キジトラのボス
「では、集会を始める!」
ボスネコの一声に全員の視線が集まる。
ボスネコは、キジトラの大型の猫で、噂では20年近く生きているらしい。
ノラネコの平均寿命が4年前後であることを考えると、どれだけの長寿だかがわかるだろう。
本当の名前は誰も知らないようだが、みんなからは親しみを込めて“ボス”と呼ばれている。
「まず、商店街の魚屋だが、お世話になっていたものも多いと思う。情報によると、倒れて入院をしているとのことだが、どうやら病気ではなく、何者かにやられたらしい。詳しい情報は次回の集会のときに伝えるが、今後しばらくはあの魚屋でメシをもらうことができないということを、認識しておいてほしい。」
やはり、魚屋の店主が倒れたというのは本当のようだが、何者かにやられたということは重症なのだろうか……。
それはともかく、他のエサ場の情報は?
(薄情に思うかも知れないが、エサ場の情報は死活問題なのだ。もちろん、魚屋の店主に感謝はしているので、いつか何らかの形で恩返しはしようと思う。)
「次に、行方不明となっている“ネロ”の件だが……」
どうやら、エサ場の情報はないらしい。
今日の集会は空振りだったかと、俺が肩を落としていると、一匹の黒猫がボスに呼ばれて壇上に上がってきた。
「知らない黒猫だな」という俺の独り言に、モモと“漆黒”は異口同音で「自分も知らない」と答える。
「“ネロ”の件は、同じ魔女の僕である“ヒタム”に聞いてみたいと思う」
「ボスに呼ばれたから来たものの、俺の知っていることなんて、たかが知れていますよ。それでも“ネロ”について知っていることと言えば、我が主に俺を紹介してくれてのが“ネロ”でした。我が主には100匹を超える僕がいますが、“ネロ”の序列はそれなりに高い方でした。詳しいことは伝えられませんが、序列を決める要素に僕を増やした人数が影響するため、“ネロ”は常に僕の勧誘をしていました。我が主の僕になれば、食事に困ることもないので、俺もですが、“ネロ”も集会には出ていませんでしたね」
“ネロ”という黒猫も“ヒタム”も見たことがなかったのはそういう理由だったのか。
人間からすれば、猫は死ぬときに姿を消すように見えるらしいが、同じ猫からすれば、死体の発見はたやすい。
保健所に連れていかれたり、車にひかれたりした場合でも、目撃者(猫)が必ずいるはずなので、行方不明になるというのは珍しいはずだ。
「……そうか。“ヒタム”、来てくれたことに感謝する。諸君、“ネロ”が行方不明の理由がわからない以上、気を付けようもないかもしれないが、心に留めておいてほしい」
その後、ボスの「解散」の掛け声により、集会は終了となった。新しいエサ場の情報がなかったのは痛いが、魔女について少し話を知ることができたのは有り難かった。
“ヒタム”に更に詳しい話を聞きたい……そう考え、“ヒタム”を探そうとしていると、
「“3丁目の”。ちょっといいか?」
俺からしてみれば、話したこともない遠い存在--ボスに呼び止められた。