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俺が君を好きなわけ

作者: 尖角

 いつからだろう、君のことを「好きだ」って思うようになったのは。

 いつからだろう、「もう一人でも大丈夫だ」って気が付いたのは。

 いつからだろう、「死ぬのが怖い」って考えるようになったのは。




 「元気ですか?」

 今の僕じゃなく、君と再会していない僕が一番最初に言うであろうセリフ。

 声にできない感情で、言葉に表すことのできない気持ちを率直に。


 今思えば、なんで昔の僕はあんなにも我儘だったんだろう。

 傍にいられるだけで幸せだったはずなのに、気が付いたら夢の中でも君を探していた。

 きっと君をずっと“僕のもの”にしたかったんだろうね。

 我儘で自己中でどうしようもないクソ野郎が考えそうなことさ。

 今の僕ならわかるよ。縛り付けるんじゃ何の意味もないってことくらい。



 「あのさ、今更だけどなんで私とまた付き合おうと思ったわけ?」

 リビングでテレビを観ていたら突然君が訊いてきた。

 今日は付き合ってから3年目のという特別な日だから、どこかで食事でもしようか?って朝起きて訊いたんだ。そうしたら、君は外に出かけるよりも家でゆっくり再放送の映画でも観ていたいって笑って答えた。……僕はそんな君のことを忘れられなかったから、また付き合ったんだよ。

 そう答えようとも思った。だけど、それだけじゃないのを僕は知っているから。



 最初に付き合って別れた理由なんて忘れた。他愛もない喧嘩だったから。どうでもいいことで口論になって、どうせ君の方から謝ってくるだろうと思っていたらいつの間にか連絡すら取らない関係になっていた。 すごく後悔したんだ。

 男なのに泣いて、未練タラタラってのが自分でも嫌というほどわかるほどに。


 “女々しい”とはあの事を言うんだと今なら笑って説明できるよ。


 君と再会したきっかけは今でもはっきり覚えている。

 毎年冬に行われる中学の同窓会に何年も参加したことのなかったのに気まぐれで出席したら、そこで話の流れで君が独身ってことを知ったんだ。僕となんであの頃付き合ってくれていたのかはわからないけど、とにかく君は可愛くって優しくって僕を虜にしたんだ。だから、僕はすぐさま君に告白した。それなのに僕の我儘で別れることになって、そのまま別々の高校に入学することになってしまって。でも、それからも僕は君を忘れることができないまま、ただ何となく毎日を生きてきた。刺激を求めて他の子をデートに誘ったこともあった。だけど、“やっぱり違う”って違和感が他を拒絶する。

 なんでこんなにも一人の子を忘れることができないんだろうって不思議にすら思った。

 だけど、考えれば考えるほど君を好きになっていく自分がいた。


 そこで聞いた君が独身っていう事実。

 君のことが好きだからわかる。君には僕なんかじゃなくもっといい人がいるっていうこと。だけど、君は独り身だった。なんでかはわからないけれど、僕には神様がくれたチャンスにしか思えなかったんだ。


 だから、僕は同窓会が終わるのを待たずに家に帰って、昔の携帯を探した。

 君の番号は削除していなかったはずと思い、慌てて充電器を取り出してコンセントに差す。携帯が立ち上がる時間が待ち遠しい。こんなにも時間の流れを早めたいと思ったことはないだろう。

 「あった!」

 僕は思わず声を出した。

 だけど、それと同時に手が震えだす。

 これは寒さからくる震えじゃない。

 何年振りだろう。君の名前を見たのは。

 何年振りだろう。君と話したいと思ったのは。

 何年振りだろう。君が元気か気になったのは。




 ……僕はポケットからスマホを取り出して君の番号を入れた。もしかしたら、もう繋がらないのかもとかそんなことを考える余裕すらなかった。手汗まみれになったスマホが僕の思考回路をパンクさせるから。



 電話をかけて6コール目くらいだろうか。

 「はい」


 小さく声が聞こえた。

 僕は久々の君の声に感動して、泣きそうになる。


 「どうしたの?」 君が続けた。


 僕はびっくりした。

 君が「もしもし」でも「誰ですか?」でもなく、「どうしたの?」と言ったから。だから、僕は思わず訊いてしまった。


 「君の声が聞きたくて……」

 「もしかして、俺の番号消さずにいてくれたの?」


 「うん」


 「……ありがと」


 「うん」


 「風邪とか引いてない?」


 「うん」


 「元気にしてた?」


 「うん」


 「……………」



 僕はそこで言葉に詰まった。

 衝動に駆られて電話をしたはいいけどまさか君が出てくれるとは思いもしなかったから。

 伝えたいことは山ほどあるのに君を前にすると言葉にできない。

 驚き、不安、込み上げる“好き”という確かな想い。




 僕を夢中にさせた君への想いは、なかなか先に進ませてはくれない。


 すると、君が口を開いた。

 「同窓会は行った?」


 「うん」


 「そっか、 みんな元気だった?」


 「うん」


 「あなたも元気にしてた?」


 「うん」


 「わたしさ、  ……今でも好きなんだよ?」

 「別の誰かと付き合っても、あなたとならって」

 「ずっとずっとどこかであなたのことを……」



 「ねぇ、 なんで私達別れちゃったのかな……」

 「ごめんねって、今言っても遅いかもしれないけれどごめんね」




 僕はそれを聞いて一つしか言葉が出てこなかった。


 「ありがとう」


 涙が言葉に交ざる。


 「ありがとう」


 涙が言葉になる。


 「ありがとう」


 気持ちが一緒だった驚き。


 「ありがとう」


 気持ちが一緒だった喜び。


 「ありがとう」


 君を好きでよかったという気持ち。


 「ありがとう」


 君を忘れないでよかったという気持ち。


 「ありがとう」


 心から君を“好きだ”という気持ち。





 「もう……何、 ありがとうって」

 「今度さ、ごはんでも行かない?」

 「私も言いたいことあるし……」





 それから電話で色んなことを話して、離れ離れになっていた距離、空いていた時間を必死になって埋めた。そして、僕は今君の隣に座っている。



 「あのさ、今更だけどなんで私とまた付き合おうと思ったわけ?」


 「…どうしたの?急に」


 「んー別に?」「ただ、好きでいてくれた理由って何だったのかなーって」


 「なんだよそれ、  んー なんだったかなー」




 僕は恥ずかしくって誤魔化した。

 単に、、死ぬとき看取ってくれる人を考え時、君がいいなって思っただけ。


 そういうと重いかな?だけど、それが僕の想いなんだよ。






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