はじまりはいつも……
いつも見る夢があるーー
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はじまりはいつも雨だ。
止まない雨が俺の体をひどく打ち付ける。
寒い……冷たい……。
まるで俺の命を削るように。まるで俺の心を抉るように。
生後間もない記憶だろうか。
雨のせいで目を開くことができないが、誰かが俺を運んでくれている。
やがて、“誰か”は雨から逃れるように、どこかの建物の軒下に辿り着く。
他の”温もり達”の中に優しく置かれ、“誰か”は冷えた俺の全身を優しくなめて温めてくれる。
“温もり達”と“誰か”のおかげで、体に暖かさが戻ってくる。
今にも眠りに落ちそうな、重い瞼をこじ開けると、目の前には“誰か”=黒猫の優しい微笑みがあった。
周りの“温もり達”は、生後間もない黒猫の赤子達だった。
雨の音からは解放されたが、赤子達の泣き声がひどく耳に響く。あるいは、俺も同じ声をあげていたかもしれない。
言葉を理解していない者が、言葉を理解していない者達の声の意味を理解できるはずもない。
何を訴えているかもわからない“声”は、雨よりも俺の心を抉っていくかもしれない。
「ーーー」
突然かけられた声に、目の前の黒猫はそちらを向く。
体を自由に動かすことができず、俺は声の主を見ることができない。
「ーーーーーーーー」
「ーー。ーーーーーーーーーーー」
「ーーー」
「ーーー。ーーーーーーーーーーーーーー。」
黒猫は俺達のことを優しく見つめる。
悲しそうな顔で微笑む。
何を話しているのか理解ができない……。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ーーーーーーーー」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ーーーー。ーーーーーーーーーーーーーー」
「ーーーーー。ーーーーーーーー」
「ーーーー」
「……………」
黒猫は俺の顔を優しくなめる。他の赤子達の顔も同じようになめると、最後に泣き出しそうな笑顔を俺たちに向け、くるりと雨のなかに消えていく。
ーー待ってくれ。
声はでない。黒猫は遠ざかっていく。
いや、俺も誰かに抱えられて、逆の方向に連れていかれている。
ーー待ってくれ!
ーー行かないでくれ!
再び雨のなかに連れ出される。
視界がぼやける。
雨のせいか……涙のせいか……。
やがて、焦点が合わなくなってくる。
夢の終わりが近づいている。
ーーどうして、最後に悲しそうな顔をしたのですか?
ーーどうして、最後に微笑んだのですか?
ーーどこに、行くのですか?
ーーどうして、置いていくのですか?
ーーあなたは、誰ですか?
ーーーーーーーーーーーー母さん……ですか?
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