第四の選択肢
「“3丁目の”。調子はどうだ?」
俺はボスと話をしたこともないし、ボスからしてみれば、俺はその他大勢のうちの一匹だ。
当然、俺のことなど知らないと思っていたので、話しかけられたことに驚く。
「特に変わりはないけど、商店街の魚屋の店主が倒れてエサ場に困っているくらいだな。…………です」
一応、ボスなので敬語に直すことにした。
「別に畏まる必要はない。普段通りにしてくれ。……魚屋のことだが、あまり広めたくはないんだが、大通りのバス停近くにラーメン屋があるだろ? そのラーメン屋の店主が余った煮干しをくれるらしいぞ。」
いまいち、ボスが話しかけてきた目的がわからないが、有益な情報を貰えたことは純粋に有り難い。
……。
………………。
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沈黙が続く。
耐えきれなくなって先に口を開いたのは、ボスの方だった。
「……俺は、あんまり世間話が得意じゃなくてな。前振りなんかもできないから単刀直入に言おう。お前が、ここに来て1年が経ったくらいだろう? ノラネコの寿命は短い。お前も自身の今後について、考えるべきだろうと思ってな」
「今後?」
「そうだ。ノラネコには望む望まないに関わらず、3つの選択肢がある。一つ目。ノラのまま生きるか。二つ目。イエネコとなるか。三つ目。保健所に駆除されるか。まぁ、望んだからといって簡単にイエネコになれるわけではないし、保健所は死に方かもしれんがな。運が良ければ、里親が見つかることもある。」
……生き方か。
ノラネコとして、生きることに精一杯で将来のことなど考えたこともなかった。
だが、確かにボスの言うとおり、ノラネコとして生きるのであれば、長くても3年ほどしか生きられないだろうし、将来について考えてみることも有用かもしれない。
仮にイエネコになる場合、今ほどの自由はないかもしれないが、食には困らなくなるだろう。
“モモ”に頼めば、”しょーがくさんねんせー”の家で飼って貰えるだろうか。
保健所というのは、ほとんど死に方の話だろう。
保健所に連れていかれて、戻ってきた同胞を俺は知らない。
「……色々、考えがまとまらないだろうが、もう一つ。普通のノラネコに与えられる選択肢など、その3つくらいだろうが、黒猫にだけは、もう一つの選択肢が与えられる。」
もう一つの選択肢。
さきほどのヒタムの話を聞いて思ったこと。
俺は固唾を飲んで、ボスの話の続きを待つ。
「黒猫に与えられるもう一つの選択肢。それは魔女の僕になること。」
風が俺の全身の毛を撫でた気がした。
きっと、ここから俺の物語が始まる。