白猫の“モモ”
結論から言うと、商店街でメシは手に入らなかった。
いきつけの魚屋が閉まっていたのである。
「腹減ったな……」
ひとりごちてみるが、メシが出てくるわけではない。
他にはどこでメシが食えるだろうか……。
悩みながら歩いていると、前から白猫が歩いてくるのが見える。
「あ、“3丁目”くん! こんにちは~!」
俺に気づくと白猫が笑顔で近づいてくる。
白猫の名前はモモで、メスのイエネコだ。
宝石のような赤い目をしており、白毛と赤目のコントラストが美しい。
非常に稀少で貴重な個体らしく、飼い主に大事にされており、いつもシャンプーのいい香りがするが、
「あぁ、モモか。今日はどうしたんだ?」
「今日は集会でしょ? ママの目を盗んで、抜け出してきちゃった。」
案外、やんちゃなのである。
「“3丁目”くんは、何してるの~?」
モモは屈託のない笑顔で話しかけてくる。
ただの雄猫だったら、ころりと惚れてしまうかもしれないが、俺はそうはいかない。
むしろ、モモといると他の猫に睨まれることもあるので、あまり関わりたくないのだが、
「メシを食べようと思ったんだけど、魚屋があいていなくて。次にどこに行くか考えていたところだよ」
「じゃぁうちに来る~? ママがきっとご飯をくれるよ♪」
ということがあるので、無下にもできないのである。
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というわけで、二つ返事で応じた俺は、すれ違う雄猫たちの視線を感じながらもモモの家にたどり着いた。
「あー! ももちゃん、いたー! また勝手に外に出ちゃってー! ……あれ? またくろちゃんもいるー!」
とは、モモがママと呼ぶ飼い主の言葉である。
詳しくは知らないが、“しょーがくさんねんせー”という種族らしい。
『にゃー』と精一杯、可愛らしさをアピールして鳴いてみせる。メシのためならば、多少のプライドは捨ててみせよう。
「くろちゃん、お腹すいてるんだね! 猫缶持ってきてあげるよー!」
よし!
「良かったね、“3丁目”くん」と、俺の思わずのガッツポーズに、モモが優しい目を向ける。
“しょーがくさんねんせー”は、ドタドタと家の奥に走って行く。
彼女は俺のことを、“くろちゃん”と呼ぶ。
俺の外見からそう名付けたのだろうが、安直すぎる。
とはいえ、否定する気もないし、否定したところで通じないので無視をする。
しばらく、待っていると“しょーがくさんねんせー”がお皿にあけた猫缶を持ってくる。
俺の前に置き、「待て!」とニコニコしながらこっちを見ている。
「犬じゃないんだから……」と思いつつも、機嫌を損ねるわけにはいかないので、仕方なく待つ。
一秒、二秒……五秒…………十秒………………。
「食べてよし!」
そろそろ、しびれを切らして食い付こうかと思った矢先に、OKが出た。
俺は、今日はじめての食事に、我を忘れてがっつく。
やはり、モモの家の猫缶は旨い!
きっと普通のノラネコでは、ありつけない高級品なのだろう。
これを毎日食べているモモを羨ましく思いながら、皿を舐めあげる。
何がそんなに楽しいのか知らないが、モモはニコニコしながら俺を見ている。
“しょーがくさんねんせー”もニコニコしている。
つられて、俺も笑顔になる。
平和な時間が過ぎていく。