの後。
結局その部分は適当にぼかしたけれど。
「はぁ~堪能しました。
さすがにお腹空きましたね。
昼食どこで食べます?
牛丼屋とかないんですか?」
彼が店から出てきたのは昼食時間などとっくに過ぎた頃。
手に下げた袋には何に使うのかわからない異様な形の
アイテム類がぎっしり詰め込まれている。
大きさ的にはたいしたものはなかったのは安心した。
まがまがしい光沢を放つ大剣とかも棚にあったから
これ欲しい!とか言われたらどうしようかと思っていたわ。
「もう昼食って時間じゃないですよ。
作って持ってきてますので広場で食べましょう」
「え、料理できるんだなんか意外」
失礼だなこいつ!
「ご馳走様でした」
食後のお茶・・・ではなくまた例の黒い液体を飲む彼。
いつの間にか、持ち運べるように蓋のついたボトルを
作っていたらしい。
アイテムボックスの技術を流用したのでぬるくならず
炭酸も抜けないから完璧!とご満悦だった。
「さっきの店、いいものありました?」
いいもの、という基準が絶対普通と違うんだけど、と
心の中で苦笑しつつ彼に尋ねる。
「いいどころじゃないですよ!
もうあなたが神か!と店主さん崇めたくなるレベルで!
魔族って凄いですねホントこれ見てくださいよ!
術式の構築が洗練されてて可読性も高いし!
ほらここ!ここから流れる入力情報が
ここで増幅されてこの部分に~」
ああテンション高いわ。
本当にうれしいかったのね。
言っている言葉の意味は全く分からないけど、
生き生きと説明してくれる彼の表情にしばし見惚れる。
今日ここに一緒に来れて、本当によかった。