漆黒の翼
モモの家でメシを貰ったあと、俺たちは集会所に向かった。
メシを貰った手前、モモを置いていくわけにも行かないので、一緒に集会所に向かうのは仕方ない。
“しょーがくさんねんせー”の隙をついてモモを連れ出すのに苦労をことも飲み込もう。
集会所には、すでに多くな猫が集まっていた。
ここで情報を得るかどうかは、ノラネコにとって死活問題なのだから当然だろう。
「あいつ、またモモちゃんと一緒にいやがる」
「あぁ、“3丁目の”だろ? なんだってあんなやつがいいんだか……」
本来、イエネコであるモモは集会にでる必要はないのだが、どういうわけか集会への出席率が高い。
というか、俺が知る限りほとんど毎回いる気がする。
モモは綺麗な外見をしているだけでなく、ただのノラネコに対しても気軽に話しかけるので、周りからの人気が高いのも頷ける。
そのせいで、周りからの陰口や因縁をつけられる俺の身にもなってほしいが……。
「おーい、“3丁目”ー! ももちゃーん!」
駆け足でこちらに向かってくるのは、俺の唯一の友達と言えるノラネコである。
昔はイエネコだったらしいが、何かの事情で捨てられてしまったらしい。
本人はすでに割り切っているらしく、当時のことを思い出させるような素振りはないのだが、
「あぁ、“漆黒”。相変わらず元気そうだな」
「“漆黒の翼”くん~! 久しぶり~! 元気~?」
当時に付けられた、“漆黒の翼”という名前がえらく気に入っているらしく、未だにその名を使っている。
ちなみに、彼には当然翼はないし、俺と違って黒猫でもないので、元飼い主は何を思ってその名を付けたのか、疑問である。
「二人とも来てたんだね。そうだ、知ってるかい? 商店街の魚屋の主人が倒れたらしい。今は店も閉めてるし、あそこでメシを貰ってたノラにとっては死活問題だよ。今もあちこちで、その話題で持ちきりなんだ」
「そうだったのか。さっき行ったが、店が閉まってるのは見た。今後のエサ場を考えないといけないな」
「“3丁目”くんは、うちで食べればいいよ」
「いつもご馳走になるわけにもいかないだろ」
「いいよなー、“3丁目”は。僕もモモちゃん家で猫缶を食べたいよ」
「ごめんね。本当はみんなにもご馳走したいんだけど、そういうわけにもいかなくて……」
「……大方、揃ったようだな。では、集会を始める!」
いつの間にか集会所の中央に、この界隈のボスネコが立っていた。
ボスネコの一声により、全員が雑談をやめ、居住まいを正す。
俺の今後のエサ場が決まる(かもしれない)重要な会議が始まる。