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はじまりはいつも……

いつも見る夢があるーー


********************************


はじまりはいつも雨だ。


止まない雨が俺の体をひどく打ち付ける。

寒い……冷たい……。

まるで俺の命を削るように。まるで俺の心を抉るように。


生後間もない記憶だろうか。

雨のせいで目を開くことができないが、誰かが俺を運んでくれている。



やがて、“誰か”は雨から逃れるように、どこかの建物の軒下に辿り着く。

他の”温もり達”の中に優しく置かれ、“誰か”は冷えた俺の全身を優しくなめて温めてくれる。


“温もり達”と“誰か”のおかげで、体に暖かさが戻ってくる。

今にも眠りに落ちそうな、重い瞼をこじ開けると、目の前には“誰か”=黒猫の優しい微笑みがあった。

周りの“温もり達”は、生後間もない黒猫の赤子達だった。


雨の音からは解放されたが、赤子達の泣き声がひどく耳に響く。あるいは、俺も同じ声をあげていたかもしれない。


言葉を理解していない者が、言葉を理解していない者達の声の意味を理解できるはずもない。

何を訴えているかもわからない“声”は、雨よりも俺の心を抉っていくかもしれない。


「ーーー」


突然かけられた声に、目の前の黒猫はそちらを向く。

体を自由に動かすことができず、俺は声の主を見ることができない。


「ーーーーーーーー」

「ーー。ーーーーーーーーーーー」

「ーーー」

「ーーー。ーーーーーーーーーーーーーー。」


黒猫は俺達のことを優しく見つめる。

悲しそうな顔で微笑む。

何を話しているのか理解ができない……。


「ーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ーーーーーーーー」

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ーーーー。ーーーーーーーーーーーーーー」

「ーーーーー。ーーーーーーーー」

「ーーーー」

「……………」


黒猫は俺の顔を優しくなめる。他の赤子達の顔も同じようになめると、最後に泣き出しそうな笑顔を俺たちに向け、くるりと雨のなかに消えていく。


ーー待ってくれ。


声はでない。黒猫は遠ざかっていく。

いや、俺も誰かに抱えられて、逆の方向に連れていかれている。


ーー待ってくれ!

ーー行かないでくれ!


再び雨のなかに連れ出される。

視界がぼやける。

雨のせいか……涙のせいか……。


やがて、焦点が合わなくなってくる。

夢の終わりが近づいている。


ーーどうして、最後に悲しそうな顔をしたのですか?

ーーどうして、最後に微笑んだのですか?

ーーどこに、行くのですか?

ーーどうして、置いていくのですか?

ーーあなたは、誰ですか?







ーーーーーーーーーーーー母さん……ですか?

********************************

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