明日死んで異世界に転生するとして、今日俺は最期に何をする?
母親は俺が3歳の時に出ていった。父親の事は何も知らない。
15の夜、高校受験を目前にたった一人の家族だった祖母が死んだ。
突然の事だった。俺がいつも通り普通に帰って、いつものように言った、ばあちゃん、今日の晩飯何?っていういつもの問い掛けに、返ってくる言葉は無かった。
葬式とかそういった事は、俺には分からないから、親戚が全部やってくれた。
俺の今後について、式の後に話し合われたらしい。
とりあえず話がまとまるまで、俺は、祖母と暮らしていた部屋に帰る事になった。
12年祖母と過ごした、1Kの小さい部屋だった。
俺は覚えて無いけど、ここに来たときは、ママ、ママと言ってよく泣いていたらしい。
忘却に支配された部屋で、不意に一筋、涙が流れた。
突然の事で、次々に事が運んでいき、疲れきって帰ってきて、葬式の間は一度も泣けなかったのに、涙が止まる事がなかった。
いつの間に寝てしまったのか、その晩、ばあちゃんが夢に出てきた。
ばあちゃんが言うには、俺は明日事故で死ぬらしい。
ばあちゃんは、あの世でその事を知って、俺になんとか伝えたくて夢枕に立ったらしい。
ばあちゃんは、俺に何度も謝ってきた。
高校に行かせてあげられなくてごめんね。
一人にしてしまってごめんね。
贅沢させてあげられなくてごめんね。
何も言えずに逝ってしまってごめんね。
助けてあげられなくてごめんね。
俺の方こそ、ばあちゃんが苦しんでいるのに、間に合わなかった。
遊んでないで、もっと早く帰れば助けられたかもしれない。
もっと、ばあちゃんの事大切にしていたら、こんな事にならなかったかもしれない。
俺が生まれなければ、ばあちゃんはもっと長生き出来たかもしれない。
それでも、俺が居て幸せだった、そう言ってくれる、ばあちゃんがいて、俺は幸せだった。
明日、俺は死んでしまう。
それは変えられない運命だと言う。
それでも俺は、ばあちゃんに愛されて、最高の人生だったと言える。
また、いつか会えたら良いね。
そう言った俺に、優しく笑ってくれるばあちゃんに、手をのばした所で目が覚めた。
俺は、明日死ぬかもしれない。
夢の事だから、明日になってみないと本当の事は分からない。
死んだとして、もしかしたら、今流行の、異世界に転生してハーレムライフ、なんて事もあるかもしれない。
明日にならないと分からないけど、神様、どうせなら、俺がばあちゃんを幸せにする世界の主人公にして下さい。
-
俺は、その日の内に、ばあちゃんとの想いでの部屋を片付け、次の日に、葬式で初めて会った親戚に引き取られた。
ばあちゃんや、俺の母親の悪口ばかりを言う、その家を飛び出し、異世界転生を夢見て、踏み切りを越え電車に飛び込んだ。
こんな俺の事を世間は何と言うだろう。
若くして自ら命を絶った、バカな若者と哀れむのだろうか。
電車のダイアを乱した迷惑な奴と蔑むのだろうか。
何と言われようと、ただ、俺は、もう一度ばあちゃんに会いたかったんだ。
もっと一緒に居たかったんだ。
異世界転生なんて、そん事、あるわけ無いと分かっていても。
-END-