札付きの悪
「お前ぶっ殺すぞ!」
知らない少年に俺は怒鳴った。
「ごめんなさい」
少年に謝られたが俺の怒りは収まらない。
「自転車を壊しておいてそれだけかよ!」
俺は少年の胸ぐらを掴んで強く引っ張った。
「服が伸びてしまうのでやめて下さい」
少年は俺にかなり怯えているようだ。
「お前お金持ってるか?財布出せよ!」
店の駐輪場には俺と少年しかいないので誰も見ていない。
「分かりました。出しますよ」
渋々、少年が渡してきた財布の中身を俺は確認した。
「千円札一枚とレシートしか入ってないな!じゃあ財布ごと頂くからな!」
俺は渡された高そうな財布を入れようと鞄の口を開けた。
「それだけは取らないで下さい」
少年は財布を相当気に入っていたようで今にも泣き出しそうだった。
「いいだろう?これくらい!」
俺が高く売れそうな財布を返すわけがない。
「分かりました。諦めますよ」
鞄に財布を入れた後に少年の首の後ろにタグを見つけた。
「お前服にタグ付いてるぞ!ダサいな!」
服のタグを取り忘れる人なんて俺は見たことがないので笑ってしまった。
「もういいですか?急いでいるので」
少年は暗い表情をしながら走って店の外のトイレに入っていった。
「お前ぶっ殺すぞ!」
怖そうな少年に僕は絡まれた。
「ごめんなさい」
謝ったが少年の怒りは全然収まらなかった。
「自転車を壊しておいてそれだけかよ!」
自転車に全く触れていないので怒鳴られる理由が分からない。
すると少年は僕の胸ぐらを掴み強く引っ張ってきた。
「服が伸びてしまうのでやめて下さい」
今、着ているTシャツが伸びたり破れたりしたら返品出来なくなってしまうので僕はかなり焦った。
「お前お金持ってるか?財布出せよ!」
反抗したらTシャツが危ないので応じるしかなかった。
「分かりました。出しますよ」
僕は財布を渡して少年はその財布の中身を確認し始めた。
お金はほとんど入っていないので僕は少しだけ安心していた。
「千円札一枚とレシートしか入ってないな!じゃあ財布ごと頂くからな!」
財布ごと取られるなんて予想していなかった。
千円札と500円で買った財布はいいがレシートが無いとTシャツの返品が出来なくなってしまう。
「それだけは取らないで下さい」
僕はお願いしたが少年は返そうとしなかった。
Tシャツは二万円するので僕は泣きそうになっていた。
「いいだろう?これくらい!」
友達に自慢するために買ったTシャツで、あまり気に入っていないのでいいわけがない。
でも、レシート無しでも返品可能かもしれないことに気付き、諦めることにした。
「分かりました。諦めますよ」
僕がその場から立ち去ろうとした時、見えないようにしていたTシャツのタグが少年に見つかってしまった。
タグを切ってしまうと返品が出来なくなるのでいつも付けたまま着ているのだ。
「お前服にタグ付いてるぞ!ダサいな!」
高級な服をタダで着ることが出来るのならば、いくらダサいと言われても平気だ。
「もういいですか?急いでいるので」
返品は買ってから24時間以内と決まっていて、もうすぐ過ぎてしまうので急がないといけない。
僕は洋服店の外のトイレに走っていき素早く着替えてTシャツを返品しにいった。
レシートが無くても無事に返品することが出来た。
この店では何度も返品しているので怪しまれないうちにターゲットを他の店に変えることにする。
何回も返品してタダでお洒落を楽しむ僕は悪い男だ。
でも、どうしてもやめることが出来ない。