僕(しもべ)の代償
「君が“3丁目の”君かい?」
「そうだ。あんたが“ヒタム”か?」
「あぁ、そうだよ。はは、聞いてた通り、威勢がいい子だな。我が主も喜ぶ。」
「……主。」
「そう、我が主。我が魔女。君も魔女に興味があって、私を探していたんだろう?」
俺がこくりと頷くと、“ヒタム”は嬉しそうに微笑み、話を続ける。
「君も知っていると思うが、黒猫は魔女の僕となることができる。かつて、私が“ネロ”さんに導かれたようにね。」
“ネロ”。集会でも話が出た行方不明の黒猫。
話が脱線するとわかっていたが、俺は疑問を“ヒタム”に投げ掛けてみた。
「その“ネロ”ってのが、行方不明というのは?」
「あぁ、“ネロ”さんは私を主に引き合わせてくれた恩人(猫)なんだが、一月ほど前から行方かわからないんだ。消えた理由もわからないし、私に何も言わずに消えるとも思えない。何かがあったんだろうけど、死んでしまったとしても死体が見つからないのも目撃者(猫)がいないのも、不思議でね、ボスに頼んで、探して貰っているんだよ」
「そうか。悪いことを聞いた。」
「いや、いいんだ。“ネロ”さんがそう簡単に死ぬとは思えないし、そのうちひょっこりと顔を出してくれるかもしれない。」
「信頼されてるんですね。」
「もちろんだとも。“ネロ”さんは、あの『2月の黒』だからね。」
「聞いたことある~! 『2月の黒』って一年戦争の英雄“タケル”のことですよね!? あれ? でも、名前が……」
「あぁ、“ネロ”も“ヒタム”も魔女ネームだからね。我が主だけかも知れないが、僕には、黒を意味する名前が与えられるんだよ。」
やはり、話が脱線してしまったが、それに気づいた“ヒタム”が話を戻す。
「それより、魔女の話を続けよう。
--君は、魔女の僕についてどこまで知っているのかい?」
「正直、何も知らない。飯に困ることはないってことくらいだな。」
「そうだね。魔女の僕になれば、食住は保証されるね。さらに望めば、雌猫も紹介してくれるだろう。」
--モモの笑顔が少しだけひきつる。
「だけど、それは副次的なものに過ぎない。魔女の僕になる最大のメリット。それは…………」
それは?
「それは----願いを一つだけ叶えてくれる、ということだよ。」