パンチラは平和への第一歩?
執筆初挑戦です。
異世界召喚はよく読むジャンルですが、もしそこに自分の友人が巻き込まれたら?
そんな思いつきで生まれたこの作品。
モデルにされた友人B、悪気はないので許せ。
「・・・勇者殿、それで今度の作品にはどのような機能が?」
彼の作った物だから危険な物ではないとは思うのだが、術式の刻まれた帯状の物体を
恐る恐るつまみ上げて一応尋ねてみる。
「パンチラ抑制スカート制御ベルト!」
よくぞ聞いてくれました!という感じで興奮して答えてくる彼。
ちょっと実家で飼っている犬に似ている。
実家といえばまた見合い相手探したから休暇取って帰って来いって手紙来てたなあ憂鬱だ・・・。
そんなことはさておき。
「ぱんち、ら?・・・とはまたどのような」
王家に古くから伝わる翻訳魔道器で普段の意思疎通には問題はないとはいえ、
異世界の言葉は特殊な単語が多く、彼の発言には理解できない部分がいまだ多い。
「パンティ、ってのはこの世界にはないんだっけか。
えーとね、女性のパンツがスカートの下からちらりと見えることね」
また何かわけのわからないことを言い始めた、と頭を抱える。
「パンツってみんなが身に着けてますよね。
そんなものがちらりと?するのを抑制することに何か意味が?」
あぜん、という感じで口をあんぐり開けて固まる彼。
今更だがどう見ても世界の命運をその双肩に賭けた勇者という雰囲気には見えない。
神託って間違えることもあるんだなぁ。
完璧と信じていた神の人間らしさに触れて少し安心してみたりする。
「ほら、前に王宮の広場で俺の歓迎会してもらったじゃないですか」
なんだ歓迎会って庶民的な響き。
勇者を国を挙げて歓迎する、私も初めて体験するレベルの大規模な祝賀会だったのだが。
「その時に騎士団の皆さんが演武でしたっけやってくれましたよね」
私の反応など待たずに彼は話し続ける。
「で、最後に踊ってくれた奇麗な女騎士さん、いかにも「くっころ!」とか言いそうな」
また何か変な単語が混じったがあえて無視することにする。
「ああ、王国唯一の女性騎士にして薔薇の乙女と名高い、名を・・・」
「その人ですよ!」
それだ!と食いついてくる彼。なんだああいうのがタイプなのか。
正直、女にはまったく興味がないと思っていたのだけれど。
一度、色仕掛けが効くかと思って就寝前に胸元が大きく開いた服装で部屋を
訪ねてみたことがあるのだが、ドアの隙間から覗いた彼は哀れむような眼で一瞥した後
ふっと鼻で笑って閉められた。
自信・・・などほんのちょっとしかなかったですけど!
悔しくなんてないですけど!さすがに傷ついて枕を濡らしたわ・・・。
「でその薔薇の乙女さん、でしたっけ?スリットのあるロングスカートなのに
派手に動くものですから裾がひるがえるたびに気になってですね」
???まったく意味が分からない。スカートなんだから当然じゃないの。
「で盛り上がってきて大きく足を踏み出したところでここだ!と」
何がここだ。
「スリットの隙間に注目してたらなんですかあのカボチャパンツ!」
頭痛くなってきた。スカートの下にパンツを穿いているのは当たり前じゃないか。
それとも何か?異世界ではスカートの下には何も履かないというのが礼儀なのだろうか。
この世界でも色街ではそんな格好をするらしい、というのを下品に笑う騎士共から
聞いたことはあるけど王家主催の会でそんな格好をするわけがなかろう。
「スカートの下にパンツがあるのは当然ではないのですか?」
率直な疑問をぶつける。
「あんな色気のないものをパンツとは認めない!絶対にだ!」
叫ぶとバン!と机に拳をたたきつける彼。
なんだこの熱意。
今なら魔王討伐とか頼んだら素直に行ってくれるんじゃないだろうか。
「パンツなんて男女問わずみんな穿いているでしょう?
