VRの普及にエロは不可欠なんです
第2話書きました。
彼の研究部屋へ向かう廊下、足元を白い円盤状の物体が滑るように移動していく。
「自律型お掃除魔道器・・・確かルン何とかって言ったっけ?」
これが導入されて屋敷のメイドたちがだいぶ助かったと褒めていたのを思い出す。
あとは何かの振動?だか何かを利用したと言っていた急速加熱調理器。
料理人には非常に好評だった。下ごしらえの時間が大幅に減るらしい。
それが勇者の仕事か、という点で疑問は残るけど、そんなまともな実用性のある
魔道器ばかり作ってくれていればまだ安心できるのに。
そんまことを以前率直にぶつけてみたことがあるのだが、彼曰く
「あれはただ元の世界のテクノロジーをどう魔道器で再現できるかの基礎研究。
新規性はないから面白くない」
とつれない返事。
勝手に召喚したこちら側が言うことではないのだろうけど、
この世界の平和のために役に立ってくれるつもり、
ホントにあるのかしら勇者様・・・。
「どーぞー」
ノックの返事があったので部屋に入り、驚いて立ち止まる。
研究机に向かったままの彼がこちらへ振り向いているが顔が・・・ない?
気を落ち着かせてよく観察してみると、なにやら黒い箱のようなものを
顔の前面に装着しているらしい。
「今度は何の研究ですか?」
また変なものを開発したんだろうな、と思いつつ礼儀として質問。
「これね、一応VRデバイス組んでみたんだけどね」
またよくわからない単語が出てきた。
「ぶいあーる?とは一体どのような機能をするものなのですか?」
すみません本当はあまり個人としては興味はありません。
でもほら私一応勇者の補佐官としてお給金ももらっておりますし、
勇者の行動は毎日記録として報告書にまとめないといけないのですよ。
提出して一瞥するたび、上司の顔が引きつるのが大変不本意なんですが。
私はありのまま書いているだけなんです!
「立体映像を目の前に投影して現実みたいに感じさせる魔道器だよ。
この世界では映像録画という手段がこれまでなかったから
今は遠隔地の映像をそのまま映してるんだけど。
手持ちで動けるものに撮影器繋いで今試験動作させてるところ。」
はぁ、ということは今も何かがこの屋敷の中で動きまわって、
彼の目の前に映像を送っていると。
そう説明されてみると何か有用な使い方ができるような気がしてきました。
これで勇者様の評価が上がればその分補佐官たる私の評価も・・・。
「あ、そういやさっき廊下で足元通ったんだけどさ、
結構可愛いパンツはいてるんじゃん」
は?足元・・・と言われて思い出したさっきの掃除魔道器。
つまりあれの視界が現在彼の被ってる箱の中で映像として投影されて・・・
え?え?え?
そういえば今日はスカートはいてたんだった、と自分の下半身を見下ろし
一気に頭に血が上っていく感覚。
あ、ヤバいこれ今私顔真っ赤だわ。
「でもさ、前にこの世界にはそんな下着存在しないって言ってなかったっけ?
それも白と青の縞模様って俺が言ってたのそのまま・・・」
特注で素材とか細かいデザイン指定して作ってもらったんだよ!
おかげで将来の結婚資金用にと貯めてあったなけなしの貯金が吹き飛んだけど
どうせ本来の目的で使うあてはないんだから悔いなんてないのよ!
「あ、それ外さなくていいですから!お仕事の邪魔してすみませんでした!
し、失礼しまちゅ!」
黒い箱を顔から取り外そうと装置に手をかける彼を制し、
逃げるように部屋を後にした。
「それで、この魔道器で何するつもりですか?風呂場でも覗くんですか!?」
一旦自室に戻りスカートをズボンに履き替えてきた。パンツはそのままだけど。
精神も落ち着いたところで本題に入る。
若干キレ気味になっているのが自分でもわかる。
「いや確かにデバイス普及にはエロは不可欠だけどさ、
その昔ビデオカセットの規格争いでこれが・・・」
「びでおかせっととか謎の言葉はこの際いいですから!」
こんなものが屋敷の中にあると知っては常に気が抜けないわ。
これはあれね、彼がトイレでも行っている隙に床にでも叩きつけて
粉微塵にしてやれば解決ね。
尋常ならざる私の目つきに彼もさすがにこれはまずいと思ったのか、
真面目な顔をしてまっすぐ見つめてくる。
「ごめんなさい」
あ、素直に謝った。わかればいいのよ・・・。
「少なくとも俺はこちらの世界でエロ目的でVRデバイスを使う予定はありません。
どうせ量産なんてできないので普及とか考える必要はありませんしね」
「では、何に活用されるおつもりで?」
性的な目的では使わない、という確約は得た、けれど
この人なのでまだ油断はできない。
勇者補佐官という仕事をすることでだいぶ学習できた気がする。
それを実際の社会で活用できるかどうかは未知数だけど。
「ほら、俺って勇者失格とかみんなから陰口叩かれてるじゃん?」
あ、聞こえてたのか。
普段全然気にする様子がないので、きっと都合の悪いことは聞こえない
便利なスキルを持ってるのねと感心してたんだけど、
意外に精神的には打たれ強い?
「勇者なんだからダンジョン探索でもして来い!
とか言われても困るでしょ?筋力もないし。
たぶん初回のエンカウント1撃目で死ねる」
ははぁ。そぶりは見せないけど気にしてたんだ。
確かに色白で細いけれど。
近寄るだけで汗臭い騎士団の筋肉ダルマ共よりよっぽど・・・。
それによく見ると結構好みのルックスしてるし・・・。
「で、その探索の時にですね聞いてます?」
ぼーっと彼の顔を眺めていたところに呼びかけられ、はっと我に帰る。
いけないいけない。
「ええ、ダンジョン探索ね。それでどう使うの?」
「探索するだけなら別に人間が入る必要はないわけですよ。
今日試したみたいな掃除魔道器じゃ平らなとこしか進めないから
段差に引っかかっちゃってダメですけど。」
ああなるほど、自分で動く魔道器にその撮影器を載せて代わりに探索させるのか。
いい考えかも。勇者様の戦闘力どうこう以前に、
普通の探索者の中でもダンジョンでは怪我する人絶えないし。
あれ、でも待って?
「探索中にモンスターとか出たらどうするの?」
「それなんですよねえ・・・
あと扉とかで侵入阻まれた場合もどう進ませたらいいのか・・・」
やっぱり役に立たないかもしれないこの人。
「そういえばさっき、映像録画手段は「これまでなかった」って言ってたけど、
今はあるってこと?もしかして作ったの?」
おい、なぜ目をそらす。
「まさかとは思うけど、
私のパンツの映像残ってるんじゃないでしょうねぇ~?
ちょっと、確認させなさい!」
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