白い部屋に少年はいた。
デビュー作です!色々至らない点があるとは思いますが、読んでいただければ幸いです。短いですのですぐ読み終わります!
白い部屋に少年はいた。いや、部屋という呼び方が正しいのか正直分からない。だだっ広い空間と言った方が正しいのだろう。端から端まで100Mはあるだろか。
その部屋に少年は一人でいた。
何時からそこにいたのか、何時までここにいるのか、それはわからない。気づいた時からそこに少年はいたのだ。
この空間に時計はないので、正確な時間は少年にはわからない。
少年の日課は「窓の手入れ」だ。この白い空間には無数の窓がある。窓はそれぞれ大きさが違っており、日に日に数が増えている。そう言えば、最近は大きな窓が増えるようになってきた。
窓ごとに見える景色は異なる。少年は一つの大きな窓に立ち、その景色を見た。都会の街の喧噪が映し出されている。人々がせわしなく街を行き交い、忙しそうにしている。何をそんなに急いでいるのだろうか?
少年は大きな窓から目を離すと、隣にある小さな窓に目を移した。公園の砂場で大泣きしている子供が映し出されていた。その隣にいる大人の女性が何かを話しながら、必死に子供をなだめている。少年には彼らの言葉は理解できないため、何を話しているのかわからない。おそらくはこうだろう。子供は公園で女性と一緒に遊んでおり、転んだか何かをして、膝を擦りむいてしまったのだ。
擦りむいた傷自体は大したものではないが、小さな子供というものは些細な事ですぐ大泣きしてしまう。少年は「窓の手入れ」をしていく内にそのことを学んだ。また、一緒にいる女性がおそらくハハオヤという存在であることも、日々の「窓の手入れ」から想像がついた。
「この手入れは簡単だな」
少年は窓に手を触れる。子供の擦りむいた膝辺りに。その途端、擦りむいた傷が治り、子供が泣くことを止めた。その様子を見たハハオヤはびっくりしたような表情をしたが、すぐに笑顔を見せ、子供と手を繋いで公園を後にした。おそらく、イエという場所に帰るのだろう。イエとは、彼らが住んでいる固定式の建物のことだ。朝や昼間は色んな場所へと出かけるが、夜になると彼らは決まったイエへと帰って行く。彼らのほぼ全員は決まったイエを持っているらしい。少年にとってはこの白い空間がイエということになるのだろうか?
「手入れ完了っと」
少年は満足気に小さな窓から離れる。色んな窓に触れていく内に気づいたことだが、少年が窓に触れると、窓に映る景色に何らかの変化が起こる。本当に些細な変化のこともあるし、景色自体を一変させてしまうこともある。
その少年の行為により、景色の中の彼らは喜んだり、悲しんだり、一喜一憂しているのだ。
少年はある仮説を立てた。おそらく一つ一つの窓の景色には何らかの解決すべき問題があるのだ。それを手に触れることによって解決させていくことが今の自分に課せられた役割なのだろう。
ならばそれをやるだけだ。
その行為を少年は「窓の手入れ」と名付けた。
先ほどの子供の擦り傷のように、簡単に問題の原因がわかる場合もあるが、難しい場合もある。
少年は先ほどの大きな窓に目を移した。都会の街の喧噪、彼らは忙しいそうに街を歩いている。片手に機械を持ち、それを耳に当てながら何かを話している男性や、鏡を持ちながら歩き、顔に何かを塗りたくる女性が目立つ。
この景色は何が問題なのだろう?最近、このように街全体の無数の彼らを映した景色が多くなった。前までは彼ら一人一人を映した景色が多かったのに。
みんな忙しそうに歩いている・・・・・・そうだ! みんなが歩くのを止めるようにすればいいんじゃないか?
少年は窓をひっかくように触れる。大きく縦にひっかき傷を入れるように。すると景色の中の人々は立ち止まり空を見上げた。その後、急いで建物の中に入ろうとするものが増えた。少数ではあるが、手に持っていた鞄をガサゴソさせて、小さい物体を取り出し、自分の真上に広げるものいた。それは少年が発生させたものから身を守るべく、彼らが発明した道具らしい。カサという名だと最近少年は知った。
少年は頭を掻いた。想定していたより街を歩く彼らの数を減らせなかった。この程度では彼らの問題を解決することは出来ないようだ。ならば。
少年は両腕で窓を大きく揺らした。これでもかと。
効果は抜群だ。彼らは歩くのを止め、その場にうずくまっている。立ってはいられないほど、景色の中の世界が揺れているようだ。大きく叫んでいる人や不安そうな顔をしている人もいるが仕方ない、これがこの窓の問題を解決する方法だったのだから。これで彼らは忙しく歩く必要はなくなった。
「手入れ完了だな」
少し、疲れを覚えた少年はその場に座り込んだ。そう言えば、彼らは疲れを感じると横になって目を閉じて休むことが多い。それも長時間だ。ネルという行為が彼らにとっての休息行為のようだった。あんなに長時間休まなくてはならないなんて、彼らは弱いなと少年は思う。目を閉じている間、暇じゃないんだろうか?
少年は気分転換に、お気に入りの窓を見にいくことにした。
彼らの中には、少年の存在に気づいている者もいる。窓の中で起こる様々な出来事が少年の手によって起こっているという事実に。
この窓の景色はそういう者達が集まっている場所を映しだしている。少年はこの光景が大変気に入っている。そのため「手入れ」は行っていない。景色の中の彼らは跪き、少年の名を呼ぶ。場所によって方法は微妙に異なるようだが、一様に少年に対して敬意や尊敬を示している。少年は自分のために跪く彼らを見ていると何とも言えない高揚感に見舞われる。
少年はうすうす気づいていたことがある。前まで小さなことしか彼らに干渉できなかった。しかし、日を追うごとにつれ、社会全体に影響を及ぼすまでに自分の力は成長している。そのため、大きな窓が開かれるようになったのだ。どんどんこの力を強めていき、いずれはこの白い空間全てを埋め尽くすほどに窓は増え、彼らの全てを管理できるようになるのだろう。
少年はそのために存在している。
この白い空間はそのための装置。
彼らは少年をこう呼んでいる。
カミ、と。
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