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白猫の“モモ”

結論から言うと、商店街でメシは手に入らなかった。

いきつけの魚屋が閉まっていたのである。


「腹減ったな……」


ひとりごちてみるが、メシが出てくるわけではない。

他にはどこでメシが食えるだろうか……。

悩みながら歩いていると、前から白猫が歩いてくるのが見える。


「あ、“3丁目”くん! こんにちは~!」


俺に気づくと白猫が笑顔で近づいてくる。

白猫の名前はモモで、メスのイエネコだ。

宝石のような赤い目をしており、白毛と赤目のコントラストが美しい。

非常に稀少で貴重な個体らしく、飼い主に大事にされており、いつもシャンプーのいい香りがするが、


「あぁ、モモか。今日はどうしたんだ?」

「今日は集会でしょ? ママの目を盗んで、抜け出してきちゃった。」


案外、やんちゃなのである。


「“3丁目”くんは、何してるの~?」


モモは屈託のない笑顔で話しかけてくる。

ただの雄猫だったら、ころりと惚れてしまうかもしれないが、俺はそうはいかない。

むしろ、モモといると他の猫に睨まれることもあるので、あまり関わりたくないのだが、


「メシを食べようと思ったんだけど、魚屋があいていなくて。次にどこに行くか考えていたところだよ」

「じゃぁうちに来る~? ママがきっとご飯をくれるよ♪」


ということがあるので、無下にもできないのである。


******************


というわけで、二つ返事で応じた俺は、すれ違う雄猫たちの視線を感じながらもモモの家にたどり着いた。


「あー! ももちゃん、いたー! また勝手に外に出ちゃってー! ……あれ? またくろちゃんもいるー!」


とは、モモがママと呼ぶ飼い主の言葉である。

詳しくは知らないが、“しょーがくさんねんせー”という種族らしい。


『にゃー』と精一杯、可愛らしさをアピールして鳴いてみせる。メシのためならば、多少のプライドは捨ててみせよう。


「くろちゃん、お腹すいてるんだね! 猫缶持ってきてあげるよー!」


よし!

「良かったね、“3丁目”くん」と、俺の思わずのガッツポーズに、モモが優しい目を向ける。


“しょーがくさんねんせー”は、ドタドタと家の奥に走って行く。

彼女は俺のことを、“くろちゃん”と呼ぶ。

俺の外見からそう名付けたのだろうが、安直すぎる。

とはいえ、否定する気もないし、否定したところで通じないので無視をする。


しばらく、待っていると“しょーがくさんねんせー”がお皿にあけた猫缶を持ってくる。

俺の前に置き、「待て!」とニコニコしながらこっちを見ている。

「犬じゃないんだから……」と思いつつも、機嫌を損ねるわけにはいかないので、仕方なく待つ。


一秒、二秒……五秒…………十秒………………。


「食べてよし!」

そろそろ、しびれを切らして食い付こうかと思った矢先に、OKが出た。

俺は、今日はじめての食事に、我を忘れてがっつく。

やはり、モモの家の猫缶は旨い!

きっと普通のノラネコでは、ありつけない高級品なのだろう。

これを毎日食べているモモを羨ましく思いながら、皿を舐めあげる。

何がそんなに楽しいのか知らないが、モモはニコニコしながら俺を見ている。

“しょーがくさんねんせー”もニコニコしている。

つられて、俺も笑顔になる。


平和な時間が過ぎていく。

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