それと色気に何の関係があるのですか?」
はっ、と固まる彼。あ、目が泳いでいる。
その後うつむいてしばらくぶつぶつつぶやいていたがどうやら気を取り直したらしい。
がたん、と勢いよく椅子から立ち上がり熱く語り始める。
「いいですか、スカートの下にあるのは夢なんです!」
ああ、ついに気がふれたのか。
思えばまったく環境の違う異世界から突然召喚されたのだ。
平常を装っていたが精神的なストレスは想像以上に重かったに違いない。
私にも勇者の補佐官としての責任はあるが、ここは彼のためにも元の世界への送還の上申を・・・
「夢!それがカボチャパンツであるわけがないんです!カボチャパンツは・・・」
気が狂っても恨みは忘れないらしい。
カボチャパンツに親でも殺されたのだろうかこの人。
「ええと、つまりスカートの下からカボチャではないパンツが覗くことで色気を感じると」
とにかく彼の怨敵であるカボチャパンツから話題を変えねば、と決心して話を遮る。
今になって気づいたけど勇者のいた世界にもカボチャってあるのね。
こっちの世界みたいに生育すると跳ね回って収穫に四苦八苦するのかしら。
「男ってのはですね、見えそうで見えないものに興奮するんですよ」
椅子に座り直してだいぶ落ち着いたようだ。
とにかくカボチャのことはもう話題に出さないことにしよう。
「スカートの下に何があるのか!知りたい!
しかし夢が現実になったとき、それはもう夢ではなくなる・・・」
うーん、勇者を召喚したつもりだったけど吟遊詩人だったのね。
それじゃ戦闘で役立たなくても仕方ないか。
「女性は可愛らしい下着を身に着け、極力見せないような所作をすることで恥じらいが生まれる、
男性はなかなかたどり着けない夢に思いを馳せ、女性への憧れを高めていく・・・
まさにWin-Winではないでしょうか!
ご清聴ありがとうございました!」
どうやら言うだけ言って満足したらしい。
ふう、と大きく息を吐き机のコップに手を伸ばす。
彼が薬学師に調合させた真っ黒い泡だった不思議な飲み物が入っているが美味しいんだろうかあれ。
見た目が悪過ぎて試しに飲ませてくださいと頼む勇気が出ない。
「つまりパンツをもっと可愛らしいデザインにせよ、ということでよろしいのでしょうか?」
何か最初の魔道器の話とはかけ離れてきたな、と思いつつ質問をぶつける。
「それも重要なんですがここで登場するのが、この、パンチラ抑制スカート制御ベルト~!」
あ、戻ってきた。
飛躍し過ぎて気付かなかったけど一応一つの流れの話だったのね。
「これはですね、スカートのひるがえりを力場で制御して設定範囲、
まあつまりパンツなんですが、を他人の視線からブロックするという画期的な魔道器なんです!」
唖然として言葉も出ない私。
感心しているとでも思われたのだろうか解説はさらに続く。
「視線感知はですね、一応256人まで対応させましたが理論的にはもっといけます」
なんなのその中途半端な数字。100とかじゃだめなのなんで?
「特定の魔力波長の感知で限定的なブロック解除もできますので
あなただけには見せるわ!みたいな恋人プレイも可能!どうですか奥さん!」
誰が奥さんじゃ私は未婚だし恋人プレイする相手もいないわ。
それにしてもこと技術のことになると饒舌ねえこの人。
王様との謁見で「世界に平和をもたらした時、汝の望むものは何だ?」との問いに
「あ、いや別に魔道器の研究させてくれりゃ特にいらないです」
で会話が終わってしまった人物と同じとはとても思えないんですけど・・・。
「可愛いパンツ、ねえ・・・。」
彼の研究部屋を後にした後、一人つぶやく。
下着など服の下に着けるだけの物体、という常識は
異世界から来た勇者と呼ばれる人物には通用しなかった。
この世界に今までなかったものだけに、手に入れるにはどこに頼めばいいのかしら?
それを着けて「あなただけには見せるわ」なんて言ってみたら彼はどんな反応をするのかしら?
・・・などと考えたところで自分がとても変な妄想に陥ってることに赤面する。
「ああもうさっさと世界を平和にして元の世界に帰ってくれないかしら!」
試行錯誤の塊です。